5月に出かけた、島根の旅。
どうしても訪ねたかったところのひとつに
黄泉平良坂(ヨモツヒラサカ)がある。
「黄泉の国(あの世)」と「この世」の境、入口とされている。
由来は、『古事記』による。
ーーはるかはるか昔。
夫婦神である伊邪那岐命(イザナギノミコト)と
妻・伊邪那美命(イザナミノミコト)は
睦まじく島々や神々を生む・・・
けれども、
火の神の出産で、妻・イザナミは死んでしまう・・・
妻恋しさに、夫イザナギは黄泉の国を訪ねる。
夫の熱意に、妻イザナミは
何とか帰れるよう、黄泉国の神々と相談すると、別室へ。
「決して中を見ないで下さいね」と約束させて・・・
でも、見てしまう、夫イザナギ。
そしてびっくり、大慌てで逃げ出す。
妻・イザナミは黄泉の国で、醜い姿に変わっていたのだから。
恥をかかされたと、怒り狂う妻・イザナミ。
さっそく、黄泉の国側は、大勢で追いかけてくるが、
夫イザナギは蔓(カズラ)、筍、桃を投げつけ、
何とか逃げ帰る。
そして、黄泉の国の入口を
大きな岩でふさいだのだったーー
この入口こそが、「黄泉平良坂」とされる。
地元のボランティアさんが管理し、
亡き人への手紙を出せるポストも置かれ
NHK「72hours」で放送されたこともあってか
訪れる人が絶えなかった。
この訪問記は、本家ブログでも綴っているのだが
(→黄泉国の入口・島根の旅7)
興味深いことがある。
「あの世とこの世の境目」は全国に存在するというが、
出雲にいたっては、「黄泉の国」と言う。
調べてみると、そんな土地が、いくつか見つけられた。
おかげで、かなり混乱したのだが・・・
実を言うと、わたしが行きたかった「黄泉の国の入口」は、
ここ「黄泉平坂」ではなかったと、旅の直前にわかったくらいだ。
とにかく、出雲の「黄泉の国」は、いくつかあり、
人を寄せ付けないような難所も多いようだ。
しかも、かなりスピリチュアル(科学的に理由があるが)。
混乱していた頭をスッと冷やしてくれたのが、
お隣、鳥取県の米子市立図書館で見つけた本だった。
ザ・出雲研究会編『出雲国風土記 フシギ発見の旅・ガイドブック』に
よると・・・
「『記』『紀』(注『古事記』『日本書紀』)を見ると、
出雲は根の国(地底の国、死者の国)であるとほのめかしたり、
<ちはやぶる荒ぶる国つ神の多(キワ)なる国>(記)
<さばえなす悪しき神><邪(ア)しき鬼>の満ちている国(紀)」37頁
などと書かれているという。
さらに「大穴持命オオナムチノミコト/大国主神オオクニヌシノミコト」を
八千矛神(多くの武器を持つ神)と別称し、
「出雲は荒々しく、得体の知れない国であることが強調されている」
そうだ。
「大和朝廷が編集した国史『記』『紀』が、
出雲に対す悪印象をうえつけよう」と図ったのではないかと、
著者は考える。
『古事記』の<国譲り神話>だ。
大穴持命は、高天原に敗れ、壮大な宮殿に自分を祀ることを
条件に、国を譲っている。
出雲に大和朝廷と対抗する勢力があり、
やがて屈服したと史実の反映と見なされる。
「大和朝廷は、長年のライバルのイメージダウンを図るため、
古来の伝承を利用して出雲を利用して
出雲を黄泉の国と結びつけたのかも知れない 39頁」と、
このエピソードは結ばれている。
なるほど・・・
歴史は勝者が作るものだったのかもしれない。
・・・と、わたしのにわか知識。
学生時代、記紀万葉が、どうも好きになれず、
避けたことが悔やまれる。
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