鳴り物入りの「真実のゴッホ」展にようやく行った。「先の予定なんてわからない」と言っているうちに予約券は日曜の特別券も含め完売。美術館の前を通る度、中を覗いては列を見て諦めていたが、残り1週間と少しとなったためチャレンジ。列は短いように見えたが、実はテントの中で蛇行。結局1時間近く待つ羽目になった。
また、中もかなりの人混みだ。東京の国立近代美術館等に比べると会場が狭いため、第1室から第7室まで満遍なく満員電車だ。これはロンドンの美術展にあっては珍しい。また、東京も第1室は混んでいても、たいてい後半の部屋は空いているものだが、こちらの人は議論しながら絵を眺めるのが好きなようで、滞在時間も平均で1時間以上のように思われた。
恒例、最初から最後まで一通り見て、気に入った絵を眺める、という作戦に出るも、上述の人混みで、ままならず。結局選んだのは、まず死の直前(1890年5月)に描かれたというバラの花(最初は白いブーゲンビリアかと思った)。この絵は初めて観たが、純粋に非常に美しい。
ついで恒例の糸杉(1889年6月)。近くで見ると、絵の具の盛り上がりが彼が本当にこの世に存在していたことを語ってくれる。
そして最後、死の本当に直前(1890年7月)に描いたこの絵。この直後に自殺を図った人の絵とは思えない、大変に美しい絵(残念ながら3枚いずれの画像も少し青と黒が強い。実物は本当に優しいパステルグリーン色であった)。
そして、この部屋に、題名にした「Ces toiles vous diront ce que je ne sais dire en paroles」という言葉が書かれていた。手紙から取った言葉だろうか。フランス語の美しさも相俟って、心に迫る。
この絵(複数)が私が言葉で語れないことをあなたに語る-というけれど、実はVincentは非常に多くの手紙を書き、それが出版もされている。今回の展覧会のもう一つの目玉も、その、Vincentが弟Teoや姉に宛てた手紙である。Vincentはオランダ人だが(勿論弟も)、やり取りはフランス語だ。「Mon cher frere, Merci pour ta lettre...」これだけで既にちょっと目が潤んでしまう。天才ではあるけれど困ったちゃんの兄と、それを献身的に支える実務能力に長けた弟。Teoが居てくれたからこそ、短い人生ではあったけれどVincentはこれだけの素晴らしい作品をわれわれに残すことができたのだ。
タラスコンやルーアンへ行くのに汽車に乗るように、どこかの星へ行くには死に乗ればよい、と言ったVincent。今はTeoと美しい星の国で安らかな余生を送っているだろうか?