デジタル赤字の1〜10月累計額はすでに2023年実績を上回った
巨大テック企業などに利用料を支払う「デジタル赤字」の拡大が止まらない。
2024年1〜10月の累計額は5.4兆円超とすでに23年実績を上回った。暦年では6兆円超と過去最大になりそうだ。デジタルトランスフォーメーション(DX)のコストを付加価値向上につなげる取り組みが急務だ。
財務省・日銀の国際収支をもとにDXに関連する項目を集計した。
具体的にはクラウドサービスの利用料などの「コンピューターサービス」、動画・音楽配信サービスのライセンス料などの「著作権等使用料」、ネット広告などを含む「専門・経営コンサルティングサービス」について合計し、デジタル収支とした。
10年前の14年に2兆円だった赤字額は、23年には5.3兆円に拡大した。
24年は10月時点で5.4兆円を超えた。デジタル赤字は毎月5000億円前後の水準で推移しており、通年では6兆円を突破するのが確実だ。
経済産業省は10月、デジタル赤字が30年に約10兆円まで拡大すると推計した。23年の原粗油の輸入額は11兆円だ。デジタル赤字の拡大が想定以上なら、今後、原粗油の輸入額を逆転する可能性が出てくる。
デジタル赤字が拡大したのは、パソコンやスマートフォンの普及に伴いビジネスや生活が変化したためだ。
米グーグルなどインターネット検索サイトの普及に伴うデジタル広告や、米ネットフリックスなどの動画配信サービスが拡大した。
新型コロナウイルス禍で在宅勤務環境を整えるために、企業の間でクラウドサービスの導入も相次いだ。
国内のIT(情報技術)関連産業もグローバル化を進めており、デジタル関連サービスについて海外から日本に流れるお金も増えている。
他方でクラウドサービスなどは米国を中心としたビッグテック企業の競争力が高いため、国内企業の海外依存度は高いままだ。結果的に受取額を大きく上回る支払額を計上しており、国際収支の赤字が膨らむ構図が続く。
みずほ銀行の唐鎌大輔氏の試算では、デジタル関連収支は米国が21年に1114億ドル、英国が692億ドル、アイルランドを除く欧州連合(EU)が332億ドルの黒字だった。
集計には他の項目も含まれ単純比較はできないが「日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国で最大のデジタル赤字国」(唐鎌氏)の状況という。
海外との取引や投資収益などを示す経常収支は23年に20兆円超の黒字だった。
デジタル赤字が拡大しても、海外への投資による稼ぎで第1次所得収支の黒字額は大きく、日本の国際収支全体では支払いより受け取りのほうが大きい。
他方、貿易・サービス収支をみると10兆円近い赤字となっている。DXのコストに見合うような、海外市場で通用する収益力の高い財やサービスを国内で十分に生み出し、海外に売り込めているとは言えない。
内閣府は24年の経済財政白書でデジタル赤字について「赤字の縮小自体が目的ではなく、コンテンツ産業など我が国の潜在的な成長分野で稼ぐ力を強化する取り組みを進め、関連サービス分野が成長することが重要だ」と指摘する。
三菱総合研究所の西角直樹氏はDXを効率化だけでなく「新商品開発や自社商品の外販といった付加価値の拡大に結びつけることが重要だ」と説く。
例えば日本が競争力を持つ自動車や産業用機械などの輸出産業のほか、介護や観光関連など人手不足が深刻な内需産業が有力な選択肢という。
デジタル技術で開発速度を上げたり、人工知能(AI)を使って既存のアイデアでは思いつかない高度な製品を開発したりすることなどが想定される。
介護施設の運営システムをつくり、日本と同様に高齢化が進む先進諸国にフランチャイズ展開することも考えられる。