6月は19冊、まずまず読めました。
第158回、159回直木賞候補作を4冊。
◆彼方の友へ(伊吹 有喜)
第二次世界大戦前夜の出版社、それも少女雑誌のお話。読者たちを友と呼び、その友に夢を与えようとする主人公らが時代に抗いながらも、どうしようもなく塗り潰されていく。でも、その古き良き時代を懐かしみ、スポットを当てようとする人もいる。良い作品でした。
◆くちなし(彩瀬 まる)
「くちなし」「花虫」「けだものたち」「山の同窓会」、ありえないことがさらりと日常に起こる、幻想的でエロくてグロい愛や生に纏わる短編が4編と、「愛のスカート」「薄布」「茄子とゴーヤ」、不器用な愛のお話が3編。初読みの著者だったが、こういう作風の人なのか。直木賞候補作だが、芥川賞っぽい作品だった。
◆宇喜多の楽土(木下 昌輝)
若き日は秀吉に牛耳られるも、その死後家康に向かう歴史の流れに敢然と背を向ける。家臣団に徳川方の調略の手が及び、宇喜多家は二つに割れる。関ケ原も実際の戦力は東軍11万に対し西軍は3万、圧倒的な戦力差に、西軍は半日も持たずに蹂躙されてしまう。
毒に満ちた「宇喜多の捨て嫁」とは対照的に義に殉じ宇喜多家を破滅させた秀家、それでも若き日の善行の因果で落ち武者狩りで敵方に命を救われ、配流先の八丈島での穏やかな晩年に爽やかさも感じる。
◆じっと手を見る(窪 美澄)
東京生まれ東京育ちの自分には分からない、この国にもいろいろな環境があり、生活や人生がある。日奈、海斗、畑中、宮澤、それぞれがしがらみを抱え、欠けた部分を持ち、閉塞感を感じ、(海斗を除いて)明確な目標も持たずに何となく生きている。自分の写し鏡の部分があるのか、その生き方にはイライラする、共感できない。
第159回直木賞候補作は「宇喜多の楽土」に続いて2冊目だが、両方とも受賞は微妙かな。窪さんの描写は相変わらずエロい。
17年、18年のカドフェスから8冊
◆虞美人草 (夏目 漱石)
小野、欽吾、宗近、藤尾、糸子、小夜子の男女6人の青春群像劇。恩師の娘を袖にして金持ちで美人の藤尾とくっつきたい小野。婚約者?の宗近と秀才の小野を手玉に取る藤尾。義理と人情の板挟みになった気弱な小野は、友人を使って一気に幕引きを図るが、宗近の鮮やかな説得に会い、自らの卑怯さに気づく。なにやら難しい欽吾や小野に比べ、宗近の行動力のなんとも爽やかなこと。クライマックスで藤尾の死という悲劇が待っているのだが、それがあまりに唐突。当時としては斬新な小説を書いていた漱石が実は保守的な心情の持ち主だったりする。
◆失はれる物語 (乙一)
「Calling you」「失はれる物語」「傷」「手を握る泥棒の物語」「しあわせは子猫のかたち」「マリアの指」「ボクのかわいいパンツくん」「ウソカノ」、乙一さんらしい不思議な短編が5編とコミカルなショート・ショートが2編。「しあわせは子猫のかたち」が切なくて好き。
◆神様の裏の顔 (藤崎 翔)
坪井先生が評判通りの人であってほしいと思って読んでいたが、それにしても殺人・殺人未遂が5件、ストーカー被害が1件。その名誉を回復したのは、通夜ぶるまいのメンバーの中で唯一坪井先生との関係性の薄いお笑い芸人の寺島。鮎川茉紀との関係は、鮎川の方が誘ったんだし、教え子っていたって昔の話、まあ目をつぶっるとしよう。
あれ、でも、そうなると事件の真相は?驚きのどんでん返し、坪井姉妹の件は最後の方まで気が付かなかったが、伏線があったのかな。でも、まあ、とにかく楽しいミステリでした。
◆三日間の幸福 (三秋 縋)
他人と係わらない、ゆえに他人の気持ちが分からない、とことん人望?のない主人公は、自暴自棄に絶望的な残りの人生のほとんどを金に換えた。そこで監視役のミヤギと出会い、残り少ない人生の最後の最後で、自分の人生に価値を見出す。ちょっと無理目のファンタジーだけど、これはこれで、どうしてなかなか、ラストは感動的。
◆ラヴレター (岩井 俊二)
樹(男)の気持ち、分かるなー。とうとう通じなかった中学時代の恋心。それゆえに二度と後悔したくなかったのだろう、博子に猪突な「つきあってください」宣言。でも博子を残して樹は死んでしまう。彼の死後、博子が偶然に突き当ててしまった彼の中学時代の想い人、樹(女)。そうとは知らぬ彼女からの手紙は、彼の不器用な気持ちが満載。これはなかなかに切ない。これ、昔に中山美穂で映画化されたんですってね。DVD、探してみます。
◆火の鳥2 未来編 (手塚 治虫)
子どもの頃読んだことがあると思うけど、、、50年前の作品とは思えない、スケールがでかい。
◆つくもがみ貸します (畠中 恵)
「しゃばけ」の畠中さんの別シリーズ、今年のカドフェスに選本されていたので手に取ってみました。基本的には「しゃばけ」と同系統のお話、色恋沙汰の話が多いのと、清次やお紅と付喪神たちの微妙な関係が、これはこれで面白い。
◆dele (本多 孝好)
自分が死んだ後のPCの中身、墓場まで持っていきたい秘密。確かに気になるところではある。それを消去することを生業にした圭司と、その会社でバイトする祐太郎、消去すると言いながら、思いっきり故人に係っているところが「いいのか?」と思いつつ、結局似た者同士の二人のおせっかいを楽しく読みました。
今年の「新潮文庫の100冊」から早速1冊。
◆盗賊会社
「新潮文庫の100冊」に毎年必ず1冊は入っている星新一さんのショート・ショート、今年はこれでした。いつも通りの面白さでした。
◆西郷の首(伊東 潤)
明治維新という価値観の大転換期に、過去に殉じた一郎と新しい世に生きた文次郎の話。どこかで聞いたことのあった島田一郎という名前、100頁目くらいで「ああ、暗殺犯だ」と歴史を思い出した。
水戸藩や加賀藩は尊攘派を徹底的に粛清したから維新の表舞台に出られず、薩長は下関戦争や薩英戦争で外国に完敗したから開国討幕に舵を切れた。武士が太平の世で官僚になり藩の官僚組織は無駄だらけ、このままでは国の近代化は無理。
維新は極めて暴力的で徹底的な過去の仕組みのリセットだけど、こうでもしなければ日本は自主独立を保てなかったと思う。
◆逆説の日本史23: 明治揺籃編 琉球処分と廃仏毀釈の謎(井沢 元彦)
「廃仏毀釈」と「琉球処分」、教科書ではあまり詳しく語られないテーマで大変楽しみに手に取ったのだが、半分くらいまでは歴史ではなく朝日新聞批判と韓国批判。これ朝日新聞が誤報を謝罪した頃に執筆したのかな。井沢さん、鬼の首を取ったような喜びよう。
確かに朝日新聞の誤報は日本の国益を大きく損なわしめるもので、謝罪も遅きに失している。日本国憲法も「神聖にして犯すべからず」ではなく国民投票をやったら良いと思いますが、それにしてもくどい。早く廃仏毀釈の話に入ってくれよと思ってしまいました。
◆太陽と乙女(森見 登美彦)
著者お勧めのとおり、夜寝る前に布団に入って読んだが、何度も寝落ちし、想定外に読了に時間がかかった。私の実家はは小石川の善光寺坂を下って100m位のところ。森見さんの東京の仕事場、多分近所の私の知っているマンションの一室だったのではないかな。
◆りゅうおうのおしごと! 7 (白鳥 士郎)
本編クライマックスが終わっても、相変わらず熱い「りゅうおうのおしごと!」今回は清滝師匠をはじめ、ベテラン、ロートル編でした。私もロートルですが、謙虚に、でもあきらめない姿勢に共感。コンピュータと将棋のかかわり方と新時代勢力の台頭、何とはなしに藤井翔太7段を思ってしまいます。
◆ブラタモリ 11 初詣スペシャル成田山 目黒 浦安 水戸 香川(さぬきうどん・こんぴらさん)
TVのおさらいになりました。
この中で一番印象的だったのは「浦安」の回かな。東京に近い千葉の海岸沿いには潮干狩りに適した豊かな干潟が広がっていて、それを公害があっという間に駄目にした。でも、そのおかげで今がある。
富士山や伊勢神宮の時も思ったけど、江戸時代のツーリズムって、ホントすごい。
◆軽井沢シンドローム (たがみ よしひさ)
主人公の相沢耕平くん、いつもふざけた態度を取っているが、本当は義理と人情に溢れた男で、人望がある。羨ましいことに女にもて、最終的には薫と結婚、子供も生まれるのだが、紀子、縁、まなみと3人の愛人がおり、それが皆事実を知りながら友だちづきあいをしているというハーレム状態。耕平たちはほぼ自分と同世代。時はバブル前夜、新幹線もアウトレットもなかった軽井沢で繰り広げられる、当時としてはかなりスタイリッシュな青春群像劇。さすがに本はかなり経年劣化していたので、残念だったけど最後に通しで熟読して、資源ごみに出した。
第158回、159回直木賞候補作を4冊。
◆彼方の友へ(伊吹 有喜)
第二次世界大戦前夜の出版社、それも少女雑誌のお話。読者たちを友と呼び、その友に夢を与えようとする主人公らが時代に抗いながらも、どうしようもなく塗り潰されていく。でも、その古き良き時代を懐かしみ、スポットを当てようとする人もいる。良い作品でした。
◆くちなし(彩瀬 まる)
「くちなし」「花虫」「けだものたち」「山の同窓会」、ありえないことがさらりと日常に起こる、幻想的でエロくてグロい愛や生に纏わる短編が4編と、「愛のスカート」「薄布」「茄子とゴーヤ」、不器用な愛のお話が3編。初読みの著者だったが、こういう作風の人なのか。直木賞候補作だが、芥川賞っぽい作品だった。
◆宇喜多の楽土(木下 昌輝)
若き日は秀吉に牛耳られるも、その死後家康に向かう歴史の流れに敢然と背を向ける。家臣団に徳川方の調略の手が及び、宇喜多家は二つに割れる。関ケ原も実際の戦力は東軍11万に対し西軍は3万、圧倒的な戦力差に、西軍は半日も持たずに蹂躙されてしまう。
毒に満ちた「宇喜多の捨て嫁」とは対照的に義に殉じ宇喜多家を破滅させた秀家、それでも若き日の善行の因果で落ち武者狩りで敵方に命を救われ、配流先の八丈島での穏やかな晩年に爽やかさも感じる。
◆じっと手を見る(窪 美澄)
東京生まれ東京育ちの自分には分からない、この国にもいろいろな環境があり、生活や人生がある。日奈、海斗、畑中、宮澤、それぞれがしがらみを抱え、欠けた部分を持ち、閉塞感を感じ、(海斗を除いて)明確な目標も持たずに何となく生きている。自分の写し鏡の部分があるのか、その生き方にはイライラする、共感できない。
第159回直木賞候補作は「宇喜多の楽土」に続いて2冊目だが、両方とも受賞は微妙かな。窪さんの描写は相変わらずエロい。
17年、18年のカドフェスから8冊
◆虞美人草 (夏目 漱石)
小野、欽吾、宗近、藤尾、糸子、小夜子の男女6人の青春群像劇。恩師の娘を袖にして金持ちで美人の藤尾とくっつきたい小野。婚約者?の宗近と秀才の小野を手玉に取る藤尾。義理と人情の板挟みになった気弱な小野は、友人を使って一気に幕引きを図るが、宗近の鮮やかな説得に会い、自らの卑怯さに気づく。なにやら難しい欽吾や小野に比べ、宗近の行動力のなんとも爽やかなこと。クライマックスで藤尾の死という悲劇が待っているのだが、それがあまりに唐突。当時としては斬新な小説を書いていた漱石が実は保守的な心情の持ち主だったりする。
◆失はれる物語 (乙一)
「Calling you」「失はれる物語」「傷」「手を握る泥棒の物語」「しあわせは子猫のかたち」「マリアの指」「ボクのかわいいパンツくん」「ウソカノ」、乙一さんらしい不思議な短編が5編とコミカルなショート・ショートが2編。「しあわせは子猫のかたち」が切なくて好き。
◆神様の裏の顔 (藤崎 翔)
坪井先生が評判通りの人であってほしいと思って読んでいたが、それにしても殺人・殺人未遂が5件、ストーカー被害が1件。その名誉を回復したのは、通夜ぶるまいのメンバーの中で唯一坪井先生との関係性の薄いお笑い芸人の寺島。鮎川茉紀との関係は、鮎川の方が誘ったんだし、教え子っていたって昔の話、まあ目をつぶっるとしよう。
あれ、でも、そうなると事件の真相は?驚きのどんでん返し、坪井姉妹の件は最後の方まで気が付かなかったが、伏線があったのかな。でも、まあ、とにかく楽しいミステリでした。
◆三日間の幸福 (三秋 縋)
他人と係わらない、ゆえに他人の気持ちが分からない、とことん人望?のない主人公は、自暴自棄に絶望的な残りの人生のほとんどを金に換えた。そこで監視役のミヤギと出会い、残り少ない人生の最後の最後で、自分の人生に価値を見出す。ちょっと無理目のファンタジーだけど、これはこれで、どうしてなかなか、ラストは感動的。
◆ラヴレター (岩井 俊二)
樹(男)の気持ち、分かるなー。とうとう通じなかった中学時代の恋心。それゆえに二度と後悔したくなかったのだろう、博子に猪突な「つきあってください」宣言。でも博子を残して樹は死んでしまう。彼の死後、博子が偶然に突き当ててしまった彼の中学時代の想い人、樹(女)。そうとは知らぬ彼女からの手紙は、彼の不器用な気持ちが満載。これはなかなかに切ない。これ、昔に中山美穂で映画化されたんですってね。DVD、探してみます。
◆火の鳥2 未来編 (手塚 治虫)
子どもの頃読んだことがあると思うけど、、、50年前の作品とは思えない、スケールがでかい。
◆つくもがみ貸します (畠中 恵)
「しゃばけ」の畠中さんの別シリーズ、今年のカドフェスに選本されていたので手に取ってみました。基本的には「しゃばけ」と同系統のお話、色恋沙汰の話が多いのと、清次やお紅と付喪神たちの微妙な関係が、これはこれで面白い。
◆dele (本多 孝好)
自分が死んだ後のPCの中身、墓場まで持っていきたい秘密。確かに気になるところではある。それを消去することを生業にした圭司と、その会社でバイトする祐太郎、消去すると言いながら、思いっきり故人に係っているところが「いいのか?」と思いつつ、結局似た者同士の二人のおせっかいを楽しく読みました。
今年の「新潮文庫の100冊」から早速1冊。
◆盗賊会社
「新潮文庫の100冊」に毎年必ず1冊は入っている星新一さんのショート・ショート、今年はこれでした。いつも通りの面白さでした。
◆西郷の首(伊東 潤)
明治維新という価値観の大転換期に、過去に殉じた一郎と新しい世に生きた文次郎の話。どこかで聞いたことのあった島田一郎という名前、100頁目くらいで「ああ、暗殺犯だ」と歴史を思い出した。
水戸藩や加賀藩は尊攘派を徹底的に粛清したから維新の表舞台に出られず、薩長は下関戦争や薩英戦争で外国に完敗したから開国討幕に舵を切れた。武士が太平の世で官僚になり藩の官僚組織は無駄だらけ、このままでは国の近代化は無理。
維新は極めて暴力的で徹底的な過去の仕組みのリセットだけど、こうでもしなければ日本は自主独立を保てなかったと思う。
◆逆説の日本史23: 明治揺籃編 琉球処分と廃仏毀釈の謎(井沢 元彦)
「廃仏毀釈」と「琉球処分」、教科書ではあまり詳しく語られないテーマで大変楽しみに手に取ったのだが、半分くらいまでは歴史ではなく朝日新聞批判と韓国批判。これ朝日新聞が誤報を謝罪した頃に執筆したのかな。井沢さん、鬼の首を取ったような喜びよう。
確かに朝日新聞の誤報は日本の国益を大きく損なわしめるもので、謝罪も遅きに失している。日本国憲法も「神聖にして犯すべからず」ではなく国民投票をやったら良いと思いますが、それにしてもくどい。早く廃仏毀釈の話に入ってくれよと思ってしまいました。
◆太陽と乙女(森見 登美彦)
著者お勧めのとおり、夜寝る前に布団に入って読んだが、何度も寝落ちし、想定外に読了に時間がかかった。私の実家はは小石川の善光寺坂を下って100m位のところ。森見さんの東京の仕事場、多分近所の私の知っているマンションの一室だったのではないかな。
◆りゅうおうのおしごと! 7 (白鳥 士郎)
本編クライマックスが終わっても、相変わらず熱い「りゅうおうのおしごと!」今回は清滝師匠をはじめ、ベテラン、ロートル編でした。私もロートルですが、謙虚に、でもあきらめない姿勢に共感。コンピュータと将棋のかかわり方と新時代勢力の台頭、何とはなしに藤井翔太7段を思ってしまいます。
◆ブラタモリ 11 初詣スペシャル成田山 目黒 浦安 水戸 香川(さぬきうどん・こんぴらさん)
TVのおさらいになりました。
この中で一番印象的だったのは「浦安」の回かな。東京に近い千葉の海岸沿いには潮干狩りに適した豊かな干潟が広がっていて、それを公害があっという間に駄目にした。でも、そのおかげで今がある。
富士山や伊勢神宮の時も思ったけど、江戸時代のツーリズムって、ホントすごい。
◆軽井沢シンドローム (たがみ よしひさ)
主人公の相沢耕平くん、いつもふざけた態度を取っているが、本当は義理と人情に溢れた男で、人望がある。羨ましいことに女にもて、最終的には薫と結婚、子供も生まれるのだが、紀子、縁、まなみと3人の愛人がおり、それが皆事実を知りながら友だちづきあいをしているというハーレム状態。耕平たちはほぼ自分と同世代。時はバブル前夜、新幹線もアウトレットもなかった軽井沢で繰り広げられる、当時としてはかなりスタイリッシュな青春群像劇。さすがに本はかなり経年劣化していたので、残念だったけど最後に通しで熟読して、資源ごみに出した。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます