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電力「爆食」日本の技術で満たす 小型原発や洋上風力

2024-12-08 08:57:38 | 環境・エネルギー、資源

 

札幌市内から車で45分。海上に高さ196メートルの風車14基が羽を回している。日本で2番目に稼働した大規模洋上風力の石狩湾新港洋上風力発電所だ。

東京電力ホールディングス中部電力が設立したJERAの出資企業が運営する。総事業費約1000億円、発電容量は計約11万キロワットと国内最大規模だ。

 

中国や欧米に押される中、この洋上風力には日本勢の技術が結集された。

風車をのせる土台は日本製鉄系企業、送電システムなどは古河電気工業住友電気工業――。政府目標の国産比率6割を達成。JERAは2028年にも秋田県で洋上風力稼働を目指す。

 

 

世界で需要急増

大規模発電の建設の背景には電力需要の拡大がある。半導体工場やデータセンターの新増設で電力需要は約20年ぶりに増加に転じる。

電力各社に9月末までに申し入れがあったデータセンターなどの需要だけでも30年度までに約1500万キロワット、夏の最大電力需要の約1割に当たる。

 

「私たちは電力の時代に移行している」と国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は指摘する

生成AI(人工知能)の活用、エアコンや電気自動車(EV)の普及、製鉄など産業で使うエネルギーの石炭や石油からのシフトが進む。IEAによると世界の需要は23年から35年まで年平均3%で増える。先進国に加え、中国やインドなど新興国も電力を爆食する。

 

IEAは需要増加の多くを風力や太陽光など再生可能エネルギーが賄うと予想する。

発電コストが新興国で主流の石炭火力より安くなり経済合理性が働く。すでに世界の24年の再エネや系統安定のための蓄電池などクリーン投資額は2兆ドル(300兆円)と化石燃料投資の2倍だ。

 

日本政府が策定中の第7次エネルギー基本計画でも化石燃料からの移行は進みそうだ。40年度の電源構成は「再エネが全体の5割程度、原子力が2割程度になる」(みずほ銀行産業調査部)との声がある。

 

 

日本の小型原発

産業界が求める電力の安定供給には天候に左右される太陽光や風力だけでは難しい。注目されるのは原子力だ。

米グーグルは10月、データセンター向けに次世代原発の小型モジュール炉(SMR)開発のカイロス・パワーと電力購買契約を結んだと公表した。アマゾン・ドット・コムマイクロソフトも開発に資金を出すと発表。工期短縮や建設費抑制が期待される。

 

世界原子力協会によると投資決定前も含め世界で約50のSMR計画が進む。GEベルノバと協力しSMR商業化に取り組む日立製作所は「需要を取り込み事業成長を目指したい」(原子力経営戦略本部の舛井崇・担当本部長)と意気込む。

燃やしても水しか出ない水素も注目される。世界で水素戦略の策定が進んでおり、旭化成は25年度から販売する水電解装置について欧米やインドなどで需要を見込む。

 

米国では25年1月、トランプ氏が大統領に再任する。バイデン政権のインフレ抑制法(IRA)が修正され、気候変動対応が後退するとの懸念は根強い。

ただIRAは中国製品などの締め出しの面もあり、米シティバンクのアシュワニ・クバニ氏は「トランプ氏は製造業の米国回帰を重視する。IRAは米国に投資を呼び込んでおり、全てとりやめにはできない」とみる。

 

IRAでは22年から10年間で気候変動対策に3700億ドルを投じる。これまで公表された投資の85%が共和党地盤の州に向かうという。

エクソンモービル最高経営責任者(CEO)がトランプ氏の「パリ協定離脱」に反対表明するなど企業も路線変更に否定的だ。

 

デロイトグループのDTFAインスティテュートの小松潔マネジャーも「多くの国では法律に基づき政策を実行している。少なくとも今後数年は現在の方針が続く」と分析する。

石炭・石油から電力の時代へと突き動かす原動力は生成AI需要に伴うデータセンターの拡大など産業界や経済面からの要請だ。時代を勝ち抜ける技術を持つ日本企業を探った。

 

 

日立、小型原発で狙う世界需要

原子力発電に追い風が吹いている。産業界で電力需要が高まるなか、24時間絶えず電力を供給できる電源として注目される。

世界原子力協会によると約65の原子炉が建設中で、さらに90基の建設計画がある。日本国内でも再稼働が進んでおり、国際エネルギー機関(IEA)によると2025年には世界の原発発電容量は過去最高を更新する見通しだ。原発を取り巻く事業環境は大きく好転し始めている。

 


日立製作所はGEベルノバとSMRを開発する(完成イメージ)

 

「設計はほぼ終わっている。着工に向けパートナーと共に顧客を支援している」。日立製作所の原子力経営戦略本部の舛井崇担当本部長は力を込める。

GEベルノバとの合弁会社がカナダで建設予定の小型モジュール炉(SMR)は北米で初めて系統接続を目指すプロジェクトで、早ければ29年にも稼働する。

 

SMRはその名の通り小型の原子炉だ。一般的な原子力発電所は出力が1基あたり100万キロワット程度なのに対し、SMRは30万キロワット以下になる。小さいため原子炉が冷却しやすく安全性が高いとされる。

大型炉では建設コストが当初予定を大幅に上回ったり建設期間が長期化したりする例が相次ぐ。日立とGEベルノバのSMRは大型炉の既存技術を生かした上で、構造をなるべく単純化して部品数を減らしコストを抑えた。

 

SMR建設計画は世界各国で持ち上がっており、小型で建設しやすいとなれば「爆発的に建設基数が増える可能性がある」と舛井氏はいう。

大型炉も新設が広がる。これまでも積極的に建設してきた中国やロシアに加え、英国も50年までに最大24ギガ(ギガは10億)ワットの原子力を導入する方針を打ち出した。石炭依存の脱却を目指すポーランドやルーマニアでも大型炉の新設が計画されている。

 

 

 

海外の原発新設の恩恵を受けているのがステラケミファだ。国内で初めて濃縮ホウ素の大量生産技術を確立した。

原子炉の出力安定などに使われる濃縮ホウ素化合物の販売が伸びている。濃縮ホウ素化合物を含むエネルギー部門の売上高は25年3月期に約25億円と前期比2倍超となる見通し。

 

中国や欧州での原発新設の流れを受け「濃縮ホウ素化合物の需要は今後ますます高まる」という。

国内の原発再稼働の需要をつかむ企業もある。三菱重工業は再稼働対応から保守工事、燃料サイクル施設の竣工対応など幅広い事業を手掛ける。先行した加圧水型軽水炉(PWR)の再稼働対応が評価され、足元で再稼働が始まった沸騰水型軽水炉(BWR)でも耐震補強など依頼がきているという。

 

政府が掲げる原子力比率の目標(20〜22%)を達成するには原発25〜28基の稼働が必要とみられ、「30年ごろまで一定程度の事業規模が継続する」という。

岡野バルブ製造はBWR向けバルブとメンテナンスに強みを持つ。原子炉1基に対し同社の数百台のバルブが使われているという。

 

再稼働の1年程前からメンテナンスが始まり、古くなったバルブや部品の取り換え需要も発生する。11年の福島第1原発の事故以降に撤退したバルブメーカーもあり「2割ほどは他社製品のメンテナンスとなっている」(丹野信康メンテナンス事業部長)。

24年11月期の連結営業利益は8億8000万円と10年11月期以来の高水準を見込む。

 

良好な環境は当面続きそうだ。「全てが見えているわけではないが2〜3年で3〜4基の再稼働が予定される」(丹野氏)という。

再稼働後も13カ月ごとに定期検査があるため、稼働する原発が増えるほど事業基盤は底堅さを増す。

(松本裕子、高垣祐郷、鈴木大洋、安田亜紀代が担当した。グラフィックスは田口寿一)

[日経ヴェリタス2024年12月8日号]

 

 

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