安や原材料高を背景に、国内の衣料品ブランドへの注目が高まっている。海外ブランド品の大幅値上げで相対的に割安感が出ているうえに、上質な国産の生地を使いつつ価格を抑えたデザイナーズブランドなども登場し始めたためだ。
外国人からの評価も高く、インバウンド(訪日外国人)需要の拡大も国内勢の追い風になっている。
2022年春夏コレクションからスタートした新興ブランドのコルニエ(愛知県一宮市)は「世界三大毛織物産地」と呼ばれ、生地メーカーや加工場が集まる尾州地域に拠点を置く。尾州の生地は「エルメス」やLVMHグループ傘下の「ルイ・ヴィトン」など海外ブランドの衣料品にも使われている。
国内デザイナーズブランドは海外からの注目度も高い
コルニエは価格を抑えつつ、質の高い国産素材を使用する。衣料品ブランドの原価率は平均約3割なのに対し、コルニエは約6割だ。
代表の西村林太郎氏は「生地の値段交渉はしない。最高級の生地を言い値で大量に発注し、原価率を上げて量を売ることで、生地メーカーも消費者もブランドもメリットを得る仕組みを構築している」と話す。
商品は衣料品店などに卸さず、主にオンラインショップで展開し、販売手数料などの中間コストを抑えている。コルニエの販売数量はシーズンごとに2倍弱ずつ増え続けているという。西村氏は「アパレル業界は常に買い手が強く、良い生地も安く買いたたかれている。なるべく素材の産地側がもうけられるような手助けができれば」と思いを語る。
国内ブランドが注目される背景には「内外価格差」の拡大がある。海外勢の値上げと円安進行が重なって海外ブランドの割高感が強まり、国内ブランドに相対的な割安感が出ている。
欧米を中心とした海外の高級ブランド品はここ2、3年、インフレの高止まりを受けて急ピッチで値上げを進めてきた。バッグなどで戦略的な値上げを進めた高級ブランド世界最大手、仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは2023年に欧州企業として初めて時価総額が5000億ドル(約67兆円)を超えた。
伊勢丹新宿本店メンズ館(東京・新宿)の担当者は「国内ブランド以上に海外の方がしっかり値段を上げている」と話す。
一方、国内ブランドは価格に対して品質が高い点が評価されている。衣料品店巡りが趣味という30代男性は「海外のデザイナーズブランドの価格はシンプルなシャツでも10万円前後。国内ブランドは半額以下で上質かつトレンド感のある商品を展開している。着心地も国内ブランドの方が好み」と話す。
23年12月の国内消費者物価指数の「被服及び履物」は前年同月比3.0%増と、総合指数の上昇率(同2.6%増)を上回った。23年2〜9月まで8カ月連続で「被服及び履物」の上昇率が総合を上回る場面も見られた。消費者は衣料品への支出を厳選しており、価格と品質のバランスは一層重要さを増している。
円安が訪日外国人の購買力を高めている面もある。東京都目黒区で国内デザイナーズブランドを中心に取りそろえる衣料品店の担当者は「店の売り上げの3分の1はインバウンド勢が占める。
国内ブランドのデザイン性や素材の良さに魅力を感じ、衣料品店を巡るために来日するファッション好きもいる」と話す。
SNSを通じて日本のファッションに興味を持つ外国人も増えており、国内ブランドが海外に羽ばたくチャンスが広がっている。
1月16〜21日に開かれた2024〜25年秋冬パリ・メンズコレクションでは日本から15ブランドが参加。全体の2割を占め、割合は過去最多となったもようだ。
同期間に初めてランウエーに参加したエムエーエスユーなど新興ブランドを中心に海外コレクションへの進出は増えている。海外勢からの需要も高まりも追い風に、国内のデザイナーズブランド市場は一段と広がりそうだ。(浜野航)
綿花、25年で6割高
衣料品の原材料価格は上昇している。綿花の場合、国際価格指標であるニューヨーク先物(期近)は16日に一時1ポンド95.93セントと、約1年4カ月ぶりの高値をつけた。25年前の1999年初めと比較すると6割高い。
背景にあるのは米国の不作見通しだ。米農務省が8日に発表した需給報告によると、23〜24年度の米国の綿花生産量は干ばつの影響で前年度比14%減となる見込み。輸出量も記録的不作だった15〜16年度以来8年ぶりの低水準となる見通しだ。
日本綿花協会の大下信雄代表理事は「24〜25年度も米国の供給力が回復する見込みは低い」と話す。日本は綿花や羊毛、カシミヤなど多くの天然繊維原料の9割以上を輸入に頼り、円安は逆風となる。素材を見直したり生地のロスを減らしたりといった対策も必要とされそうだ。
【関連記事】
日経記事 3024.02.24より引用