G7内ではイタリアに一帯一路からの離脱を求める声が強まる(7月27日、ホワイトハウスで
バイデン米大統領と会談するメローニ首相㊧)=ロイター
【ウィーン=田中孝幸】イタリアのメローニ政権が中国の広域経済圏構想「一帯一路」からの離脱を模索している。権威主義的な中国の影響力拡大への懸念が広がり、経済面の恩恵が乏しいことへの不満も強まったためだ。対中関係の悪化による経済への打撃はできる限り避けたい考えで、年末に向けて離脱への軟着陸を探るとみられる。
イタリアは欧州連合(EU)懐疑派のコンテ政権時の2019年、主要7カ国(G7)として唯一、一帯一路への協力の覚書を結んだ。覚書の期限は24年3月で、その3カ月前までに離脱を表明しなければ自動更新される。
イタリア側には習近平(シー・ジンピン)国家主席肝煎りの構想への参加で中国からの投資や対中輸出を増やし経済の底上げを図る狙いがあった。ただ、イタリア政府の統計によると19年に130億ユーロ(約2兆円)だった対中輸出額は、22年は164億ユーロにとどまった。
同期間に中国のイタリアへの輸出は317億ユーロから575億ユーロに増え、貿易赤字は拡大した。一帯一路に参加しないフランスやドイツが22年、対中輸出を急拡大させたこともあり、イタリア側の不満は強まった。
イタリアのクロセット国防相は7月30日付の地元紙とのインタビューで、一帯一路への参加について「行き当たりばったりで、ぞっとさせる決定だった」と批判した。タヤーニ副首相兼外相も6月、一帯一路によってイタリアは「多くの恩恵を受けていない」と明言した。
この間、中国はイタリアの重要インフラへの浸透を図り、EU内で懸念が広がった。国営企業で米国の制裁対象になっている中国交通建設(CCCC)は19年、伊東部トリエステ港と開発に向けて協力を進める覚書を取り交わした。
中国やロシアなど権威主義陣営の影響力の拡大を警戒するG7内では、イタリアに一帯一路からの離脱を求める圧力が高まっている。7月27日にメローニ首相がワシントンでバイデン米大統領と会談した際も、一帯一路の問題が議題になった。会談でバイデン氏は早期離脱を求めたとみられている。
イタリアは24年のG7の議長国でもある。民主主義陣営の結束が求められるなか、メローニ政権内では一帯一路に参加したままでは国際的な指導力を発揮できなくなるとの懸念も広がる。
ただ、離脱による中国の経済的な報復措置はできるだけ避けたいのも本音だ。イタリア経済は停滞が続いており、4〜6月の国内総生産(GDP)は前年同期比0.6%増にとどまった。製造業景況感指数も7月まで4カ月連続で悪化した。
メローニ氏は5月、「一帯一路に参加しなくても良好な対中関係は可能だ」と強調した。7月30日放送の米FOXニュースとのインタビューでも一帯一路からの離脱の是非に関し「12月までに決断するだろう」と述べたうえで、中国政府との協議も必要になると指摘した。
中国にとってイタリアの一帯一路の参加は習政権のメンツがかかっている側面があり、引き留めに躍起になっている。中国共産党の劉建超中央対外連絡部長は6月下旬、イタリアを訪問し、タヤーニ氏や経済界の代表者と会談。一帯一路による協力の継続を強く働きかけた。
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日経記事 20230803より引用