夜また夜の深い夜 | |
桐野 夏生 | |
幻冬舎 |
過去に読んだ桐野作品でも、劇中小説を手法として採ったものはあったので、手紙形式で物語を進行させていく本作の形式には違和感はないのだが、その形式がさほどの効果を生んでいるとも思えない。
主人公の少女の数奇な境遇や、リベリアとモルドバ出身の2人の孤児少女たちとの逃避行活劇は、それなりに高揚させられるものはある。
が、終盤明らかにされる主人公の母の正体も、あまり新味がなく今更感あり。
むしろリベリア出身少女が語る、壮絶な生い立ちにこそがこの小説の白眉なのかもしれないが、いかんせん登場人物の独白という形でセリフで処理されてしまうのが惜しい。
やはりここは小説家の言葉で語って欲しいところだ。
桐野ワールドへの期待は大きいだけに、これくらいだとちょっと物足りないというのが正直な印象。