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「ゲハイム!」ペリスコープ〜シカゴ科学産業博物館 U-505展示

2023-05-16 | 軍艦

シカゴ科学産業博物館展示のU-505について解説しています。

艦首から艦尾にかけて外装中心の「サブ・ファクト」シリーズは終わり、
ここからはU-505艦体の外の展示を紹介していきます。



そこでまずこの写真を見ていただきたい。
皆様は潜水艦をこんな角度から実際にご覧になったことがあるでしょうか。

シカゴの科学産業博物館のU-505は、Uボートという敵国ドイツの軍艦を、
大変な労力と資金その他を惜しげもなく注ぎ込んだ結果、
世界最高レベルの軍艦展示として内外に高く評価されることになりました。
それは、こんな角度から艦体をみることができるという
この一例にも如実に現れています。

それにしても、この完成度の高さには、これまでアメリカ国内で
さまざまな展示艦を見てきたわたしにとっても、驚きでしかありません。

ここに至るには、関係者の熱意から始まって、議会への働きかけ、
政財界への資金調達への努力、技術の結集、
さらには展示についてのノウハウの一切合切と、
何一つ欠けても辿り着くことができるものではないということを、
地方で朽ちていったり、経済上の理由で維持できなかったり、
できてもボランティアに多くを頼っているケースからも知っているからです。

ここでふと疑問に思ったことがあります。

自国の軍艦ですらここまで完璧な姿で残っている例はほとんどないのに、
なぜ敵国ドイツ軍の潜水艦に巨額の資金をかけて保存したのか。

と、いうことです。

しかし、わたしもそうであったように、その疑問は、現地に足を運び、
Uボート捕獲のストーリーを実際に知ることによって氷解するでしょう。

つまり、この永久保存は、Uボートを「生け捕り」することを計画した
ギャラリー大佐と、彼が率いたタスクフォース22.3の快挙を
後世に伝えるための記念であり、彼らへの勲章
という意味があるのだと。

しかもおかげで、後世の我々は、おそらくドイツ人も見たことないレベルの
Uボートの「生きた証」をこうやって目にすることができるのです。



例えばこの写真ですが、これは冒頭の写真と同じく、
U−505の艦尾の下から真上を向くと見える景色となります。

■ 二連装2㌢対空銃-twin 2cm Anti-Aircraft Gun



いくつかの装備は艦上から外されて、
観覧者が間近に見ることができる場所に設置してあります。



二連装の対空機関砲のマウント数はどこにも明らかでなく、
「複数」とだけ書かれていたり、数には全く触れられていなかったり。

「サブ・ファクト」でも触れたように、
潜水艦にとって最大の脅威である航空機と戦うために
対空砲はいくつか装備されていましたが、
U-505の対空機関砲装備には、1942年11月11日、
イギリス空軍の水上機によって負った重大なダメージが関係しています。


艦長だったペーター・ツェッヒ中尉が総員退艦を命じたところ、
士官たちが命令を聞かずにボートのダメコンを行い、
その結果なんとか母港に帰ることができたという、あのときの爆撃ですね。

どのくらいすごかったかというと、爆弾を落とした水上機が
その爆風で墜落してしまった
というくらいの凄まじい破壊力で、
潜水艦本体の修理には丸6ヶ月かかったというものでした。

このとき墜落した航空機の部品を拾い上げたU-505の乗員は、
それで乗員のために斧の形の帽子につけるピンを作ったりしています。

それはともかく、そんなことがあったので、修理の際にU-505は
新たに二連装の2㌢対空機銃2門に加えて、
3.7cmnの対空砲1門も新しく拡張した司令塔に装備されました。

航空攻撃の恐ろしさを身に沁みて知ったからですが、
結局、この後U-505が先頭で対空砲を発射する機会はありませんでした。

タスクフォースの攻撃の時は、まず爆雷でダメージを受け、
それが致命的だったのでいきなり総員退艦せざるを得ず、
浮上したUボートから脱出するのに精一杯で、
航空機を攻撃どころではなかったからです。



新しくマウントした対空機関砲を掃射するU-505の乗員。



2cm(20mm)FlaK 38ラウンド

U-505は最後の哨戒のためにこの高爆発性の2cm弾を
8,500発装填していました。



しかし、おっと、アップにしたら大きさがよくわかりませんね。
右のアクリルケースの中に収められているのが弾薬です。



後ろにはアメリカ軍の戦闘機の写真が・・・・。

■ Seeing Above the Surface ペリスコープ



U-505の展示室は、大きなドーム状の上部から進入し、
壁沿いに造られた通路をUボートを見ながら降りていくようになっていて、
ボートと同じレベルには、司令塔とその先から出た
ペリスコープだけが切り取られた形で展示されています。



ほんもののペリスコープはドームの高さの関係で外に出せないので、
ここにレプリカとして実物大が展示されているのです。

ここでは潜望鏡を実際に除く「チャレンジ」ができるそうですが、
その前に、U-505が搭載していたペリスコープ実物を見ましょう。

Close look at an original German U-Boat (U-505) Submarine Navigation Periscope,



これはナビゲーションペリスコープです。
スコープを上げたとき、白だと水平線に溶け込みやすいため、
工場出荷時は白く塗装されています。

しかし、多くの場合、艦長の判断でボートの上部艦体の色に合わせて
グレーに塗装することが多かったようです。

【材料】

ドイツはメインチューブにブロンズではなくステンレス鋼を使用しましたが、
必要なだけ複雑な形状に成形しやすかったことから、
先端には混合素材を使用していました。

【光学】

光学系は、真上から水平線下10フィートまで
100フィートの視野を提供します。



ところで、Uボートにはご覧のように二つ潜望鏡があります。

側面にあるレバーで操作されるナビゲーションペリスコープの隣が
アタック・ペリスコープというのですが、ナビゲーションの先端は
攻撃用よりも視野が広く、そのため
「バルバスシェイプ」=球根状になりました。

【震動の低減】

潜望鏡チューブの周りを潜航によって水が通過すると、
チューブそのものが振動し、このため視界が悪くなります。

振動を抑えるためにボートは低速で進むことを余儀なくされますが、
ドイツではこの問題を低減するため、ワイヤーケーブルを
コルクスクリューのようにチューブに巻き付けていました。

これで振動が減らせたんですね。

【チューブ】

ペリスコープの長さは7.7m、メインチューブの直径は180ミリ強、
重さは415キログラムとなります。

チューブは使用時に司令塔の天井にある、水と圧力のブッシング
(配管と接続先の間に取り付ける固定金具)を通過します。
これは油圧ピストンと同じ仕組みです。

メインチューブはこの目的のため、また腐食を防ぐため
ステンレス鋼でできているのです。

【行方不明の潜望鏡】

戦争が終わった時、アメリカ海軍はU-505の潜望鏡を
二つとも取り外してその光学技術を研究しまくり、
まだ試験中だった他のユUボートでスペアとして使ったりして、
色々やっているうちに
どこに行ったかわからなくなりました。
(おい)

1954年にU-505が展示のためにシカゴに到着したのですが、
アメリカ海軍はついぞ潜望鏡を見つけることができませんでした。

ほぼ50年経過した2002年になって、そのひとつ、
ナビゲーションペリスコープの方が、
サンディエゴの海軍研究所にあることが判明し、
科学産業博物館はこれを取り寄せてここに展示することに成功しましたが、
アタック・ペリスコープが現在どこにあるのか、わかっていません。

適当なことやってんじゃねーアメリカ海軍。



これがU-505の実際の潜望鏡のビューイングヘッドです。
ビューイングヘッドはドイツ語でEinblickkopf といいます。

【ビューイングヘッド・フィルター】

レバーを動かすと、接眼レンズの前にオレンジ、あるいは
ダークグレーのフィルターをかけることができました。
太陽が逆光の時、あるいはもやのかかった状況で使用します。

【ビューイング・アングル(視野角)】

レバーで先端のレンズを回転させることによって、
艦長がボートを浮上するかどうかを決定する前に
頭上に敵機がいないかどうかを確認するために使用しました。

また、ナビゲーション目的で星を観察することもできます。

【倍率】

レバーでは倍率を1.5Xから6xまで変えることができます。

【復元】

この潜望鏡がアメリカ海軍から回収されたとき、
ビューイングヘッドと先端はすでに数回塗装されていました

潜望鏡を展示するために行う保存作業中に、昔ドイツで行われた
塗装の層が、現在のものの下にあったことがわかったので、
学芸員は、オリジナルのドイツでの修復の層が
どれくらい残っているのかわからないため、
あえてペイント層を残し削らないことにしました。

塗り替えられた色がその都度違うのが明らかになりましたが、
ドイツでは黄褐色、そして明るい色が塗られ、
アメリカ海軍がスペアとして使った時に、灰色に塗られていました。

【ハンドグリップ】

ハンドグリップは(映画でもお馴染みですが)、潜望鏡を使用しないときに
スコープを収納チューブに下げるように折り畳まれます。
これを折りたたむと、潜望鏡は回転させることができました。


Uボートに搭載されている全ての洗練された機器の中で
潜望鏡はおそらく特別だったかもしれません。

Uボートが敵の船に忍び寄り、水中で魚雷を発射する方法は
戦争の初期、絶大なる有利をドイツにもたらしました。

潜航中、ユーボートの乗員は潜望鏡を使用して水上を見て、
忍び寄り、駆逐艦を避けて商船を標的にしました。



【U-505の二つの潜望鏡】

二つの潜望鏡のうちアタックペリスコープは主に日中、
魚雷発射に備えて水面にいる敵艦艇を標的にするために使用されました。

ナビゲーションペリスコープは、対潜哨戒艇や航空機を避け、
夜に星を頼りに航行する場合に使用されました。

どちらの潜望鏡も司令塔から操作されました。



説明がなく、単に背景として写り込んでいました。
ドイツ語なので、艦内でみつかった潜望鏡のマニュアルでしょうか。



Tafelってドイツ語でテーブルですよね。
これもドイツ語のマニュアルっぽい。



ヘッド部分の設計図・・・?



使用例



使用例その2

それはそうと、この人の髪型は一体どうなっているのだろうか。



修理中?


Geheim!(ゲハイム)=「秘密!」

【Hinteres TurmーAngriffs Sehrohr Ata SR C/2】
後部砲塔 攻撃ペリスコープ Sta SR C/2 



U-505 のアタックペリスコープには、
水平線のみに向けることができる小さな固定レンズがありました。
乗組員は主にこの潜望鏡を使用して、
日中に攻撃する船を探して表面をスキャンしました。

水を切り裂くアタック ペリスコープ チューブの部分は非常に細いため、
水面にほとんど跡が残らず、連合軍の船が発見するのが困難でした。

しかし、チューブのサイズが狭いということは、
潜望鏡に入る光の量が制限されるため、
つまり、デバイスは夜間にはあまり効果的ではありませんでした。

【Vorderes Turm -Nachatluftziel-Sehrohr NLSR C/8】
前方砲塔 - 夜間空中ターゲット -
ナビゲーションペリスコープ NLSR C/8 



U-505 の航空航法潜望鏡には、回転して真上、
または地平線に沿って下の眺めを提供できる大きな丸いレンズがあります。

U-505 の乗組員は航空航法潜望鏡を使用して上空で連合軍の航空機を探し、
表面をスキャンして連合軍の船を探しました。

レンズが大きいほど、このペリスコープに入る光が多くなり、
夜間の使用に最適です。

晴れた夜には、潜望鏡は星のパノラマビューを提供し、
乗組員はそれを使用してボートを航行できました。
空中航法潜望鏡は、攻撃潜望鏡の視野が最も限られている
夜間の攻撃中にも使用されました。



ところで、上から見たレプリカの司令塔の中では
こんな光景が常に展開しております。


攻撃用と航空航法用の潜望鏡を備えたコンニングタワーが再現されており、
海上をパトロールする気分を味わえます。

高解像度液晶ディスプレイを搭載した潜望鏡で、
魚雷の発射や自艦の方位確認、浮上判断など、時間との勝負に挑みます。

攻撃用潜望鏡では、"艦長"になって敵のターゲットを特定し、
ロックオンすることを目指します。



航空航法用潜望鏡では、"ウォッチオフィサー "となり、
重要な視覚・航法情報を探し出す。航空機や敵の駆逐艦に発見される前に、
港を特定したり、潜水することができれば、パトロールは成功です。

しばらく待っていたのですが、この二人の艦長と見張士官が
いつまでたってもパトロールを止めようとしなかったので、
あきらめてまたの機会にしようと立ち去りました。

まあ、またの機会はおそらくないんですけどね。



現場では気づかなかったけど、
怖い顔してハッチを上ってくる水兵さんがいる・・・。

これはきっとゲハイムだな(意味不明)

続く。





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3 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
戦勝国の余裕 (Unknown)
2023-05-17 08:03:54
>そこでまずこの写真を見ていただきたい。皆様は潜水艦をこんな角度から実際にご覧になったことがあるでしょうか。

乾ドックに入っている船を渠底から見ない限り、この視点で見ることは出来ません。この船は750トンの小船ですが、それでもこうして見ると、結構大きかったでしょう。船は結構デカいです。

>Uボートを「生け捕り」することを計画したギャラリー大佐と、彼が率いたタスクフォース22.3の快挙を後世に伝えるための記念であり、彼らへの勲章という意味がある。

Uボートを生け捕りにし、機密保持のため、捕虜を確保したことを本国に知らしめないという、明らかな国際法違反があった訳ですが、堂々と博物館にしてしまう図々しさ(笑)ドイツとも話はしたんだろうと思いますが、戦勝国の余裕なんでしょうね。
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たぶんチャチ (ウェップス)
2023-05-17 09:32:04
Uボートの潜望鏡を覗く写真や映像では、常に片手で側面のハンドルを操作しているので何かな?と思っていたら、どうやら上下角を操作する物のようですね。近代の潜望鏡ではハンドグリップで調整できます。いつでも折りたためるようにできるだけ手を離さない方が好ましいために、ハンドグリップに極力機能を集中させています。
体験用展示品は外見がチャチですし、子供向けに低いのでおそらく(かつての船の記念館の物のように)海面の映像が映されている程度の物でしょう。子供に譲って正解です( `ー´)ノ
リアルの外部を見ることができるのはてつのくじら館の潜望鏡ですが、昨今は感染予防のため覗くことができませんでした。緩和されていればいいのですが・・・
返信する
TBFアベンジャー (お節介船屋)
2023-05-17 17:59:54
>後ろにはアメリカ軍の戦闘機の写真が・・・・。
戦闘機ではなく、霊撃・爆撃機アベンジャーでした。
対潜機としても改造使用されたので背景写真として使用されたのでしょう。
ちょっと見て頂くとキャノピーが3座で後端が7,6㎜機銃銃座となっていることが分かります。
初陣はミッドウェー海戦で出動6機中5機が撃墜されました。その後雷撃、爆撃機主力として約9,000機製造、活躍しました。

参照海人社「世界の艦船」No291

>ペリスコープの長さは7.7m
ⅩⅪ型は11m潜望鏡2本となりました。工業力が進んだ結果でしょう。
Ⅶ型は前部潜望鏡は発令所、後部潜望鏡は司令塔使用だったそうです。被発見防止で司令塔を小さくしたので司令塔内の混雑を避けるためとのことです。
Ⅸ型は少し大きく司令塔も大きくできたので2本とも司令塔内装備となったのでしょうがこの時代長い潜望鏡が生産できず、司令塔装備が主流だったようです。
参照海人社「世界の艦船」No471
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