EVに使う次世代パワー半導体で競争が激化している（デンソーのSiC基板）
デンソーと富士電機は29日、電気自動車（EV）の電力制御などに使用するパワー半導体で協業すると発表した。
両社で2116億円を投じて次世代品の生産体制を構築する。経済産業省は最大705億円を支援する。EV向けは足元で需要が低迷するが、将来の市場拡大を見据えて先行投資で連携し、規模で勝る欧米勢に対抗する。
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2社が生産するのは電力効率に優れる炭化ケイ素（SiC）を用いた次世代のパワー半導体だ。デンソーが素材となるウエハー（基板）を手掛け、富士電機がSiC半導体を生産する。デンソーは愛知県幸田町と三重県いなべ市の工場、富士電機は長野県松本市の工場を増強する。2027年5月以降に半導体の年産能力で31万枚の確保を目指す。
デンソーの関係者は「提携先を増やすことで部品としての競争力を上げる」と狙いを語る。18年には独インフィニオンテクノロジーズに少額出資した。
23年に台湾の受託生産大手UMC（聯華電子）と連携し、同社の三重県内の工場でパワー半導体の共同生産を始めた。24年9月にはロームとも提携を発表し、少額出資する方針だ。
英オムディアによると、パワー半導体のシェアは23年時点でインフィニオンが21.3%と首位だった。
日本企業は三菱電機(4.2%)、富士電機(4.0%)、東芝(2.9%)、ローム(2.6%)が上位10社に入るが、4社のシェアを足してもインフィニオンに届かない。
武藤容治経済産業相は29日に開いた記者会見で「シェア上位の欧米企業並みの供給能力の確保を目指す内容だ」と協業を歓迎した。国は投資額の最大3分の1を補助する。
パワー半導体向けの補助金では支援対象が2000億円以上の投資に限定している。1社では難しい投資のハードルを設けることで企業の合従連衡を促すためだ。これまでは23年に公表した東芝とロームによるパワー半導体の共同生産のみが補助金の対象だったが、今回で2例目が出た格好だ。
デンソーと富士電機が2100億円の大型投資に踏み切った背景には、SiCを使った次世代品が普及期に入ったこともある。
SiCは従来のシリコン製に比べてEVの航続距離が約10%伸びるとされる。米テスラが18年にEVの「モデル3」で採用して以降、欧米自動車メーカーを中心に採用が広がっている。
調査会社の予測ではSiCの市場規模は25年に88億ドル（約1兆3000億円）と24年比61%伸びる。26年には105億ドルに達する。
デンソーも23年にSiC搭載の制御部品をトヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」のEVに初めて搭載したが、生産量や調達先の拡大が課題だった。
足元では欧州でのEV補助金の終了や個人消費の低迷によってEV市場の減速が目立つ。
ただ、各社は数年おきに不況と好況を繰り返す半導体産業の「シリコンサイクル」を見込み、不況期でも投資の手綱を緩めない。インフィニオンが新工場に最大70億ユーロを投じるなど投資競争は続く。
オムディアの杉山和弘コンサルティングディレクターは「今後は素材メーカーも巻き込んで半導体メーカーの連携や協業が進む可能性がある」と指摘する。
三菱電機とデンソーはSiC基板の調達のため米コヒレントの事業会社にそれぞれ5億ドルを出資した。三菱電機の漆間啓社長は「（パワー半導体分野で）他社との再編を積極的に進めていく」と話す。デンソーと富士電機の協業が業界再編の呼び水となる可能性がある。
（向野崚、福本裕貴、細田琢朗）
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日経記事2024.11.29より引用
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