若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

食料供給困難事態対策法案~自由軽視・市場軽視~

2024年03月03日 | 政治
1年以上間隔が空いての記事投稿となります。

さて、こんな記事を見かけました。

農家に増産指示、罰金も 食料危機時の対策法案、概要判明(共同通信) - Yahoo!ニュース
======【引用ここから】======
農林水産省が食料・農業・農村基本法改正案と併せて今国会に提出する食料供給困難事態対策法案(仮称)の概要が8日、分かった。コメ、小麦、大豆などが不足する食料危機時に政府が供給目標を設定。農家に増産計画の届け出を指示できるとし、従わない場合は20万円以下の罰金を科す。

対策法案は、食料安全保障の確保を柱に据えた基本法改正案の内容を具体化する役割を持つ。2月下旬にも国会に提出する。

コメ、小麦、大豆のほかに「国民が日常的に消費するもの」や「国民の食生活に重要なもの」を政令で「特定食料」に指定し、出荷・販売業者にも供給量を調整する計画の届け出を指示できるとした。

======【引用ここまで】======

記事タイトルでは
農家に増産指示、罰金も
とあるのに、記事本文では
農家に増産計画の届け出を指示できるとし、従わない場合は20万円以下の罰金を科す
と。
増産指示に従わなかった場合と、増産計画の届け出の指示に従わなかった場合とを混同させています。
見出し詐欺感の否めない共同通信記事でした。

上記記事を読んだ時点の感想としては、
「役所が生産量を把握し出荷・販売業者の供給量を調整するとか絶対無理でしょwどこの共産国なんだwww」
という笑いしかおきませんでした。

さて、この共同通信記事に対し旧ツイッター上で、次のようなブログ記事を見つけました。

『食料供給困難事態対策法案 農家に増産指示、罰金も』一部報道について農水省に聞いてみました | あるのは探究心



へぇ。農水省に直に聞いてみた人がいるのか・・・ということで読んでみました。





この中で注目すべき箇所は次のとおり。

======【引用ここから】======
① 事業者(生産者)の理解と協力の下で措置を行うことを基本に、国が生産を拡大すべき量等を提示した上で、事業者の自主的な取組を促す「要請」を行うこと

② 要請のみでは必要な量が確保できない場合に限り、「計画作成の指示」等を行うこと

======【引用ここまで】======

======【引用ここから】======
① 要請については事業者の自主的な取組を求めるものであるため罰則は設けないこと

② 一方で、計画作成の指示に対して届出がなければ、確保可能な供給量を把握できず、計画変更指示の必要性も判断できないことから、計画作成の指示違反については罰則(罰金)を設けることが妥当と考えられること

③ 計画に沿った事業の実施等への対応についても担保措置は必要であるが、抑制的であるべきであることから、生産資材や労働力の確保ができない場合などやむを得ない理由がある場合は除き、罰則によるのではなく公表措置をとることが妥当と考えられること

======【引用ここまで】======

【「要請」行政】

まず気になったのは、コロナ対策禍で何度も見かけた「要請」行政です。
命令でもないし強制でもない、あくまで自主的な取り組みを促すに過ぎないはずの要請。
しかし、政府・自治体の活動の根拠にはなる。
そして、「要請」に違反した者に対しては勧告を出し、勧告に従わなければ命令や罰金の対象となる・・・
といった一連の流れが、『グローバルキッチン 対 東京都』の裁判でも問題とされました。
損害賠償こそ棄却されたものの、東京都側の違法が認定されて判決は確定しています。

この「要請」行政は、社会的圧力を生む要因になる、位置づけが曖昧で取り扱いが難しい、として行政側でも問題視されている代物です。
(たとえば、
新型コロナのまん延防止を目的とした「要請」についての法的検討
を参照のこと。)
こうした懸念に対し、農水省に聞いてみたブログでは農水省の資料と見解を載せるのみで、なんの言及もありません。
29歳の農家さんにそこまで期待するのはちょっと無理だったようです。

【罰則の範囲】

次に。
冒頭紹介した共同通信記事では、
タイトル「農家に増産指示、罰金も
記事本文「農家に増産計画の届け出を指示できるとし、従わない場合は20万円以下の罰金を科す
となっていました。
この点、農水省に聞いてみたブログでは、共同通信記事本文と同様、計画作成の指示違反、計画未届出が罰金の対象となるとされています。

そして注目すべきは、
③ 計画に沿った事業の実施等への対応についても担保措置は必要であるが、抑制的であるべきであることから、生産資材や労働力の確保ができない場合などやむを得ない理由がある場合は除き、罰則によるのではなく公表措置をとることが妥当と考えられること
の箇所。

整理しましょう。
〇 農家が増産計画の届け出の指示に従わなかった場合(計画未提出)・・・罰金
〇 届け出た計画に沿った増産等を行わなかった場合・・・公表
となります。

この「公表」も、コロナ対策禍において、事実上の強制・社会的圧力の要因となったものであるのは周知の事実ですね。
感染者が増えて複数の感染経路が考えられるにも関わらず特定の飲食店を感染源として「公表」し店側が損害賠償訴訟を提起したケースや、営業自粛等の「要請」に従わなかった店を「公表」して社会的圧力をかけて従わせようとしたケースなどがありました。
「公表」って、行政が直接手をくださずとも消費者や生産者等の相互監視の中で村八分的非難が行われるという点で、20万円の罰金よりもはるかに重たい制裁になりうる手法なんです。
「公表」を「抑制的」と位置付けるのは、あまりに非現実的でお役人的なものの見方だと思いますよ農水省さん?

ところで、
農水省に聞いてみたブログの主に、質問を投げかけてみたところ、不思議な回答をいただきました。





増産指示に従わなかった場合は「未提出に包摂される」・・・?
未提出に包摂されたら公表じゃなくて罰金になっちゃうのでは・・・?

2月27日閣議決定後の2月29日に記事をアップしているのに「他法令の例も参考にして検討を進めているところ」という農水省コメントが紹介されていたりと、なんとまあ、随分杜撰なブログだったなぁという感想です。

生産資材や労働力の確保ができない場合等やむを得ない理由があり、増産指示への対応が難しい旨の届出をした場合には罰則の対象とはならない
と農水省コメントを紹介し、
「ほら個人の自由に対してそこまで抑圧的でないんですよー、ここまでキチンと紹介しない共同通信の記事は随分杜撰だなぁ」
と農水省に尻尾を振る姿、私は真似したくありません。

【社会主義的生産調整】

さてさて。

食料供給困難事態対策法案の概要 第213回国会(令和6年 常会)提出法律案 農林水産省

政府・農水省は、農家をはじめ生産業者・販売業者に生産輸入拡大を要請し、不足が生じるおそれがある場合に計画書を作らせ、計画変更を指示し、その計画に沿った生産をさせるようです。

バターのような単一品目の需給調整に失敗した農水省が、市場価格という最も確度の高い情報を差し置いて農家提出計画で需給調整なんてできるわけがありません。食料供給困難事態に農水省が対処しようとして食料供給困難事態に拍車をかける、毛沢東やポルポトが失敗した道を辿るのでしょう。

農水省は、食料安保をテコにインセンティブ補助金をばら撒く口実を得ました。
農家は、農水省のばら撒く補助金に群がることでしょう。
この醜い光景、あと何度繰り返せば気が済むのでしょうか。

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