北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長は12日の講演で、
国防費目標の引き上げに言及した=ロイター
【ブリュッセル=辻隆史】
北大西洋条約機構(NATO)は加盟国が投じる国防費目標の引き上げを検討する。国内総生産(GDP)比2%以上とする目標を「2030年までに3%」に改める案を協議する。来年6月の首脳会議での合意をめざす。
英紙フィナンシャル・タイムズが12日、新目標案を報じた。NATOのルッテ事務総長は同日の講演でロシアの脅威が中長期でさらに増大すると断じ、国防費目標の引き上げの必要性を訴えた。
ルッテ氏は、欧州諸国は東西冷戦期には「3%を超える額を国防に投じていた」と指摘した上で「我々には2%よりも多くの額が必要だ」と強調した。
安全保障環境が厳しさを増すなか「戦時思考に転換するときだ」と語り、加盟国に意識改革を促した。
欧州に不満のトランプ氏に対策
欧州のNATO加盟国の国防費支出の少なさにかねて不満を表明してきた、トランプ次期米大統領を説得する材料にしようとしているのは明らかだ。
トランプ氏は過去に「4%」に引き上げるよう求めたことがあるほか、十分な負担をしない欧州の国の防衛義務を果たさない可能性にも言及している。
ルッテ氏は「ロシアはウクライナや我々との長期にわたる戦いに備えている」と述べ、NATOも防衛産業への大規模な投資などを通じて対抗すべきだと説いた。
来年6月にオランダ・ハーグで開くNATO首脳会議で新目標に合意する段取りを描く。
現目標の「2%」は、実際の防衛関連分野の需給に基づいて厳密に算出した数字ではない。1991〜2003年に加盟国の軍事費の中央値が2.05%だったのが根拠とされる。
加盟国のさらなる国防支出の象徴的な目標値となり、非加盟国でも日本などで防衛関連費用を議論する際の目安となっている。
「3%」達成、加盟各国の国民の理解必要に
欧州ではウクライナ支援に不可欠な砲弾や防衛装備の不足が深刻なうえ、将来の自国防衛のための投資も不十分だとの危機感が強まる。
新たな目標を掲げてNATOの抑止力向上につなげる狙いがある。
サイバーや宇宙、偽情報といった地理的な制約のない課題に対処するためにも、新規の投資が不可欠だとNATO高官は分析する。
32のNATO加盟国がそろって「3%」を達成するのは容易ではない。
NATOによると、24年に23カ国が2%の目標に到達する見通し。イタリアやスペイン、ポルトガル、ベルギーなどが未達を見込む。
新型コロナウイルス禍などへの対応を経て、加盟国各国の財政は厳しさを増す。
増税や歳出削減で追加の国防費を捻出する場合、国民から強い反発を受けるリスクもある。加盟各国の政治家には、足元の安保環境と対応の必要性を丁寧に国民に説明することが求められる。
ルッテ氏は12日の講演で、加盟国の政治家のリーダーシップに期待を示した。「防衛への投資は、私たちの安全への投資だ。
安全でなくなれば、子や孫の自由などない。学校も、病院も、ビジネスもなくなる」。加盟国の国民にもこう呼びかけ、理解を求めた。
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オバマ政権以降、米国は世界の警察官という役割を捨てたが、バイデン政権がロシアによるウクライナ侵攻を止められなかった事で事態の深刻さは明白となった。
ルッテ氏の「戦時思考への転換」という発言は欧州だけでなく世界に重く響いている。
米国のトランプ次期大統領がNATOを好きではないというのは本当だと思うと、トランプ政権1期目に駐米大使だった杉山晋輔氏が11月の共同通信インタビューで述懐している。
NATO加盟国に対し、米国に過度に頼るのはやめて、自分たちで国防費を積み増してくれと要求してくる可能性が高い。
それを見越しての、今回のGDP比3%への国防費増額構想である。
だが、財政状況が苦しい国にとって、2%から3%への目標引き上げはきつい。
EU共同債の発行で国防財源を調達する構想も、実現は困難だろう。
トランプ氏が3%で満足する保証もない。「ディール(取引)」をする上で、先にこちらのカードを見せるのは、必ずしも良策ではあるまい。
日経記事2024.12.13より引用