「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

英国に留学して放射線研究に取り組む日本人医師ブログ

動物実験ライセンスの取得 ~Animal (Scientific Procedures) Act 1986~

2016-10-15 | 英国大学院博士課程に関して
英国には動物実験に関する法的規制として「Animal (Scientific Procedures) Act 1986」があります。この法律によって、動物実験に携わる研究者はパーソナルライセンス、プロジェクトライセンスを取得しなければなりません。そして、そのためには法的講習および研修を受けて、試験を突破する必要があります。

今週、私はBelfastの片隅で、この講習・研修を受けてきました。日本では主に大腸菌、マウス培養細胞、ヒト培養細胞を用いた実験ばかりをしてきました。マウスを個体レベルで扱ったこともありましたが、英国と同様の法的講習・研修を受けた記憶はありません。施設レベルでの講習は受けたような気もしますが、アレがそうだったのでしょうか。よく判りません。したがって、「英国ではこういう要請もされるのだな」と、かなり新鮮な気持ちで臨んだのでした。
他の受講者もほとんどクイーンズ大やアルスター大などのBelfast周辺の研究機関の人たちでした。私の所属する研究センターからは2人でしたが、お隣の実験医学研究センターからはかなりの人数が受けていました。したがって、クイーンズの関係者がかなり目についたのでした。

当たり前ですが、動物実験には動物福祉(Animal welfare)の高度な倫理観、技術、知識が要求されます。不要・不当な苦痛を実験動物に与えてはなりませんから。そして、常に生命犠牲を最小限に留めながら、最大の実験成果を目指さなければなりません。私も、放射線研究の関係で、どうしてもマウスを用いる必要がありました。もちろん、福島では「ヒト」への健康影響が懸念されているわけですが、だからといって、ヒトを用いて放射線照射実験が出来るわけがありません。すなわち、実験動物を用いなければならないのでした。

しかし、まあ、私は解剖学、生理学、麻酔学などの知識をそれなりに有していたので助かりましたが、講習ではかなり高度な英語が早口でバンバン流れていきました。ただでさえあまり聞き取れないのに、生物学的専門用語が単語レベルとしては難解過ぎて(TOEFL IBTだと110点以上、IELTSだと8.0以上相当ではないでしょうか?)、英語が母国語ではない者にとってはかなり苦痛でした。スライドや配布資料を読みながら、「この講師、何を言っているのだろう?」と常に全力で追いかけていました。リスニングだけでは( ゚д゚)ポカーンという感じになってしまうのですね、それはまだ仕方ないのかもしれませんが。とくに法律関連は、何を言っているのか、さっぱりでした。はっきり言って、猛勉強が必要です。
さらにマウス、ラット、ラビットなどの実験動物をどうコントロールするのかという研修もありました。やはり、それぞれの動物ごとにコツがあります。ラビットを扱ったのは個人的には初めてでした。もちろん、かわいかったのですが、当然ですが、実験動物なので最期は……。

私は医者ですから、創薬、疾患病態の解明などの医科学研究に実験動物を使うのは仕方ないと思っています。化粧品などのコスメ関係の研究はどうでしょうか、個人的には微妙に感じますが。
分子生命科学の現場では、実験動物として、大腸菌、酵母、線虫、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、マウス、ラットなどを用いるのが一般的ですね。種の差はもちろんありますが、マウスのような哺乳類レベルになると遺伝子などもヒトとかなり似ていますし、「ヒトの代わり」としてある程度までは考えることが出来ます。それでもヒトと他の哺乳類の差はかなり大きいので、最終的には臨床研究も欠かせません。日本が誇るiPS細胞もありますが、これも個体レベルでの検証・実験には使えません。

動物福祉・倫理について述べるのは、ここでは止めておきますが、重要な問題と思っています。
我々は、他のあらゆる生命の犠牲の上に、今日の繁栄を作り上げてきたのです。
それは医学とて例外ではなく、私たちはふとした瞬間に立ち止まって、振り返るべきなのでしょう。