「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

英国に留学して放射線研究に取り組む日本人医師ブログ

ブリティッシュ・エアウェイズのストライキ、航空機内の線量、和文論文

2016-12-18 | 雑記
英国の航空会社である『British Airways(ブリティッシュ・エアウェイズ)』がHeathrow Airport(ヒースロー空港)を中心にしてクリスマスにストライキを行うというニュースがあり、クリスマス休暇を楽しもうとする人たちに動揺が走っています。「まさか、この時期に」という利用者たちの困惑もあって、会社経営陣も「Heartless(心ない)ストライキである」と労働組合を非難しています。
私自身の旅程には直接的な影響はなさそうですが、いきなりヒースローで立ち往生になる可能性があるとしたら嫌だなあと想像して、なんともいえない心情になりました。友人宅でクリスマスディナーを頂いていた際に、たまたまストライキの話になって、普段からテレビなどを観ていない私は驚いたのでした。情報をちゃんと収集していないことを反省しました。

私は、航空会社の従業員の金銭的な労働条件はともかく、職業柄、彼らの労働衛生には深い関心がありました。
とくに長距離フライトをこなすパイロットや客室乗務員の方々は高高度を移動するのが仕事なわけですが、その際には宇宙放射線などの被ばくがあります。一見華やかに見えますが、実は原子力発電所作業員と同様に職業被ばくのリスクが高い職種なのです。
昔から航空パイロットは「生涯累積発がん率が高いのではないか」とする仮説があって、交絡因子の可能性も含めて様々なデータや解釈があり今もなお議論の余地があります。放射線被ばくなど諸々の作業環境を鑑みて、彼らの年間航空時間はある程度制限されているのですね。航路線量計算システム (JISCARD)など、航空機に搭乗する人たちの放射線被ばく線量をモニタリングするシステムは色々と整備されています。
というわけで、私は放射線被ばくの研究をしている関係で、とりわけ航空業界の産業医学にはずっと関心があったのでした。留学期間中に、もしも可能であれば、国家試験である「労働衛生コンサルタント」の資格を取得しようかなと考える程度には。将来は、放射線などの環境刺激に曝される恐れのある労働者を守るために産業医学・衛生医学分野にも携わりたいとちょっと思っています。

最近、年末に向けて、色々と動いています。一つ一つ、仕事を片付けています。
その途中で、「あれもしたい」「これもしたい」と思うことが沢山出てきて、一日50時間くらいあればいいのにと思う時もあります。近頃、なぜか無性に和文論文を書いてみたい衝動に駆られています。この調子ではいつまで経っても仕事が終わらないのですが。

日本人研究者にとって論文とは「欧文(かつては主に独文、今は主に英文)」と「和文」の二種類があります。
後者は、正直言ってrubbish(あえて訳しません)という感じで、多くの日本人研究者から顧みられていません。私が知る限り、和文論文を掲載している科学ジャーナルで「impact factor(インパクト・ファクターという科学業績を示す指標の一つ)」を有するのは我が国最古の科学ジャーナルの一つである『薬學雑誌(YAKUGAKU ZASSHI)』しかありません。私もかつて薬學雑誌に論文を発表したことはありますが、あまり評価はされないでしょう。やはり論文と言えば、普通、欧文論文のことを意味するのですね。
ただ、それでも日本語で研究成果をまとめるのはそれなりに有意義なことなのではないかと、最近、感じています。
今、幾つか英語で論文を書いて投稿していて、もうすぐ採択されるだろうと思われます。もちろん、世界を相手に戦っているのでそれはそれでいいのですが、同時に日本の一般の方々(研究者ではないけれども関心をもっている人たち)にももう少し親しみやすい媒体があればいいのにとも思いました。その点、和文論文ならば、幾つかの難解な専門用語や表現や概念を英語で知らなくても、比較的取り掛かりやすいのではないかと。ということで、時間があったら、和文論文という形で自分の仕事をすこしまとめてみるのいいかもしれないと感じています。

このブログは日本語で書いていて、出来るだけ難しい専門的な内容は避けて書いているつもりですが、とある読者の方から「先生が何を言いたいのか、難しくて判らないですは~」と言われたことがありました(私も方言はよく判らないですは~)。出来るだけ平易で判りやすく書きたいといつも思ってはいるのですが。私の文章力は低くて、なかなか本も形に出来ずにいるくらいですから。まあ、もっと精進することにします。
和文論文はともかく、日本語の運用能力も大事だと、いつも自戒してはいるのです。