若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

綾瀬市議会に学ぶ議会報編集のあり方

2019年11月21日 | 地方議会・地方政治
ある自治体が、近隣の、あるいは類似規模の複数自治体に対し、

「〇〇の事務について、どう処理しています?」
「法第△条の解釈、運用についてどうされてます?」

といった照会をかけ、回答を貰うというのは、様々な部署で行われている

「役所あるある」

の一つです。

こうした照会については、明確な根拠規定があるものの他、回答する義務がありません。
回答しなくても、法的なペナルティは多分ありません。
照会・回答事務は、同じような境遇にあって対処方法に悩んでいる自治体間・職員間の、

「困った時はお互い様」

的な精神、紳士協定の上に成り立っています。

職員としては正直なところ、外部からの照会に回答するのは面倒くさい。
場合によっては数年前の段ボール箱から書類を発掘して確認する、なんて事をしなきゃいけません。
手間だし、うろ覚えで適当に回答してしまおうか、あるいは無回答で回答してしまおうか、なんて魔がさすこともあります。

ただ、自分も疑義が生じた時に他団体に照会文書や電話で問い合わせすることがあります。
それなら、他所から尋ねられた時も誠実に答えておこう、と考え直すわけです。

なお、毎回というわけではありませんが、この手の照会をする際には、

「こちらでは〇〇という運用をしていますが、貴団体ではどのようにされていますか?」

と、自分の団体での運用方法や考え方を示した上で、相手に問うスタイルも多くあります。
この運用例も、この手の照会・回答事務には、似たような境遇・悩み・迷いを抱えた者同士での、ある種の紳士協定が背景にあることを示している、と私は考えます。

【調査票が公開される、ということ】

さて。

「神奈川県にある綾瀬市議会の事務局が、福岡県にある行橋市議会の事務局へ宛てて調査票を送り回答を求めている」

という事例が、こちらのブログで紹介されています。

【地方議会の闇③】議会事務局アタック、動き始めた地方議会。政治家の戦い方と連携の参考事例【ワクワクした人はシェア】 | 小坪しんやのHP〜行橋市議会議員

今回の場合、照会文書に添付されていたであろう調査票がそれぞれの市議を経由して上記ブログに公開されており、さらに、

======【引用ここから】======
回答は「公式のもの」でありますから、綾瀬の事務局を通じて笠間議員の元に届くことでしょう。
公式のものでありますから、笠間議員もネットに公開するでしょうし、私もBlogに掲載させて頂きます。

======【引用ここまで】======

と、回答が公開されることまで予告・明言されています。
こうなると、単なる面倒くささとは性質が異なります。

冒頭であげた、自治体間・職員間の紳士協定に基づく照会・回答とは言えなさそうです。

通常の照会・回答とは異なるこうしたケースにおいて、照会をかけた綾瀬市議会の側ではどう対処しているのでしょうか。
例えば、議事運営や議会報の編集過程において、ここで登場した笠間議員にまつわるトラブルがあったとして、その具体的なケースについて他議会事務局から照会があったら、綾瀬市議会事務局はどの程度まで突っ込んで回答するのでしょうか。
気になるところです。

また、今回の件をきっかけにして

「綾瀬市議会からの照会に回答したら、綾瀬市議会議員を通じて外部にその回答が公開される」

とイメージが付いてしまった場合、綾瀬市議会事務局は今後やりにくいだろうなぁ、というのは想像に難くありません。
一歩突っ込んだ内々の本音、肌感覚といったものを他議会事務局と共有することが難しくなり、公開されても差し支えない建前論だけが綾瀬市には届くように・・・ならなければ良いのですが。

【議会報を編集する、ということ】

突然ですが、上記ブログにて登場する笠間議員の一般質問を、綾瀬市議会の議事録から引っ張って読んでみましょう。

綾瀬市 平成30年9月定例会 09月25日-04号
======【引用ここから】======
◆10番(笠間昇君) いつどこでどのような事案が発生するかわかりませんので、ぜひともいろいろときめ細かく、特に執行部のほうは気を配ってあげてください。よろしくお願いします。
 それで、庁舎内には警備会社のカメラが設置されていると思います。これは防犯カメラというんですか、防犯カメラを設置していますよといった表示とかあるかと思います。銀行とかで想像すると、防犯カメラ設置と書いてあるだけでもかなり抑止効果があるのではないのかと思うんですが、こちらのほうはどう考えておりますか。安全確保という面から、そちらのほうの表示ということについてはいかがお考えでしょうか。よろしくお願いします。
○副議長(比留川政彦君) 総務部長。
◎総務部長(駒井利明君) 市役所には現在、警備業務で使用するカメラが設置されておりますが、こちらのほうにつきましては、カメラ設置という表示は現在のところ行っておりません。ただ、カメラが設置されていることを表示することで暴力行為の抑止効果につながるのではないかとも考えておりますので、今後、職員や来庁者の安全確保のために、例えばカメラ作動中などの表示を行ってまいりたいと、このように考えております。
○副議長(比留川政彦君) 笠間 昇議員。
◆10番(笠間昇君) 先ほど登壇したときにお話しした金沢市とか横浜市の中区役所とかは、事件があった後、かなり防犯カメラを多く設置し直したということも聞いております。ということは、防犯カメラというとちょっとはばかりがあるんだったら、管理カメラとかビデオというものをつけるということは抑止効果があるという、他市の例ではありますが、そういったことが見えるのかなと思いますので、ぜひともそこは検討していただきたいと思います。
 今度は職員の安全管理とかトラブル防止、今、抑止のためにも市で表示するだけでなく、録画画像の権限を持っていくのはどうかなと思います。しっかりと映像の権利というんですか、映像権、こちらのほうの権限を持つべきではないのかと思うのですが、そちらはどう考えているか。よろしくお願いいたします。
○副議長(比留川政彦君) 総務部長。
◎総務部長(駒井利明君) 市庁舎に設置されておりますカメラにつきましては、市から警備業務を請け負っている事業者が機械警備の一環として設置しているものでございます。このカメラは主に警備事業者が庁舎出入り口付近や通路部分を監視し、侵入者や残留者の状況把握、盗難等の犯罪防止の目的で使用しておりますもので、カメラの映像や記録は警備事業者の情報となっております。したがいまして、市が映像情報の閲覧やデータを取得することはできず、確認が必要な場合には警備事業者に確認していただき、市はこの警備事業者から文書で報告を受ける、このような形となっております。また、犯罪が発生したときには、捜査上、必要な場合に限り、警備事業者から直接警察に情報を提供することになります。
 職員の安全管理や庁舎内でのトラブル防止のために、カメラ映像などの情報を市が取得することも必要ではないかという御質問でございますが、警備事業者からの報告や警察への捜査協力によりまして、映像情報を市が持たなくてもそのような効果は得ておりますので、またさらには不必要な個人情報を市が取得することになってしまうことは、個人情報保護の観点からも好ましくないと考えております。したがいまして今のところカメラの映像情報を市が取得する考えはございません。
○副議長(比留川政彦君) 笠間 昇議員。
◆10番(笠間昇君) 今までとちょっと流れは違ったところから聞きたいんですが、もし庁舎内で役所の職員が何か不正を疑われるような事案が発生した場合は、市民がそれを発見したときに、あそこでやっていたはずだから映像を見せてくれと言ったときは、変わらなく対応できるというんだったら、それは確認してもらえるのかどうか。今の話だと警察を通してくれとか、警備会社を通してくれとなるんですけど、余りにもちょっと責任をよそにやり過ぎてるんじゃないかとも思うんですが、そこのところはどう考えているのか、お聞かせください。
○副議長(比留川政彦君) 総務部長。
◎総務部長(駒井利明君) 映像情報の入手につきましては、個人情報保護という観点から、個人情報保護審査会にかけて、その許可を得なければならないという手続がございます。現在、庁内に設置しておりますカメラにつきましては、この手続をとっておりませんので、もし仮にそのような事例があった場合には警備会社のほうに確認をさせまして、状況によっては警察に通報するなりの対応をしていくような形になろうかと考えております。

======【引用ここまで】======

これを、『あやせ市議会だより』に掲載すると、こうなります。

あやせ市議会だより 平成30年11月15日号
======【引用ここから】======
Q 防犯カメラには、暴力抑止効果があるため、警備会社が設置するカメラの映像は、市が権限を持つべきでは。
A 個人情報の観点から、現時点では、市が映像情報を取得する考えはない。

======【引用ここまで】======

あらスッキリ。

原稿ママの掲載はしていません。
単純な抜粋でもありません。

原文を大胆に切り貼り修正しています。
市議会だよりは紙面に限りがあるため、会議録原文を圧縮し、かつ、読み手である市民がパッと読んで意味が通じるよう修正するのは必要であり、編集者として当然あるべき行為と言えます。
時には省略した主語を補い、複数の発言にまたがる単語をつなぎ合わせ、てにをはを整え、指示語や繰り返しの表現を元に戻し、話し言葉や倒置法になっている部分を整理し、『あやせ市議会だより』だけを目にする読者に誤解、曲解されないよう意味を伝える、編集の腕がここにはあります。

どのテーマを掲載するかの指定は質問者がするかもしれません。
しかし、上記のように議事録を圧縮し、削除し、紙面の形にする責務と権限は、最終的には個々の議員ではなく、発行元たる綾瀬市議会、そして編集を担当する議会報編集委員会にあります。
綾瀬市議会の会議規則や各種内規を確認してはいませんが、議会報の表紙に発行者・編集者が明記されている以上、そう捉えるのが自然でしょう。

調査票の1問目にあった
「記事の内容を修正する動き」
との箇所は、議会報編集委員会の責任において行うべき編集作業に当然含まれているものと考えます。

質問票に対する答えは、綾瀬市議会において『会議録』を修正した後に『あやせ市議会だより』に掲載している方法から推し量れば、概ね分かるだろうと思います。
どうでしょうか、笠間議員さん。

【圧縮上手な綾瀬市と、圧縮下手な行橋市】

綾瀬市議会では、上記のように膨大な議事録の中からポイントを抜き出し、文章を整理した上で議会報に掲載しています。
限られたスペースの中で、議員が何を問い、行政側が何を答えたのかが分かるよう焦点が絞られており、密度の濃い記事になっています。

他方、行橋市議会ではどうでしょうか。

【地方議会の闇④】野党会派のダブルスタンダード、議会便りにおいて市議の実名を出した例はあった。【笑った人はシェア】
======【引用ここから】======
市議側(この場合は工藤市議)が、他の市議の名前を出している。
そもそも村岡市議に関しては、市長の勘違いであり完全な流れ弾だ。


-----(議会報ここから)-----
議員 ・・・今年1月13日、市長の市政報告があった。これは政治活動か、選挙活動か。
市長 選挙活動です。
議員 おかしい。告示前。選挙活動と言うなら大きなミス。
市長 訂正する。選挙活動ではない。
議員 市長スピーチ。「私ども、麻生マシンという末端に行橋という小さな小さな歯車が組み込まれたと認識。今後とも麻生マシンの小さな小さな歯車として、行橋を京築のメイン都市にしていくことを誓い、2期目のお願いとする。選挙では、よろしく支持の程お願い申し上げ、挨拶にかえさせていただく」。後半は選挙依頼。麻生副総理だからじゃない。どの国会議員の名前があっても、何回もほにゃららマシン、小さな歯車という言葉が出るのはどうなのか。司会は。
市長 村岡議員だったような気がします。
議員 井上副議長です。
市長 あっ、そうですか。
議員 二元代表制の本旨を考えた時、御自身の市政報告を副議長にお願いするのは、やはり違う。ある種の距離を置くように努めるべき。市長は絶大な権力を持つ訳だから、その辺は配慮すべき。

-----(議会報ここまで)-----

しかも、この場合は、単に市長の勘違いだ。
だったら村岡市議の名前ぐらい消してやればよかったろうに。

======【引用ここまで】======

この指摘は、まさにそのとおり。
個人名なのだから、編集段階で議会報からは消してやればよかったろうに、と私も思います。

(余談ですが、この市議会だよりからは、政治活動と選挙運動に関する市長の認識の低さが窺えます。
告示日前の市政報告を選挙活動と言ってしまうし、政治活動であったにも関わらず「選挙ではよろしくお願いします」と言っちゃうし。
選挙のお願いをする市政報告会って、公選法で禁止されている事前運動じゃないんでしょうか。)

本題に戻り。

『あやせ市議会だより』と比較すると、個人名の使用の他にも気づく点があります。
綾瀬市議会は文章を圧縮・削除・整理し再構築しているのに対し、行橋市議会ではそういった作業をせずに原文から抜き書きしている印象を受けます。

話し言葉はそのまま。
言い間違い、勘違いはそのまま。
倒置法もそのまま。

なので、議会報としては読みにくいのです。

今回、綾瀬市議会が行橋市議会に対して照会文と調査票を送っているわけですが、逆に、行橋市議会が綾瀬市議会に対して議会報掲載文の会議録圧縮方法や修正ルールを学ぶために照会文を送ったり、視察に行って教えを乞うてはどうでしょうか。

【議会報編集の留意点】

議会報を編集するにあたって、様々な点に配慮しなければなりません。
その一つが、綾瀬市議会のように、内容や文章を整理圧縮し限られた紙面を有効に使って情報を伝えることです。

他に配慮すべきなのが、

○地方自治法
第百三十二条 普通地方公共団体の議会の会議又は委員会においては、議員は、無礼の言葉を使用し、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない。


仮に会期中の議長の発言取消命令や議員の発言取消、訂正申出に対する許可が無かったとしても、この規定に抵触するおそれのある会議録の箇所をわざわざ引用するのは避けるべきです。

編集者が、会議録に掲載された発言を、改めて議会報に掲載し広く知らせる行為によって、人の名誉を毀損した場合、刑法上の名誉棄損や民法上の損害賠償が成立する可能性はあると思います。
ましてや、その内容が議員活動の枠外で私人としてのものであれば、猶更です。

なお、この条文の背景には、

○日本国憲法
第五十一条 両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。


の反対解釈があります。
つまり、国会議員の発言は憲法の規定によって民法上・刑法上の責任を免除されますが、地方議員の発言は免責されない点を考えなければいけません。
地方議会においては、名誉棄損等のトラブルを避ける配慮が求められます。




【これから】

・・・さて。

爆破予告事件でおかしな決議を出して道を踏み外した行橋市議会は、個人攻撃の応酬で道を踏み外し続けるのでしょうか。
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