私も創立以来数年教授をしていた法科大学院制度(ロースクール)にますます暗雲が垂れ込めてきました。
司法試験や法科大学院の在り方を検討する政府の有識者会議は、司法試験の年間合格者数を3000人程度とした政府の目標を撤回するほか、合格率が低いなど課題のある法科大学院は定員削減や統廃合を進める必要があるとした提言をまとめました。質・量ともに豊かな法曹の養成」を掲げる政府は2002年、「3000人」の目標を閣議決定したが、検討会議は「現実性を欠く」と結論付けました。学校間格差が広がる法科大学院については「定数削減や統廃合の必要がある」と指摘しました。
もともと、3000人への増加は、日本の隅々まで法の支配を徹底する、弁護士過疎をなくすなどの高尚な目的があったのですが、結果的にはいかにも拙速で失敗だったのです。
この政府の有識者会議は、司法試験の合格率が20%と低迷し、合格しても弁護士の仕事がない人が増えていいる現状を直視しました。しかし、合格率は、合格者数÷受験生数で自動的に決まります。本音で言うと、合格率は上げるには合格者数を増やすか、受験生を減らすしかないのですから、本質的問題ではありません。
また、合格率が低迷しているのは受験生の質が下がったことになりません。それなら、私たちの年代が合格率2%だったころは受験戦争が激烈だったのであって、受験生の質は低くなかったのです。
しかし、その私が合格した20数年前前後の合格者は500人前後でした。法科大学委員制度が2004円に発足してから、4倍!の2000人の合格者しか出ていますが、これだと、毎年1500人の弁護士が増えるので、ここ10年で弁護士の数は1万数千人から4万人近くで2倍になってしまいました。裁判は年々減っているのにです。
今でもぎりぎり2000人の合格者数中1500人くらいの人はなんとか就職して給与をもらえます(勤務弁護士。俗にイソベン)となります。
それでも、残りのおよそ500人近い合格者が、司法試験に合格したというのに
1 そもそも就職先がないので弁護士登録をしない(登録すると月額6万円の登録料を支払われる。しかししないと弁護士資格はない)
2 就職できないものの、既成の事務所に机だけ置かせてもらい、自給自足で生活する(軒先を借りるので、いわゆるノキ弁)
3 弁護士一年目で何の経験もなくいきなり独立開業する(即時独立するので即独)
という現状になっています。司法試験に合格したのに普通に弁護士になれない時代なのです。
現在、司法試験を合格するのは9割がロールクール卒業生です。彼らは2~3年の期間を学業・仕事を放棄して、ロースクールに没頭し、合格率20%の司法試験に合格し、さらに1年の司法修習期間をすぎてやっと卒業試験を受けられます。
ところが、様々な優遇制度はあるものの、ロースクールの学費は年間100~300万円かかります。さらに、司法修習時代には給与が得ないところか、バイトも許されず、借金は増えるばかりなのです。
以前は、さまざまな状況に置かれた経済状況の受験生が一発試験の司法試験を受けられました。しかし、今は数年を強制的に拘束され、数百万円の借金を作り、弁護士一年目から借金地獄に苦しんでいる人がたくさんいます。
この提言では、司法試験の年間合格者数を3000人程度とした政府の目標について、やっと現実性を欠くものだとして認めて、撤回すべきだとしています。しかし、法曹の増員はまだは必要だとしているのです。裁判官や検察官はともかく、弁護士はもう増やすべきではありません。
また法科大学院については、修了した人の7割から8割程度が司法試験に合格できるような教育が求められているとして、合格率が低いなど課題のある法科大学院は、定員削減や統廃合を進める必要があるとしています。しかし、7~8割の合格者なんて不可能です。それはロースクールの教育と生徒の質の問題ではなく、単に数学の割り算の問題です。
かつて、500人の合格者だった司法試験の合格者を2000人にいきなりするのは無理だったのです。司法も小泉流規制緩和にまんまとしてやられたのです。
徐々に増やすにしても、いきなり4倍に合格者を増やして10年で総人数を倍にしたのは無茶苦茶です。日本の司法制度が崩壊してしまいます。それは結局、法曹を目指す優秀な人と遠ざけます。
ロースクールに数年とられ、数百万取られ、司法研修所で生活費は貸与で、しかもどこかの事務所には入れないというのでは、優秀な人材がロースクール、ひいては法学を目指すわけがありません。毎年、ロースクールを受ける人数、いや法学部生でさえ進学希望者が減っているのが現状です。
三権分立の一角を担う司法府は今大ピンチなのです。
現在、ロースクールに行かなくても司法試験を受けることができる資格試験である予備試験に人気が高まっています。
率1~2%の予備試験を突破してくる人は確かにペーパーテストは優秀ですが、ロースクールで行われている実務教育は受けていません。ロースクールの教育をことさら悪く言う人も多いですが、現実に必死に行われている実務教育を知らない人も多いのです。
今後、冬の時代を迎えるロースクールですが、10年以上準備して創り上げてきたロー教育の技術は絶対に残すべきです。
しかし、そのことは二次的問題で目標になりません。まず、ローの存続ありきではなく、受験生の保護と日本の司法制度の充実を第一に、制度改革を検討すべきです。
まず、司法試験の合格者はもう倍になったのですから、ここから合格者数は年間1000人を目安にすべきでしょう。それでも徐々に弁護士人口は増えます。
弁護士会、実務法曹をなにしろ、就職が確実にできる魅力ある職場にすることが先決です。
そして、ロースクールのの在学生、卒業生、受験生のために余裕を持った拙速でない改革が必要です。それで生き残るローが本物のロースクールでしょう。
法科大学院教授は政策仕分けの対象になったロースクールの存在価値を今こそ積極的にアピールするべきだ
ホームレス法律相談に関学法科大学院の教え子4名が参加!ロースクールを見くびるな!!
合格者人口を減らして、ロースクール生は十分幸せになる方策を。
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司法試験の合格者目標撤回提言
司法試験や法科大学院の在り方を検討する政府の有識者会議は、司法試験の年間合格者数を3000人程度とした政府の目標を撤回するほか、合格率が低いなど課題のある法科大学院は定員削減や統廃合を進める必要があるとした提言をまとめました。
政府の有識者会議は、司法試験の合格率が低迷し、合格しても弁護士の仕事がない人が増えていることから、司法試験や法科大学院の在り方について検討を進め、19日提言をまとめました。
提言では、司法試験の年間合格者数を3000人程度とした政府の目標について、現実性を欠くものだとして撤回すべきだとしています。
また法科大学院については、修了した人の7割から8割程度が司法試験に合格できるような教育が求められているとして、合格率が低いなど課題のある法科大学院は、定員削減や統廃合を進める必要があるとしています。
そ のうえで、あるべき法曹人口や、課題のある法科大学院に対する法的措置については、新たな組織を設けて検討すべきだとしています。このほか提言では、司法 試験の受験回数を「5年で3回」から「5年で5回」に緩和することや現在は禁止されている司法修習生のアルバイトを一部認めることが盛り込まれています。
政府の有識者会議は、この提言を近く関係閣僚会議に報告することにしています。
【西山貴章】政府の「法曹養成制度検討会議」(座長=佐々木毅・元学習院大教授)は19日、司法試験の合格率が低い法科大学院を、事実上「強制退場」させる最終提言をまとめた。修了した学生に司法試験の受験資格を与えないなどの法的措置を想定している。成績不振校の切り捨てに、大学院側の強い反発が予想される。
検討会議は、弁護士など法曹人口の急増による司法試験合格者の就職難から、「司法試験合格者を年間3千人に」とする政府目標の撤廃方針も提言に盛り込んでいる。法科大学院は志願者数が2004年度の7万2800人から今年度は約1万4千人に激減。定員割れの常態化で、司法試験合格者が少ない大学院の存在が問題になっていた。
法的措置の具体的な内容や適用基準は、法務省、文部科学省、日本弁護士連合会、最高裁でつくる別組織で引き続き検討し、今後2年以内に結論を出す。いまのところ、司法試験の合格実績が低い大学院について、修了者に司法試験の受験資格を与えない▽学生募集を停止させる――などの措置が想定されている。
ただ提言は、「各大学院の自主的な取り組みに加えて、大学院の改善に向けた総合的な対策も必要だ」とし、法的措置を導入する場合も「地方や夜間の大学院への適用には配慮が必要だ」と併記した。
さらに法科大学院を修了した受験生について、司法試験への心理的負担を軽くするため、これまでは「大学院修了後5年で3回まで」としていた受験回数の制限を、「5年で5回」とする緩和策を盛り込んだ。
提言は7月からの関係閣僚会議を経て正式決定され、関連法令が改正される見通し。
司法試験「3000人合格」撤回を 政府検討会議
- 2013/6/19 10:43 日本経済新聞
最終提言は「年3千人」の目標を撤回。早期の法曹人口増は不要とし、「当面は数値目標を立てない」とした。その上で、新たに有識者会議を設け、2年以内に改めて法曹人口の在り方を検討するよう求め、具体策の結論を先送りした形だ。
司法試験の受験回数制限は現行の「法科大学院修了後の5年間で3回まで」から「5年で5回」に緩和。法科大学院を修了しなくても司法試験の受験資格を得られる「予備試験」については、有識者会議で2年以内に問題点などを再検討するとした。
法科大学院については、「定員削減や統廃合を進める必要がある」として公的支援の見直しに言及。それでも司法試験合格率などに改善が見られない場合、修了者に受験資格を与えないなどの「法的措置」を新設して対応すべきだとした。
毎日新聞 2013年06月19日 21時36分(最終更新 06月19日 23時07分)
政府の法曹養成制度検討会議(座長=佐々木毅・元学習院大教授)は19日、司法試験合格者を年間3000人に増やすとした政府目標の撤回を柱とする最終提言をまとめた。司法試験合格率の低い法科大学院には統廃合を促し、法的措置を検討することも盛り込んだ。法科大学院を修了しなくても司法試験の受験資格が得られる「予備試験」の在り方などは結論を出さず、新たな体制で検討するとした。
「質・量ともに豊かな法曹の養成」を掲げる政府は2002年、「3000人」の目標を閣議決定したが、検討会議は「現実性を欠く」と結論付けた。学校間格差が広がる法科大学院については「定数削減や統廃合の必要がある」と指摘した。
19日の会議では、司法試験の短答式の科目数を現行の7から3(憲法、民法、刑法)に減らす座長案が新たに示され、「受験生の負担軽減と基礎力向上につながる」として了承された。
一方、最終提言は、法科大学院を中核とする法曹養成制度の「抜け道」になっているとの指摘もある予備試験について、見直すかどうかの結論を見送った。法科大学院に対する法的措置は、修了しても司法試験の受験資格を与えないことなどが想定されるが、具体的な内容は示さず、新たな検討体制で2年以内に結論を出すよう求めた。
最終提言は近く、関係閣僚会議に報告される。【伊藤一郎】
◇最終提言の骨子
・司法試験合格者を年間3000人とする政府目標を撤回。新たな目標は示さず
・課題が深刻な法科大学院に対する「法的措置」の導入
・新たな体制で▽法科大学院に対する「法的措置」の内容の具体化▽予備試験の見直しの是非▽司法試験の論文式の科目削減−−などを検討
・司法試験の短答式の科目を「憲法・民法・刑法」に削減
・司法試験の受験回数制限を「5年で3回」から「5年で5回」に緩和
・司法修習生に一定条件の下でアルバイトを許可
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無理やり地盤をいじったり継ぎはぎ増築をしたりでボロボロ・・・
大学経営のお荷物になり、余計な教職員の事務等の仕事が増え、学生は授業料・時間という負担を負い、国民の税金をじゃぶじゃぶつぎ込み、
皆が迷惑している誰も得しないlose-loseの制度です。
たしかに、ローの講義はすばらしい内容盛りだくさんだとは思います。
しかし、ロースクールの問題は学費、時間的拘束、医学部とは明らかに異なる合格率でしょう。
結局、自分の場合は三振してしまい、ローの学費だけ残って、非正規ないし失業という現実に直面しています。
この制度、やっぱり問題です。旧試験は1万円の受験料がかかるだけで、誰でも受験できる試験でした。何年かかっても、有職者であってもリスクはありません。
公認会計士試験のように大学院ルートと一発試験ルートと2つのルートが現実的な妥協点じゃないでしょうか!?
予備試験を廃止して、誰でも受けられる司法試験とロー出身者は択一免除、論文数科目免除の特典でいかがでしょう。
仕事を失って、三振してしまいローンだけが無残に残っている。これって、国家による消費者被害です(苦笑)
実は、私も一時は、法曹を目指したことがありました。 ある官庁に奉職しながらです。 相当昔のことでしたので、合格者は数百人でした。 現役裁判官や弁護士の方々からゼミ形式で学んだのですが、自分の関心なり質問が行政実務より多く出ていることに気づきました。 そして、法曹界の方々とは、その時点ですれ違っている自分を自覚しました。
それからは、職場(土木建設関連)の法律実務の研鑽に切り替え、難問は、自ずと私に訊かれるようになりました。 実務で弁護士の方々ともやり取りをするようになり、聊か、行政法と行政実務に関わっての無知に呆れるようになりましたけれども。 私法は熟知され、訴訟実務には明るいのでしょうけれども。 例えば、宅地開発を巡る個別具体的な案件を、関連諸法に基づき法的に論じるには、各種の行政法令に通じていなければ不可能ですが、法令関連の調査もされずに来庁される場合もあり、却って、当該行政部門の職員が困惑してしまうこともありました。
狭い範囲の経験より発言するのには躊躇しますが、法曹のみならず、官庁や企業での法令実務上の法学徒の必要性は、増すとも減じることは無いのですから、法曹三者以外にその職場を求められては如何でしょうか。 訴訟のみが、法的諸問題の唯一の解決策では無いのですから。 何より、合格してから何年もの研修は、他の職場には存在しません。 また、官庁の場合なら、仕事も法曹三者が判断の根拠とされる「法令」をも作成する職務も多いのですから、魅力的です。 こうした職務の起案文書は、その多くが永年保存ですので、自分の名前が末代まで残ります。 訴訟でも、民事ですから自分が代理人になって遂行出来ますし。 企業も法務部門は優秀な法学徒を欲しています。 ぜひこうした分野へ就職されることをお勧めします。
法曹の登用は、一時の試験のみをその機会とすること無く、幅広い機会を設けて採用する本当の資格試験とすることが望まれると思います。 そして三者は基本的に代替が可能な者として共通の資格にするべきでしょう。 即ち、判検事は、弁護士から登用するのです。
金銭的負担を考えれば、従前の司法試験に戻した上で、実務教育は合格後にみっちりやっていただければよいと思います。ロースクールもそちらに役割をシフトされてはいかがかと思います。
現状のロースクール生のことをかんがえると、一定の移行期間は必要かとは思いますが。
法曹が、優秀な方が目指すに値する魅力ある職業であって欲しいと心から願っています。