ホセ・クーラにとって、この夏は、長いコロナ禍による困難なときを乗り越え、非常に多忙で、実り多い時期となりました。
2021年9月19、20日、ドイツのザールブリュッケンにあるザールラント州立劇場で、先日ご紹介したルーマニアのエネスクフェスティバルに続き、自作曲の世界初演が実現しました。今回は2曲、ギター協奏曲「復活のための協奏曲」と、クーラ作オペラ「モンテズマと赤毛の司祭」をオーケストラのために編曲した交響楽組曲です。
この記事では、ザールブリュッケンでのコンサートの様子をSNSの投稿などからお伝えするとともに、現地のメディアに掲載されたクーラのインタビューも抜粋して紹介したいと思います。
ザールブリュッケンは、ドイツ南西部にあり、フランス国境に接した町。クーラは来年2月にも、このザールラント州立劇場に出演し、オペラガラコンサートを行う予定になっています。
1. SINFONIEKONZERT
SPAZIERGANG DURCH DIE ZEITEN
19 & 20 SEPTEMBER
José Cura’s Suite Sinfonica, from the opera ≪ Montezuma e il Prete Rosso ≫ (world premiere)
José Cura’s Concierto para un Resurgir (world premiere)
and Respighi’s Trittico Boticelliano
ザールラント州立劇場
第1回シンフォニーコンサート 「時代を歩む」
ホセ・クーラ作曲 「モンテズマと赤毛の司祭」交響楽組曲
ホセ・クーラ作曲 「復活のための協奏曲」
レスピーギ 「ボッティチェリの3枚の絵」
≪ 解説 劇場HPより ≫
ホセ・クーラは、現代のヴェリズモを代表する人物の1人。第1回交響曲コンサートでは、指揮者と作曲家の2つの役割でゲストを務めている。
2020年1月、彼はハンガリーで彼のオペラ「モンテズマと赤毛の司祭」を初演した。ヴィヴァルディが執筆したオペラ「モンテスマ」の起源を扱った作品であり、このクーラの管弦楽組曲も、完全にバロックの精神に基づいて、その独特の妙技で楽しませてくれる。
彼の作曲「復活のための協奏曲(Conciertoparaun Resurgir)」は、彼の故郷である南米で最も重要な楽器の1つであるギターに捧げられている。これによって、ラテンアメリカのフォルクローレの比類のないサウンドがザールブリュッケンにもたらされる。
オットリーノ・レスピーギは、サウンドペインティングの達人でもあり、彼の音楽の色で物語全体を伝える方法を知っていた。「ボッティチェリの3枚の絵( Trittico Botticelliano)」では、ルネッサンスの画家ボッティチェリによって描かれた3枚の絵を音楽に変えている。
≪ クーラのFBより ≫
●自作曲の初演成功を報告
” ミッション達成。本日、素晴らしいザールブリュッケン交響楽団と、ギタリストであるバルボラ・クビコバの名演奏により、私の「交響組曲」と「復活のための協奏曲」が初演された。「テ・デウム」(同じく9月にルーマニアで初演)と合わせて、今月は3つの作品が日の目を見ることになった。これほど誇らしいことはない。”
●クーラ作曲のギター協奏曲を演奏する楽器のひとつ、コンガの調子をみる
●リハーサル風景ーークーラが作曲したギター協奏曲の一部が聞けます
≪ ホセ・クーラ、州立管弦楽団を指揮 ≫
ホセ・クーラは歌手として世界的スターだが、ザールブリュッケンでは、日曜日と月曜日にザールランド州立管弦楽団の指揮台で他の2つの役割を演じる。シンフォニーコンサートで、自作の作品を2曲演奏する。
前の晩、彼は自宅のあるマドリッドから飛んできた。現在、クーラはザールラント州立劇場アーティスト・イン・レジデンスとして、州立オーケストラとの最初のリハーサルを完了した。そして彼は、今、世界中の指揮者を悩ませている問題にため息をつく。それは、ミュージシャンが離れた場所に座っていながら、有機的なアンサンブルのサウンドを作り出すという課題だ。
1962年生まれのアルゼンチン人であるクーラは、指揮者であるだけでなく、ザールブリュッケンのコングレスホールの今季最初の交響曲コンサートで、彼自身の作品の2つを初演している作曲家でもある。しかしまだ、この二重のキャリアよりも、歌手としての彼の名声の方が勝っている。テノールとして、クーラは世界のスターであり、ヴェリズモの珍しい代表であり、表現力豊かな解釈と暗いバリトンの響きを伴う力強く輝く音色で知られている。そして、彼はどのようなシーンが歌手にとってうまくいくか、そしてどれがうまくいかないかを正確に知っているので、彼が演出するオペラのために自分で舞台を設計する。クーラには、印象的な写真の撮影もあるが、仕事とのバランスをとるためのものと彼は割り切っている。
オールラウンドなアーティストである彼を、マスコミが「普遍的な天才」と称するのも不思議ではない。「私は多くの才能に恵まれた。これらの才能を組み合わせることができるのは幸運な人間だ」とクーラは語る。もちろん、行き詰まって失敗することを恐れることもある。 「だからそれが、人の3倍の仕事をしている理由だ」
しかし、彼は自分を仕事熱心な人間だとは見なしていない。「私は好きな仕事をするという特権を楽しんでいる。50歳の誕生日を迎えてからは、残された時間を大切にするようになり、コロナパンデミックの時期も前向きとらえられるようになった。たぶん、それは私たちの目を本質に向けて開くだろう。何かを失って初めてその良さが分かることがよくある。今を楽しめ!Carpe diem!」
クーラは、ロックダウンの期間を使ってギター協奏曲を作曲した。彼の「復活のための協奏曲」はザールブリュッケンで初演され、オペラ「モンテズマと赤毛の司祭」のオーケストラ組曲も初演される。 同時に、レスピーギの「ボッティチェリの3枚の絵」が演奏される。このように音楽の世界が融合しているのが、クーラらしいところといえる。歌手として、彼は古典的なイタリアのオペラのレパートリーで特に優れているが、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの現代のオペラでデビューしている。
この幅広さは、彼の作曲作品にも反映されている。クーラは、伝統を生かして再調和させる。例えば彼のモンテズマの管弦楽組曲は、ネオバロック様式の要素にもとづいている。そして「透明感のある音で、かき消されやすいシャイな楽器ギター」のための協奏曲では、彼の故郷のフォルクローレに近づけている。そのために、あえて理解しやすい声調言語を選択したとクーラは説明する。現代音楽の大きな問題点の1つとして、「聴衆がそれを理解できないために、拒否反応を示す」ことがしばしばある。 「それがおそらく、演奏会のプログラムに現代的な曲がほとんどない理由だ」と残念がる。
「しかし、音楽はコミュニケーションだ。そのために、作曲家は理解しやすい言葉を目指して努力する必要がある」とクーラは強調する。
「バッハの後、音楽に新しいものは何も発明されなかった。したがって、独創性を求める声に対しては、大胆さや目立ちたがり屋ではなく、真正さと誠実性によってのみ満たすことができる。観客は、あなたが真実で信頼できるかどうかをすぐに見抜く。技術は常に同じ。それをどのように組み合わせるかが芸術だ」と説明する。
「私は指揮者のメンタリティで歌う。そして歌手の知識を持って指揮をする。そして歌手のために作曲するとき、歌手のニーズを意識して作曲する。作曲後、私はあらゆる声を試してみる。そして、私自身が喜びをもって対処できないときは、修正する。不自然に感じる音楽を歌うのは嫌だ。」
コンサートは、9月19日日曜日午前11時と午後3時。9月20日月曜日午後7時30分、コングレスホールにて。2月13日、クーラはSSTに戻り、歌手として、オペラアンサンブルで、午後6時にキャリアの中で最も美しいアリアとデュエットを披露する。
今回のコンサート、クーラは作曲家・指揮者としての出演です。コロナ禍でのステイホームの時期、自宅に籠らざるを得なかった時に作曲・編曲した曲が、この間、次々に初演されています。困難な時期はまだ過ぎ去ったわけではありませんが、クーラはまた新しい実りの時期を迎えているように思います。
残念なことに2006年以来、来日がないために、クーラの指揮者・作曲家としてのキャリアは、日本ではまったく知られていません。昨年2020年にアイーダのラダメスで久しぶりの来日公演が予定されていましたが、コロナ禍によりキャンセルになってしまいました。ぜひ、今後は、オペラももちろんですが、アルゼンチン歌曲、指揮者、そして作曲家としてのクーラなど、多面的な姿に焦点をあてて、招聘、企画していただくプロモーターさんがでてこられることを心から願うばかりです。
*画像は関係者のSNSや報道、動画などからお借りしました。