若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

クレーマー・クレーマー ~ 行政が全てを受け入れるわけじゃないんですよ ~

2019年05月31日 | 地方議会・地方政治
面白いニュースがありました。

「窓口対応お断り」50代男性に通告 佐賀・嬉野 - 毎日新聞
======【引用ここから】======
 窓口対応はお断り――。佐賀県嬉野市が市内に住む50代男性に対し、村上大祐市長名で一部を除く市役所での窓口対応を拒否する通知を出していたことが、弁護士などへの取材で判明した。識者は「行政が窓口対応を断る通知を出すのは異例で、通知に法的根拠は全くない。大人げない対応だ」と話している。

3月13日付の通知書で、市は男性に対して「貴殿の市に対する質問、意見などは、回数、所要時間、内容において、市の業務に著しい支障を与えてきた」と指摘。そのうえで▽市への質問は文書に限り、回答は文書で行う▽住民票や戸籍、保険、年金の窓口交付以外の対応は文書の受け取りだけに限る▽電話には一切応対しない――の3点を通知した。

======【引用ここまで】======


50代男性と嬉野市役所職員が電話で揉めて、役所窓口でも揉めて、カッとなった職員がとっさに
「もう来るな!!!」
と言ったのではありません。
「貴殿の市に対する質問、意見などは、回数、所要時間、内容において、市の業務に著しい支障を与えてきた」
と役所側から通知を出して「やりとりは文書で。窓口対応はしません」と伝えたのです。
口頭ではなくわざわざ文書通知という異例の対応だからこそ、こうして記事になったわけです。
ヘビーなクレーマーや何を言っても通じない人に対し、事実上の出禁対応をしている例は聞いたことがあるのですが、文書で通知したのは初耳です。

この通知文からは、嬉野市役所がこの50代男性一人に対し、窓口や電話での対応に相当な時間と人手を割いてきたんだろうと推測できます。
口頭でのやり取りでは埒が明かないと判断し、
「市への質問は文書に限り、回答は文書で行う」
という対応策を示したのでしょう。

【役所が間違えてるパターン】

さて。

住民と役所の職員が揉めた原因が、役所側のミスだったパターンは少なくありません。

法改正に沿った運用ができておらず旧法のままだった、とか、単純に集計を間違えてる、とか、システムエラーで印字されてる金額を間違えてる、とか。
そういう時は、さっと「お前じゃ話にならん、上を出せ」と言いましょう。

この場合なら、法改正未対応の経緯や金額の積算についての説明がありミスが分かるまでで30分、ミスを認めさせて訂正・謝罪させるのに30分、計1時間あれば話がつくんじゃないでしょうか。
もちろん、窓口対応お断りなんて通知は来ません。

【長時間かかるパターン】

次に、私がパッと思いついた「住民と職員が揉めて長時間かかるパターン」をいくつか挙げてみましょう。

1.都道府県庁や国の出先機関、あるいは国会議員に会って言うべき内容を、市町村役場の窓口で要求する。
2.自身の希望を通すため、住民が職員に対し違法な処理をするよう要求する。
3.引っ越してきた住民が、元自治体と現自治体との対応の違いを責め続ける。
4.住民の要求→職員の説明→「でも…」→「ですから…」→・・・の無限ループ。
5.弁護士に相談し裁判すべき民民の争いを「市役所が俺の側に立って解決しろ」とゴネる。
6.自分は何かしら公金からの補助を受けられると思い込んでいて、そういう補助メニューも何もない事を伝えると激昂する。
7.「みのもんたがそう言っていたからできるはずだ!」と言って職員の話を聞かない(『朝ズバッ!』全盛期)
8.天の声に導かれている。


・・・住民が役所に行った時に対峙する窓口職員は、基本的に、権限や裁量をほとんど持っていません(正規の職員ではなくパート職員や委託業者の可能性もあります)。そのため、住民が道理として正しいことを主張していても、現行の法律・政省令・条例・規則や、予算の制約を越えることはできません。

なので、
「○○ができないなんて、おかしいじゃないか!」
と何度言っても、最終的には
「法律でそうなっているので、それはできません」
「そういう事業は予算化されていません」
と言われます。役所が杓子定規と揶揄される所以でありますが、仕方のないこと。
役所の職員が内心「国の法律に問題があるよな~」と思っていたとしても、役所の職員ではどうしようもありません。

この場合、いくら粘っても要望は通りません。
1時間粘れば1時間の無駄、3日粘れば3日の無駄になります。
役所で長時間苦情を述べる時間と体力があるのなら、その時間と体力をもって地元選出国会議員の事務所に駆け込んで「法律がおかしい」と文句を言った方が、何らかの成果を得られる可能性は高くなるんじゃないでしょうか。

【何時間聞いたら努力と認められるのか】

さてさて。
冒頭の新聞記事には、識者コメントが掲載されています。

======【引用ここから】======
行政法に詳しい本田博利・元愛媛大法文学部教授は「行政機関として、窓口対応を断るのではなく、きちんと話を聞いて納得してもらう努力をすべきだ」と指摘している。【池田美欧、竹林静】
======【引用ここまで】======


取材を受け識者コメントを求められた元教授は、記者から今回の件の内容や背景を詳しく聞いたのでしょうか。
私が知りたいのはこんな当たり前すぎる一般論ではなく、今回のようなイレギュラーな事態を踏まえた
「どのくらい対応したら窓口対応を断って良いのか」
の基準・目安なんですよ。

仮に、嬉野市役所の通知文にある

「貴殿の市に対する質問、意見などは、回数、所要時間、内容において、市の業務に著しい支障を与えてきた」

が事実だったとしましょう。
50代男性と役所側は、既に何時間も幾日にもまたがって、窓口や電話で対応してきたはずです。このせいでカウンターが埋まり、他の住民を長時間待たせる事態も多発したことでしょう。
この元教授は、何時間話を聞いたら「納得してもらう努力をした、窓口対応を断っても仕方ない」と認めてくれるのでしょうか。気になるところです。
(それとも、元教授が基準・目安となる考え方を述べていたのに、記者が取材内容を記事にする過程で省略してしまったのでしょうか。)

※追記 参考になる文献
○対策の核心は「交渉を長期化させないこと」 法的対応も躊躇しない姿勢が重要 表参道法律事務所・弁護士 横山 雅文
=====【引用ここから】=====
 不当要求行為者となった人物に対しては通常の住民対応ではなく法的対応をとらなければならない。
 ここにいう法的対応とは、「不当要求行為者の言動を業務妨害行為と客観的に評価し、それを回避するための必要な措置を躊躇なく取ること」である。
 業務妨害行為を回避する措置といっても何も難しいことではない。職員が適切な初期対応をし、説明を尽くしているのに納得できないとして、毎日のように長電話を掛けてくる、あるいは、来庁して窓口に長時間居座って帰ろうとしないというような場合は、電話を切る、あるいは退去させるということである。端的に言えば、「彼らとの交渉を打ち切る」ということである。

=====【引用ここまで】=====
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