代表的な暗号資産(仮想通貨)であるビットコイン価格が最高値圏にある。米トランプ次期政権への仮想通貨を巡る政策期待が相場上昇の引き金となった。
急騰に拍車をかけたのがオプション市場のコール(買う権利)取引だ。一段高を見込む投資家の買い需要が膨らむ一方、コールの売り手が損失回避のため現物コインの買いを迫られ相場を押し上げている。
ビットコインは28日の東京時間午後3時時点で1ビットコイン(BTC)=9万5000ドル台となった。22日には一時9万9000ドル台後半と節目の10万ドルに迫った。
足元は利益確定売りに押されつつも、なお2023年末比2倍の最高値圏にある。
資金流入の背景にあるのは、親仮想通貨の姿勢のトランプ次期政権下で業界への規制緩和が進むことへの期待感だ。
21日には米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長が、次期政権が発足する25年1月に退任すると表明した。
SECはこれまで、投資家保護を掲げ仮想通貨の事業者に強硬な姿勢をとってきたが、トランプ氏の意向を受けて軌道修正を迫られた形といえる。
ビットコインのオプション市場では、投資家の強気心理が色濃く映る。データ分析サイトのコイングラスによると、世界の主要なオプション取引所の総建玉(未決済残高)は22日に460億ドルと、米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)などで取引が始まった20年以降でみて最高水準まで積み上がった。
オプション市場では、将来の特定時点に特定の価格(行使価格)で原資産を買う権利(コール)や売る権利(プット)を取引する。
未決済残高に占めるコールの比率は28日時点で6割強とコールに偏った分布だ。仮想通貨交換業者ビットバンクの長谷川友哉マーケット・アナリストは「上昇相場に乗ろうとする個人投資家の投機的な買い」 とみる。
仮想通貨のオプション取引所大手デリビットでは、10万ドル以上の価格帯のコールに需要が集まる傾向が顕著だ。
27日時点の建玉をみると、最も多いのが行使価格10万ドルのコール、次いで12万ドルのコールだった。
投資家のコール買いが急増する裏側では、コールの売り手である流動性供給業者(マーケットメーカー)による損失回避のための現物買いも増える。
例えば、相場価格が1BTC=8万ドル台の時に、将来の上昇を見込んだ投資家が権利行使価格10万ドルのコールを買ったとする。その後、現物コインの価格が上昇し10万ドル台に近づいてくると、マーケットメーカーは現物コインを買い建てて投資家への売却に備える。この動きが上昇相場を加速させる。
米ブラックロック運用のビットコイン現物ETF(上場投資信託)「iシェアーズ・ビットコイン・トラスト(IBIT)」への資金流入も、マーケットメーカーによる買いを示唆する。
米国に上場する11本の現物ETFの日次フローをみると、26日は高値圏での利益確定売りで資金流出した銘柄が多かった一方、IBITには約2億ドルの純流入が続いた。
IBITは19日に、他のETF銘柄に先駆けて米ナスダック市場でのオプション取引が始まった。
米ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリストによると、取引初日の売買は想定元本ベースで約19億ドル。そのうちの8割強をコールが占めたという。
仮想通貨アナリストの西山祥史氏は「IBITのコールの買いが膨らむ中、マーケットメーカーがコールの売りと合わせてIBITそのものを買っている」とみる。
一方、市場では急上昇を警戒する声も多い。マーケットメーカーが足元で現物コインや現物ETFの買いを迫られているのは、コールの権利行使価格が近いためだ。
投資家の期待ほど相場が上がらずに行使価格帯から遠ざかれば、「マーケットメーカーが買っていた現物コインやETFを手放す可能性もある」(西山氏)。
高値圏では投資家の利益確定売りも出やすい。調査会社グラスノードによると、ブロックチェーン上(オンチェーン)の投資家の実現利益額は、11月下旬に日次で約40億ドルまで膨らむ場面があった。
売り圧力をこなすだけのコール買いが続くかどうか。トランプ次期政権による仮想通貨の位置づけ、規制緩和の進め方などを見極める必要がある。
(河井優香)