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NATO事務総長、対北朝鮮「ロシアの核開発支援を懸念」

2024-06-19 17:29:15 | NATO・EU・ウクライナ・ロシア・中国・中東情勢


ストルテンベルグ氏㊧はブリンケン氏との共同記者会見に臨んだ=ロイター

 

【ワシントン=坂口幸裕】

北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は18日の記者会見で、ロシアが軍事協力を深める北朝鮮にミサイルや核開発計画を支援する可能性があると懸念を表明した。

ロシアのプーチン大統領による18日からの訪朝は両国が深く結びついている証左だと訴えた。

 

訪米中のストルテンベルグ氏は首都ワシントンでブリンケン米国務長官との共同記者会見で語った。

プーチン氏の訪朝について「ロシアが北朝鮮、中国、イランのような権威主義国家と非常に緊密に連携しているのを示している」と話した。

 

対ロ支援の動きを踏まえ「安全保障を地域ごとに分ける考えはもはや通用しない。

すべてが絡み合っており、こうした課題に一緒に取り組む必要がある」と指摘。「欧州で起きる事態はアジアにとって、アジアで起こる事態は我々にとって重要だ」と訴えた。

 

ストルテンベルグ氏は7月9〜11日にワシントンでNATO首脳会合に日韓やオーストラリアなどを招くことに触れ「アジア太平洋地域のパートナーと協力をさらに強化する理由のひとつもここにある」と説明した。

主要7カ国(G7)は14日に採択した首脳宣言で、ロシアの継戦能力を支える中国への制裁強化に踏み込んだ。ロシアとの軍事転用可能な技術・部品の取引に関与すれば、中国の金融機関をG7の金融ネットワークから締め出すと警告した。

 

米欧は中国が殺傷力のある武器をロシアに供与した実績はないと分析する一方、兵器製造に欠かせない半導体や工作機械、電子部品などの輸出を続けていることに警鐘を鳴らす。

ストルテンベルグ氏は中国について「欧州の国々と正常な貿易関係を続けながら、同時に第2次世界大戦以来最大の戦争を引き起こすことはできない」と主張した。

 

欧州との経済関係維持とロシア支援を念頭に「中国が両立するのは不可能だ。ある段階で中国に重大な結果をもたらさなければならない」と断言した。

ブリンケン氏はロシアが防衛産業に使うデュアルユース(軍民両用)品である工作機械の7割、半導体の9割を中国から輸入しているとの分析を明かした。「そのおかげでロシアは防衛産業基盤を維持し、戦争を継続できている」と述べた。

 

ストルテンベルグ氏はロシアのウクライナ紛争について「中国、北朝鮮、イランが支えている。

彼らは米国やNATOに失敗させたがっている」と断じた。ウクライナが敗れれば「世界はより危険になる。ウクライナ支援は慈善事業でなく、我々自身の安全保障上の利益だ」と力説した。

 

 
 
北朝鮮

金正恩(キム・ジョンウン)総書記のもと、ミサイル発射や核開発などをすすめる北朝鮮。日本・アメリカ・韓国との対立など北朝鮮問題に関する最新のニュースをお届けします。

 

 

日経記事2024.06.19より引用

 

 


50万量子ビットでスパコン超えも、エラー訂正で早まる量子計算機の実用化

2024-06-19 17:07:41 | 科学技術・宇宙・量子・物理化学・生命・医学・生物学・脳科学・意識・人類史

量子エラー訂正技術でハードウエアに要求される性能を低減できそうだ(写真:米IBM)
量子エラー訂正技術でハードウエアに要求される性能を低減できそうだ
(写真:米IBM)

 

 

 

量子コンピューター業界では現在、様々な量子誤り(エラー)訂正技術が開発されている。

量子コンピューターの最大の課題ともいえる量子エラーを低減できれば、遠い未来の話と思われていた量子コンピューターの実用化が早まるからだ。

 

量子コンピューターのハードウエア性能の要件が緩和される見込みだ。

どれほどの規模が必要になるのか、記者は取材で調べてみることにした。

 

関連記事FTQCは国の想定より早く実現か、量子エラー訂正が急速に進化

 

量子エラーを訂正しながら誤りのない量子計算を実行できる誤り耐性型汎用量子コンピューター(FTQC)は、よく100万量子ビット(物理量子ビット)が必要になるとされる。

この規模の量子コンピューターがあれば、酵素反応の解析など多くの用途でスーパーコンピューターを超える計算能力を発揮できるようになる見込みだ。

 

さらに、暗号の解読などに使われる2048ビットの素因数分解には、2000万量子ビットが必要になるとの試算もある。

 

 

素因数分解やデータベース検索には数千万量子ビットが必要になるとされている(出所:日経クロステック)
 
素因数分解やデータベース検索には数千万量子ビットが必要になるとされている
(出所:日経クロステック)
 

 

 

関連記事「100万でFTQC実現へ」、量子ビットが増えると何ができるのか

 

 

 

しかし、量子コンピューターが古典コンピューターよりも高速に問題を解くためにどれほどの計算リソースが必要になるかは、これまで定量的に評価されてこなかった。

量子ビットを担うハードウエアや量子回路の設計、効率的なエラー訂正技術など、まだ開発が始まったばかりで、システム全体を考慮した議論ができていなかったからだ。そこでこの問題を明らかにする研究が目下、進行している。

 

 

 

50万量子ビットでスパコン超えを検証

内閣府が主導するムーンショット型研究開発制度で東京大学大学院工学系研究科教授の小芦雅斗氏が率いる理論のプロジェクトでは、NTTの研究グループを中心に量子コンピューター全体の技術レイヤーを考慮した理論モデルを構築している。

超電導方式の量子コンピューターにおいて、誤り耐性のある量子計算に必要な量子ビット数や論理演算を算出できる。研究者が新しいハードウエアやエラー訂正を考えたときに、アイデアの有効性を容易に調べられるツールとして利用できる。

 

 

 

小芦氏とNTTの研究チームは様々な技術レイヤーを想定したモデルを構築する(出所:ムーンショット型研究開発制度の資料を基に日経クロステックが作成)
 
 
小芦氏とNTTの研究チームは様々な技術レイヤーを想定したモデルを構築する(出所:ムーンショット型研究開発制度の資料を基に日経クロステックが作成)
 
 
 
 

例えば、「この符号を使えばエラー率を低減できるが、ゲート速度が低下してしまう」「必要な量子ビット数はこれぐらいで、計算時間はこれだけ短縮できる」といったように、性能をシミュレートできるようになる。

実際にこのモデルを使って、物性物理学の計算に使われるハイゼンベルク模型の基底エネルギーを推定する場合、50万量子ビットがあれば量子コンピューターがスパコンを超える性能を達成できることが分かった。

 

これまで、多くの研究者はごく限られたレイヤーの研究にしか取り組めておらず、技術レイヤー全体の影響を検証できていなかった。複雑なシステムでは、性能を推定するのに限界がある。そこでこのツールを使うことで、研究開発を加速できると期待する。

 NTTと小芦氏らは、様々なハードウエアや符号(コード)を評価できる「クロスレイヤー協調設計モデル」を2025年にも構築する計画だ。近年開発が進む中性原子方式やシリコン方式のハードウエアの評価などにも応用できそうだ。最終的には、「異なる技術レイヤーにまたがる課題の解決」「個別のレイヤーでの性能改善が全体に与える影響の評価」「最先端の量子計算機の設計」に応用したい考えだ。

 

 

 

1桁少ない量子ビットでも優位性

量子コンピューターでは、解く問題の種類によっては小規模な計算リソースでも、古典コンピューターを超える性能を発揮できる場合がある。

東京大学は、超電導方式の量子コンピューターを物性物理学に応用する場合にこれまで考えられていた数字より1桁以上も少ない計算リソースで量子優位性を実現できることを明らかにした。

 

東京大学大学院工学系研究科助教の吉岡信行氏らの研究チームは、量子アルゴリズムを解析することで、量子超越性を達成するための理論的な最小条件を求めた。

研究では、量子コンピューターの量子アルゴリズムとして、量子位相推定(QPE)法を活用した際の計算時間を理論解析し、古典コンピュータのアルゴリズムとしてテンソルネットワーク法をスパコン上で実行して解析し、両者を比較した。QPEにおける最適な設計を特定したのち、10億以上の量子ゲートを書き下すなど精密な解析で計算時間を求めた。

 

これにより、物性物理学における中心的なターゲット群である「2次元の強相関量子多体模型」において、数十万量子ビットの量子コンピューターで量子優位性を実現できることが分かった。

このレベルのハードウエアは2030年代にも実現できるとの予測があり、近い将来に実現できる見込みだ。吉岡氏は「今後も色々なモデルを検討して、物性物理や材料化学など様々な分野に応用していきたい」と語る。

 

 

量子優位性を達成するための要件は用途によって異なる(出所:東京大学)

 

量子優位性を達成するための要件は用途によって異なる(出所:東京大学)

 

 

 

もちろん、量子コンピューターの性能を決める要素は量子ビット数だけでなく、ハードウエアの種類やエラー率、組む量子回路の良しあしにも影響されるので議論は複雑だ。

ただ、エラー訂正技術によって量子コンピューターに求められるハードウエア性能の要件が緩和されることは間違いない。

今のエラー訂正のトレンドが、量子コンピューターの実用化を阻む壁を突破する原動力になることを記者は強く期待している。

 

 

 

          日経記事2024.06.19より引用

 

超小型化に向け、日本得意の微細化技術をフル動員

2024-06-19 15:56:46 | 科学技術・宇宙・量子・物理化学・生命・医学・生物学・脳科学・意識・人類史

高周波発振器 BAW素子採用でPLLを不要に

体積弾性波素子(BAW素子)は水晶など体積弾性波を利用した圧電振動子の総称であるが、水晶と差別化するため、本稿ではこの定義を「圧電薄膜を用いた振動子」に限定して用いることとする。

BAW素子は圧電薄膜を上下電極膜で挟んだ構造をしており、基本振動を強勢に得るため、この多層構造が基板から振動絶縁されている。代表的なBAW素子の構造を図3に示す。

 

 

図3 BAW素子の構造例

 

図3 BAW素子の構造例
BAWでは振動絶縁のために、様々な構造がある。例えば、(a)のように基板の掘り込みにより共振器の直下に空隙を形成したり、(b)のように基板に加工を施さず共振子を浮かすことにより空隙を形成したりする。
 
また、(c)のように 音響インピーダンスの極端に異なる2つの膜をλ/4の厚さで交互に成膜し、音響的なブラッグ反射膜を形成することで共振器に振動エネルギーを閉じ込める構造も実用化されている。(図:筆者)
 
 
 
 

BAW素子は携帯電話機のフロントエンドにて、送受信デュープレクシングを行うフィルター素子として広く活用されており、表面弾性波素子(Surface Acoustic Wave:SAW素子)と比較して、2GHzを超えるような高い周波数帯で好適に利用される(図4)。

CPT原子時計で活用される代表的なアルカリ金属元素であるルビジウム(Rb)とCsの時計遷移周波数を図4に書き加えると、BAW素子の利用帯域が原子時計の帯域に重なることがわかる。

 

特にRbの周波数は実際の通信規格のそれと重なる。このBAW素子を共振器として活用し、原子時計用の発振器を構築することで、水晶発振器とPLLベースの周波数逓倍器とを必要としない、新規の原子時計システムを、円滑に市場展開することが可能となる。

 
 
 
図4 SAW/BAW素子の通信システムにおける住み分けと原子時計の動作周波数との関係
 
図4 SAW/BAW素子の通信システムにおける住み分けと原子時計の動作周波数との関係
2GHz周辺以下ではSAW、以上ではBAWが適していると一般に言われている。ただし近年の開発では、これに限らない。(図:筆者)
 
 
 
 
図5は我々が開発したBAW発振器の特性である。図5(a)は開発した素子の発振スペクトルである。
 
Rb原子時計で必要とされる3.417GHzの発振周波数が周波数逓倍処理なしに実現されている8)
 
 
図5(b)はRbのCPT共鳴を用いて安定化を行った場合の発振スペクトルである。測定スパンが大幅に狭まっていることに注目すると、発振ピークが急峻となり、位相雑音の改善が得られている9)
 
 
 
 
 

 
 

図5 原子時計用BAW発振器の特性
 
 
 
図5 原子時計用BAW発振器の特性
開発した素子の発振スペクトルでは、Rb原子時計で必要とされる3.417GHzの発振周波数を周波数逓倍処理なしに実現している(a)。
 
RbのCPT共鳴を用いて安定化を行うと、発振ピークが急峻となり、位相雑音も改善される(b)。
 
発振の安定度の指標であるアラン分散では、原子スペクトルに安定化され、平均時間にともなって分散が減少していく様子が確認できる(c)。
(図:筆者)
 
 
 
 
 

図5(c)は、アラン分散による周波数安定度を評価した結果である。

ここで、アラン分散は発振周期のばらつきを統計的に処理したもので、分散が小さいほど周期(周波数)が安定していることを示す。

また、この分散が平均時間を増大させるのに伴って減少する場合は、発振器への安定化制御が有効に機能し、平均化効果で周期のばらつきが抑制されていることを示している。

一方、増大していく場合は、周波数が定まらず、ずれていく(ドリフトする)様子を表している。本図では、フリーランニング状態のBAW発振器がドリフトしていくのに対して、BAW発振器を図2(a)のフィードバックシステムに組み込むことで、安定した原子時計動作が得られていることが確認される9)

 図6は我々が開発したBAW発振器の写真である。サイズ比較のため、水晶発振器とPLLチップとで構成した原子時計用RF発振器の写真を付記した。本図より、BAW発振器のコンパクトさが実感される。

 
 
 
 
図6 原子時計用BAW発振器のサイズイメージ
 
 
 
図6 原子時計用BAW発振器のサイズイメージ
水晶発振器をPLLを用いて逓倍処理を掛ける場合(a)と比較して、開発を行ったBAW発信器では大幅な小型化が実現できる(c)。
 
なお、真ん中のクモ(b)は、ハエトリグモ(♀)で、日本で一般的に見られる巣を持たない徘徊性のクモである。発達した2つの愛らしい目が特徴的である。(図・写真:筆者)
 
 
 
 
 

量子光学系 MEMSミラーで低背化

原子時計がチップ部品として受け入れられるには低背化の議論が必須である。小型原子時計モジュールの高さは、現状、cmオーダーであり、そのまま実装するとボードから突き出し、携帯機器のスマートな筐体デザインを損ねてしまう。

 原子時計モジュールの低背化に向けたボトルネックは量子光学系にある。アルカリ金属元素を封入したセルを挟むように発光素子と受光素子とが対向配置される現行の実装方式(図7(a))では、高さ方向のサイズ圧縮に限界がある。

これに対し、我々は、MEMSミラーを内蔵した図7(b)のガスセルを開発した10)。本方式では、受発光素子を片面実装できるとともに、原子とレーザーとの干渉長を、ガスセルの厚さを増大させず、ミラーアレンジだけで延伸させることが可能である。

また、片面に集約された受発光素子は光集積回路としてワンチップにすることも可能である。

MEMS技術を用いたミラーの内蔵は、高反射率な貴金属薄膜に対するアルカリ金属元素の高い反応性から、反射率の確保に課題があった。

我々は、ミラーとして誘電体多層膜を活用して耐腐食性を確保し、高い反射率を実現した。これによって狭線幅なCPT共鳴の取得に成功し11)、原子時計動作の実測評価から、短期周波数安定度として10−11オーダーの特性を取得した12)

 
 
 
図7 MEMSガスセルの構成
 
 
 
図7 MEMSガスセルの構成
これまでのガスセルは、発光部と受光部がガスセルを挟んで、積み上げるように配置されていたため、モジュールのコンパクト化が難しかった(a)。MEMSミラーを集積することで光路を自由に設計でき、よりコンパクトで薄型のガスセルを実現できるようになった(b)。(図:筆者)
 
 
 
 
 

将来的にガスセルは全固体化・薄膜化されることが望まれ、それに向けたいくつかの研究シーズがすでに報告されている13)14)

いずれの研究でも、炭素結晶中に原子(不活性な窒素原子が多い)が不対電子を維持したまま閉じ込められており、この原子の超微細構造遷移(Hyperfine splitting)を時計遷移として光学的に取得している。

これらの技術は、製造コストや安定性の面でブレークスルーを必要とするものの、今後の発展が大いに期待される。

 

 

デジタル判別系 よりシンプルなシステムループへ

デジタル判別器はロックイン増幅器によって実装される。従来は市販のマイクロコントローラーを用いてボード上に組み込まれるが、このままでは低消費電力化と小型化とに行き詰まる。

ASIC(Application Specified Integrated Circuit)を活用する手段も想定されるが、その場合、市場の獲得と開発コストとの間でジレンマを抱えることとなる。

 

1つの解は、量子光学系を共振器と捉え、自励発振系を構築することである(図2(b))。これによってデジタル判別の工程自体が省略できる。

ただし、自励発振系の構築には、新規に2つ技術開発を要する。1つはより高コントラストに量子光学系から共鳴線を得る手法であり、もう1つは時計周波数を2分周してフィードバックする発振回路の開発である。

 

CPT共鳴はセルの透過光強度により観測されるため、バックグラウンド光の影響を受けやすく、高いSN比の確保が難しい。

コントラストを向上させる手法として直交偏光子法と4光波混合法とが挙げられる15)16)

 

直交偏光子法は直線偏光レーザーが原子と相互干渉したときにわずかながら偏光方向を変化させることを利用したもので、原子へのレーザー照射を直線偏光で行い、検出器前段の偏光子の角度を調整することで、不要なバックグラウンド光を除去する。

4光波混合法は、励起準位の異なる2つの3準位系において、2つのポンプ光λ1、λ2とプローブ光λ3が注入されるとき、λ4なる光が生成される現象を利用するものである(図A-1を参照)。

 

このλ4を偏光子とガスセルを用いて単離することで、高コントラストな共鳴線が得られる。

4光波混合法は高コントラスト化に非常に優れる一方、ガスセルと光源とをそれぞれ複数準備する必要があり、オンチップ化は容易ではない。

 

2分周発振回路はCPT方式固有の課題と言える。CPT共鳴に必要な2本のレーザーには、通常、単一レーザーへの周波数変調によって得られるサイドピークが充てられる。

そのため、量子光学系から出力される時計遷移周波数に対して、半分の変調信号を入力する必要がある。我々は、現在、前述のBAW発振器への注入同期による分周を検討している(図8(a))。

 

3GHz帯に共振周波数を持つBAW素子に6GHz帯の時計周波数を強制注入し、BAW素子の非線形性から2分周された3GHz帯の発振を得る試みである17)

すでに実際のデバイスにて、6GHz帯の信号注入に対して、3GHzの発振が得られることが確認されている(図8(b)、(c))。

 

 

    

 

 

図8 BAW発振器を利用した2分周発振器

図8 BAW発振器を利用した2分周発振器
時計周波数(6GHz帯)からCPT共鳴取得に必要な変調周波数(3GHz)を非線形効果による分周効果を利用して生成する(a、b)。この回路に6GHz帯の信号を注入すると、3GHz帯に強勢な分周信号が確認された(c)。
(図と写真:筆者)
 
 
 
 
 

おわりに

原子時計の小型モジュール化は、2000年代のNISTからの衝撃的なレポートを起点に、世界各国で検討されることとなった。

先行した米国でのプロジェクトは製造まで意識し、早い段階で企業間の競争が促された18)19)。市販化までの急峻な立ち上がりはここにも1つの要因があったように思われる。

 

本稿では、先行して開発された小型原子時計モジュールを要素に分け、個々に小型化・簡単化の方向性を示し、NICTが大学などの研究機関と共に得た成果を中心に議論を進めた

今後の集積化・集約化のフェーズでは、熱や磁場の閉じ込めに配慮したパッケージ設計や、振動・放射線といった環境変数に対する耐性強化など、さらに多くの検討課題と向き合うこととなる。

 

これらに、多元的かつ、効率的に取り組むには、今までのように官学のプレーヤーだけでは限界があり、明らかにピースが欠けている。

やはり、民間企業によるエンジニアリングが必要不可欠と考える。これは、米国の先行事例からも明白に感じ取られる。

 

*本研究の一部は、総務省 戦略情報通信研究推進事業(SCOPE)(195003003)の支援を受け、実施された。
 

NICTでは、本編で示した要素技術の開発に注力するとともに、企業、特に我が国の製造業が参画しやすい環境を整えている。

原子時計動作の評価を目的としたテストベンチや、CPT共鳴の高速シミュレーターの開発を実施し、これらを用いた開発環境を技術支援制度の一環としてオープンラボ化している。

 

また、実際の部品供給で課題となる特殊材料の入手や組み込み部品の歩留り(スクリーニングコスト)改善に向けた技術開発も行っている。

本稿を通じて、原子時計やその微細化技術に興味を持つ技術者・研究者または学生の輪が広がることを期待している。

 

 

 

 
参考文献
1)N.Cyr et al., “All-optical microwave frequency standard:a proposal," IEEE Trans. Instrumentation and Measurement, vol.42, pp.640, 1993.
2)J.Kitching et al., “Miniature vapor-cell atomic-frequency reference," Appl. Phys. Lett., Vol.81(3), pp.553, 2002.
3)R.Lutwak et al., “The MAC-a miniature atomic clock," in Proc. IEEE IFCS 2005, pp.752, 2005
4)J.Haesler et al., “Swiss miniature atomic clock:First prototype and preliminary results," in Proc. EFTF 2012, pp.312, 2012.
5)J.Zhao et al., “Chip scale atomic resonator frequency stabilization system with ultra-low power consumption for optoelectronic oscillators," IEEE Trans. Ultrason. Ferroelectr. Freq. Control., Vol.63(7), pp.1022, 2016.
6)H.Zhang et al., “ULPAC:a miniatured ultralow-power atomic clock," IEEE J.Solid-State Circuits, Vol.54(11), pp.3135, 2019.
7)R.Lutwak, “Principles of atomic clocks," in Tutorial Material of the IEEE IFCS 2011.
8)M.Hara et al., “Microwave oscillator using piezoelectric thin-film resonator aiming for ultraminiaturization of atomic clock," Rev. Sci. Instrum., Vol.89(10), 105002, 2018.
9)M.Hara et al., “Drift-free FBAR oscillator using an atomic-resonance-stabilization technique," IEEE IUS2019, pp.2178, 2019.
10)H.Nishino et al., “A reflection-type vapor cell using anisotropic etching of silicon for micro atomic clocks," Appl. Phys. Express, Vol.12(7), 072012, 2019.
11)H.Nishino et al., “A reflection type vapor cell based on local anodic bonding of 45°mirrors for micro atomic clock," in Proc. Transducers & Eurosensors XXXIII, pp.1530, 2019.
12)Y. Yano et al., “Micro-device-technologies toward chip level integration of Microwave Atomic Clock System," in Proc IEEE IFCS2020, 2020.
13)J.S.Hodge et al., “Timekeeping with electron spin states in diamond," Phys. Rev. A, 87, 032118, 2013.
14)R.T.Harding et al., “Spin resonance clock transition of the endohedral fullerene 15N@C60," Phys. Rev. Lett., 119, 140801, 2017.
15)S.Knappe et al., “Advances in chip-scale atomic frequency references at NIST," in Proc. SPIE, Vol. 6673, 667307, 2007.
16)Y.Yano et al., “High-contrast coherent population trapping based on crossed polarizers method," IEEE Trans. Ultrason. Ferroelectr. Freq. Control, Vol. 61(12), pp.1953, 2014.
17)M.Hara et al., “Injection Locking Type 1/2 Frequency Divider Employing Poezoelectic MEMS resonator for Simplifying the Micro Atomic Clock System," in Proc IEEE MEMS 2020, pp.1195, 2020.
18)J.F.DeNatale et al., “Compact, low-power chip-scale atomic clock," in Proc. IEEE/ION Position, Location Navigat. Symp., pp. 67, 2008.
19)D.W.Youngner et al., “A manufacturable chip-scale atomic clock," in Proc. Int. Solid-State Sensors, Actuat. Microsyst. Conf., Jun. 2007, pp.39, 2007

 

出典:日経エレクトロニクス、2020年9月号 pp.88-92

記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

 

 

          日経記事 2020.09.18より引用

 

 

 


スマホに載る原子時計実現へのシナリオ

2024-06-19 15:27:25 | 科学技術・宇宙・量子・物理化学・生命・医学・生物学・脳科学・意識・人類史

情報通信研究機構(NICT)では、原子の発光スペクトルを活用したクロック安定化技術のオンチップ実装を目指している。

本誌2020年6月号Perspective「原子時計のチップ化が導く、高精度デジタルツイン」では、高安定なクロックチップを小型化し、様々なデバイスに組み込むことによって得られる社会的インパクトについて述べた。

本稿では、この高安定なクロックチップを実現するためのキー技術について紹介する。

 

 

NICTが開発を進めている原子時計向け発振器

NICTが開発を進めている原子時計向け発振器
MEMS技術を駆使して作成される圧電振動子を活用することで、ゴマ粒大のRF発振器の実現を目指している。
 
 
 

現在、セシウム(Cs)ビームを利用したラックマウントサイズの原子時計が各国の時刻標準の生成に広く採用されている(図1)。

情報通信研究機構(NICT)にも18台のCsビーム型原子時計が配備され、水素メーザーや原子泉型の周波数標準と組み合わせて日本標準時(Japan Standard Time:JST)の生成を担っている。

 

Csの吸収遷移、いわゆる時計遷移がSI単位系の秒の定義として1967年に採用され、その後、GPS衛星への搭載とともに、原子時計は堅牢な筐体への収納・集積が進み、計測器サイズのラックマウントへと進化していった。

しかし、ラックマウント実装は可搬ではあるものの、ハンドキャリーには重厚で、先進デバイスとなるエッジサーバーや携帯端末への高精度な周波数/時刻標準源の搭載には、さらなる技術革新を必要とした。

 

 

 

図1 原子時計のサイズトレンドとアプリケーション

図1 原子時計のサイズトレンドとアプリケーション
1967年にCsの吸収線が秒の定義に採用されてから、ラックマウント実装による小型化が進み、現在、数cm角のモジュールが発売されるに至っている。
 
今後はチップサイズの原子時計が市場に登場することになるだろう。これに伴い、スマートフォンやドローンなど、原子時計の応用は格段に拡張される。(図:筆者、写真:PIXTA)

 

Csビーム型原子時計=Csを加熱によってビーム状に放射させ、時計遷移に相当するマイクロ波を、インターバルを置いて2回、相互作用させる。これによってラムゼー共振を誘起し、Csの時計周波数(約9.12GHz)を狭線幅に取得する。周波数安定度は10−12台である。

水素メーザー原子周波数標準=中性水素原子メーザーを用いた周波数標準。約1.42 GHzで発振し、10−13程度の高い周波数安定度を得る。

原子泉型周波数標準=マイクロ波を作用させた冷却原子を噴水状に打ち上げて、自由落下させたのち、再度、マイクロ波を照射する。Csビーム方式よりマイクロ波との相互作用のインターバルを長く確保できるため超狭線幅な共振が実現され、10−15オーダーの優れた周波数安定度が得られる。
 
 
 
 
 

詳細は後述するが、原子時計の小型化の契機となったのは、1993年のCPT(Coherent Population Trapping)共鳴を利用した周波数標準器の提案1)である(別掲記事「CPT共鳴とそれを活用した周波数標準」を参照)。

本方式は原子からの時計遷移を原子への変調レーザーの照射のみで取得することができるため、原子ビームを生成する加熱炉やマイクロ波干渉を得る導波管など、微細化が困難な装置類を原子時計から除去できる可能性が示された。

 

そして、2000年代に入り、MEMSパッケージやレーザー受発光素子のチップ化・低コスト化が成熟し、米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology:NIST)を中心にCPT方式を用いた小型原子時計の実装が報告され、モジュールデバイスとして市販されるに至った2)3)

このMEMS技術を活用したNISTの報告は世界に大きな衝撃を与えた。

 

小型原子時計モジュールは、国防的な意図を持った大規模プロジェクトの下、開発が進められたが、今後は、当該技術に集積回路技術や微細加工技術を詰め込み、格段の小型・低コスト化を図って民生用途の市場へ浸透・拡散を図るフェーズへとシフトチェンジしていくだろう。

そして、このフェーズは我が国が得意としてきた精緻(せいち)なキャッチアップ戦略と整合する。

 

 

チップ化への道しるべ

CPT方式を用いた小型原子時計モジュールの開発は、NISTから欧州、中国そして日本へと波及した注1)

情NICTにおいても、ここからさらに小型化を推進し、オンチップレベルにまで集積化する研究を進めている。

 

注1)各国での小型原子モジュールの研究状況については参考文献4)5)6)を参照されたい。また、小型化のシナリオについては、参考文献7)が参考になる。
 

CPT原子時計のシステムブロックを図2(a)に示す。

原子時計はガスセルを含む量子光学系①と高周波発振系③、そして、量子光学系からスペクトルを得て高周波発振器へ周波数補正用のエラー信号を供給するデジタル判別系②の3つのシステムからなる。

 

この3つの中で、高周波発振器とデジタル判別器とが消費電力とボード面積の70%近くを占有することが知られている7)

特に、高周波発振器は水晶発振器などの多数のオフチップ部品から構成されていることから、小型化・低消費電力化の余地が大きいと考えられる。

 

そこで、我々は、水晶発振器とPLL(Phase Locked Loop)ベースの周波数逓倍器からなる従来の高周波発振器ではなく、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を活用したBAW(Bulk Acoustic Wave、体積弾性波)発振器に着目した。

これにより、高周波発振器はBAW素子と増幅器のみで構成され、さらにワンチップ化も視野に入れることが可能となる。

 

 

図2 CPT原子時計のシステムブロック

 

図2 CPT原子時計のシステムブロック
従来のCPT原子時計のシステムブロックは3つの要素に分けることができる(a)。
 
量子光学系を共振器と捉え、自励発振系を構築できれば、デジタル判別器を省略でき、原子時計システムの格段の小型化が期待される(b)。(図:筆者)
 
 
 
また、モジュールハイト(高さ)にも目を向けると、スタック構造で実装される量子光学系の高さが際立つ。
 
これに対して我々は、ミラーなどの光学素子を集積化することでレーザー光路を最適設計し、コンパクトな量子光学系の実現を目指した。そして、近年は、デジタル判別器の省略化にも着手している。以下、これらのアプローチについて紹介していく。
 
 

 
参考文献
1)N.Cyr et al., “All-optical microwave frequency standard:a proposal," IEEE Trans. Instrumentation and Measurement, vol.42, pp.640, 1993.
2)J.Kitching et al., “Miniature vapor-cell atomic-frequency reference," Appl. Phys. Lett., Vol.81(3), pp.553, 2002.
3)R.Lutwak et al., “The MAC-a miniature atomic clock," in Proc. IEEE IFCS 2005, pp.752, 2005
4)J.Haesler et al., “Swiss miniature atomic clock:First prototype and preliminary results," in Proc. EFTF 2012, pp.312, 2012.
5)J.Zhao et al., “Chip scale atomic resonator frequency stabilization system with ultra-low power consumption for optoelectronic oscillators," IEEE Trans. Ultrason. Ferroelectr. Freq. Control., Vol.63(7), pp.1022, 2016.
6)H.Zhang et al., “ULPAC:a miniatured ultralow-power atomic clock," IEEE J.Solid-State Circuits, Vol.54(11), pp.3135, 2019.
7)R.Lutwak, “Principles of atomic clocks," in Tutorial Material of the IEEE IFCS 2011.
8)M.Hara et al., “Microwave oscillator using piezoelectric thin-film resonator aiming for ultraminiaturization of atomic clock," Rev. Sci. Instrum., Vol.89(10), 105002, 2018.
9)M.Hara et al., “Drift-free FBAR oscillator using an atomic-resonance-stabilization technique," IEEE IUS2019, pp.2178, 2019.
10)H.Nishino et al., “A reflection-type vapor cell using anisotropic etching of silicon for micro atomic clocks," Appl. Phys. Express, Vol.12(7), 072012, 2019.
11)H.Nishino et al., “A reflection type vapor cell based on local anodic bonding of 45°mirrors for micro atomic clock," in Proc. Transducers & Eurosensors XXXIII, pp.1530, 2019.
12)Y. Yano et al., “Micro-device-technologies toward chip level integration of Microwave Atomic Clock System," in Proc IEEE IFCS2020, 2020.
13)J.S.Hodge et al., “Timekeeping with electron spin states in diamond," Phys. Rev. A, 87, 032118, 2013.
14)R.T.Harding et al., “Spin resonance clock transition of the endohedral fullerene 15N@C60," Phys. Rev. Lett., 119, 140801, 2017.
15)S.Knappe et al., “Advances in chip-scale atomic frequency references at NIST," in Proc. SPIE, Vol. 6673, 667307, 2007.
16)Y.Yano et al., “High-contrast coherent population trapping based on crossed polarizers method," IEEE Trans. Ultrason. Ferroelectr. Freq. Control, Vol. 61(12), pp.1953, 2014.
17)M.Hara et al., “Injection Locking Type 1/2 Frequency Divider Employing Poezoelectic MEMS resonator for Simplifying the Micro Atomic Clock System," in Proc IEEE MEMS 2020, pp.1195, 2020.
18)J.F.DeNatale et al., “Compact, low-power chip-scale atomic clock," in Proc. IEEE/ION Position, Location Navigat. Symp., pp. 67, 2008.
19)D.W.Youngner et al., “A manufacturable chip-scale atomic clock," in Proc. Int. Solid-State Sensors, Actuat. Microsyst. Conf., Jun. 2007, pp.39, 2007
 
 
 
 
CPT共鳴とそれを活用した周波数標準

量子論において、光と原子の相互作用が、電子軌道に由来する離散的なエネルギー準位で説明できることはよく知られている。

Coherent Population Trapping(CPT)は図A-1(a)に示すような特徴的なエネルギー準位(3準位系)にて生じる一種の透明化現象である。

 

3準位系において吸収による蛍光スペクトル中に狭線幅な暗線が観測されることが知られており、1970年代後半にはその現象の理論付けがなされた。

理論の詳細にここでは立ち入らないが、現象だけを述べると、図A-1(a)においてIとIIの準位への直接遷移が禁止されている場合、吸収はIからIII(波長λ13)とIIからIII(波長λ23)の2つの遷移のみで生じる。

 

しかし、λ13とλ23の光が同時に原子に照射されると、相互作用はキャンセルされ、蛍光現象も止まり、暗線を生じる。これがCPT現象である。

 

 

図A-1 CPT現象が観測される3準位系

図A-1 CPT現象が観測される3準位系
時計遷移となる微細構造遷移(I→II)の検出に励起準位IIIを利用することでCPT原子時計が実現される(a)。3準位系を多重に利用することで4光波混合が得られる(b)。(図:筆者)
 
 
 
 
 
図A-2に示すように、図A-1(a)の準位を有するガス状原子に2つのレーザーを照射し、ガスを挟んで対向する位置で光検出を行うとする。
 
2つのレーザーの波長がλ13とλ23の近傍にある場合、観測される光強度は原子の吸光によってエネルギーが費やされ、減衰する。
 
 
しかし、2つのレーザーの波長がそれぞれλ13とλ23とに完全に一致すると、CPT現象によってレーザーは減衰することなく光検出器に入り、検出強度は最大化される。
 
この最大化をフィードバックして高周波発振器の安定化に利用するのがCPT原子時計である。
 
 
 
 
図A-2 CPT原子時計の簡略した原理図

図A-2 CPT原子時計の簡略した原理図
図A-1(a)においてλ13とλ23の間の波長λ0を有するレーザーを準備する。このとき、λmodに相当する周波数でレーザーを変調したとすると、λ0±λmodなるサイドピークが生成される。この新たに生成されるサイドピークを原子と相互作用させると、変調周波数がλmod0=|λ1323|/2に相当するとき、透過光強度が最大となる(CPT共鳴)。(図:筆者)
 
 
 
 

CPT原子時計のシステムでは、λ13とλ23の間の波長λ0(λ0=|λ1323|/2)を有するレーザーを準備する。

このとき、λmodに相当する周波数でレーザーを変調したとすると、λ0±λmodなるサイドピークが生成される。

 

この新たに生成されるサイドピークを原子と相互作用させると、変調周波数がλmod0=|λ13−λ23|/2に相当するとき、CPT現象が発現し、透過光強度が最大となる。

今、λ13とλ23の遷移を時計遷移と考えると、透過光強度が最大となるように変調周波数を制御することで、原子時計動作が得られ、変調周波数は時計遷移周波数の半分の周波数で安定化されることとなる。

 

出典:日経エレクトロニクス、2020年9月号 pp.85-88,93

記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 
 
        日経記事 2020.09.17より引用
 

NICT、スマホにも搭載可能な小型原子時計システムを提案

2024-06-19 14:59:01 | 科学技術・宇宙・量子・物理化学・生命・医学・生物学・脳科学・意識・人類史

圧電薄膜共振子を用いた発振器

 圧電薄膜共振子を用いた発信機(出所NICT)


情報通信研究機構(NICT)、東北大学、東京工業大学による研究チームは、周波数逓倍処理を必要としない小型原子時計システムを共同開発した(ニュースリリース)。

実用化されれば、人工衛星や基地局等に搭載が限定されていた原子時計がスマートフォンなどの汎用通信端末に搭載できるという。

 

 

CPT技術の概要

  CPT技術の概要(出所:NICT)
 
 
 
原子時計は、ルビジウムなどのアルカリ金属元素のエネルギー準位差から得られる共鳴現象に外部のマイクロ波発振器を同調させるように制御することで、高い安定度をもつ周波数標準信号を生成する。
 
マイクロ波発振は、低周波の水晶発振器を基に周波数逓倍処理を行って得るのが一般的だが、これを原子時計に採用するとボード面積と消費電力の大部分をマイクロ波発振器に費やすことになる。
 
 
米国を中心に開発が進む小型原子時計は、原子共鳴をより簡易に取得するCPT(Coherent Population Trapping:変調されたレーザー光と気体状態のアルカリ金属元素を相互作用させて原子の共鳴を測定する)技術を用いて作製する。
 
近年では、一部の海洋探査などに利用され始めたものの、スマートフォンやワイヤレス・センサー・ノードのような汎用無線端末に採用する部品には、コスト・サイズ・消費電力の観点から遠く及ばないという。
 
 
小型原子時計の小型化と低消費電力化のボトルネックとなっているのが、マイクロ波制御系。
 
特に外付け部品の水晶発振器やPLL(Phase Locked Loop)を用いた周波数逓倍処理がボード面積と駆動電力の大きな消費源だとする。
 
 
 
小型原子時計の動作概略とマイクロ波発振器の構成

 小型原子時計の動作概略とマイクロ波発振器の構成
(出所:NICT)
 
 
 
今回研究チームは、電界をかけると歪み、歪ませると電圧を生じる圧電薄膜の厚み縦振動に着目した。
 
薄膜の厚み縦振動は、高い周波数で機械共振を得ることが容易で、ギガヘルツ(GHz)帯にある原子共鳴の周波数に対してそのまま同調動作できる。
 
 
そのため、今まで必要だった水晶発振器や周波数逓倍回路を完全に省略することができ、大幅な小型化と省電力化を実現する。
 
研究では、3.5GHz帯で優れた共振動作を示す圧電薄膜共振子(Thin Film Bulk Acoustic Resonator:FBAR)を周波数リファレンスに採用し、水晶発振器を除いたマイクロ波発振器を開発した。
 
 
このマイクロ波発振器により、外付け部品の水晶発振器やPLLを用いた周波数逓倍処理が不要となり、市販の小型原子時計と比べて、チップ面積を約30%、消費電力を約50%抑えることができるという。
 
 
 
厚み縦振動の機械共振を用いた発振器。現状は機械共振子であるFBARと増幅器は個別実装されているが、共にシリコン基板上に作製される素子のため将来的には1つに集積できるとする。
 
厚み縦振動の機械共振を用いた発振器
現状は機械共振子であるFBARと増幅器
は個別実装されているが、共に
シリコン基板上に作製される素子のため将来的
には1つに集積できると
する。 (出所:NICT)
 
 
 
 
また、アルカリ金属元素から共鳴を取得する場合、アルカリ金属は気体状態であることが必要であり、窓のついたケースに封じ込めてレーザーで観察する必要がある。
 
従来はガラス管を利用していたが、小型化と量産性に課題があった。そこで研究チームは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて、ウエハープロセスで製造できる小型ルビジウムガスセルを独自開発した。
 
 
ルビジウムガスセルは、ルビジウムを微小な容器(セル)に封入したもので、開発したマイクロ波発振器と組み合わせて同調動作(原子時計動作)させると、1秒間で10-11台の周波数安定度を得られた。
 
この結果は、市販の小型原子時計と比べると1桁以上の性能改善にあたるという。
 
 
 
マイクロ波発振器の開発に合わせて試作した小型ルビジウムガスセル。ウエハープロセスで製造し、コストの圧縮につなげる。
 
マイクロ波発振器の開発に合わせて試作した小型ルビジウムガスセル
ウエハープロセスで製造し、コストの圧縮につなげる。
(出所:NICT)
 
 
 
今回の成果が実用化されれば、原子時計システムを大幅に小型・低消費電力化することができ、スマートフォンなどの通信端末に搭載可能になる。
 
原子時計が各端末に搭載されれば、利便性が向上するだけでなく、高い同期精度が求められるセンサーネットワークからの情報取得や、GPS電波が安定しない環境でのロボット制御(屋内ドローンや潜水システム)にも新たな市場創出の機会を与えるとしている。
 

今後はデジタル制御系の簡略・省力化に着手し、さらなる低消費電力化を2019年をメドに実施する。

さらに、高密度実装に適した光学系をもつガスセルの開発も進める。
 
なお、今回の成果はイギリスで開催中の国際学会「The 31st IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems(MEMS 2018)」(2018年1月21日~25日)で発表される。
 
 
 
 
 
        日経記事2018.01.24より引用