トランプ次期米大統領はビットコインの関連業者から多額の献金を受けた=写真はAP
代表的な暗号資産(仮想通貨)であるビットコインが10万ドルを突破した。価格上昇は、新たな通貨としての顔を捨て資産の側面を強めたことが寄与している。
法定通貨の立場を脅かさなくなり、投資家保護の仕組みづくりも進んだことが受け入れる層の広がりにつながった。
決済手段としは広がり欠く
「ビットコインは過去12年で最もパフォーマンスの高い資産だ。100ドルの米ドルのままなら現在は当時の価値で73ドル分の商品しか購入できない」。
米仮想通貨交換業大手コインベース・グローバルのブライアン・アームストロング最高経営責任者(CEO)は5日、X(旧ツイッター)で喜びを伝えた。インフレで実質価値が目減りした米ドルと比較しながら、価値を保存する機能の強さを強調した。
ビットコインは2009年に世界で初めて誕生した仮想通貨だ。ブロックチェーン(分散型台帳)上に取引を記録し、皆で管理し合う技術だ。新たなシステムに価値を感じ、買う人が増えるほど価格は上がっていく。
仮想通貨は当初、政府や銀行を介さずに個人が自由に送金できる中央集権ではない決済手段としての性格が脚光を浴びた。ところが、価格変動が大きいために法定通貨と定めたエルサルバドルですら普及していない。
米フェイスブック(現メタ)が19年に掲げたデジタル通貨構想「リブラ」に対しては、主要国は通貨主権を奪われまいと計画阻止で協調し、結局、リブラは計画断念に追い込まれた。
デジタルゴールド論が浮上
一方で、着々と根を広げたのは資産としての評価だ。17年、日本でビットコインに「財産的価値」を認める改正資金決済法が施行されると、仮想通貨の売買が急増。日本は世界の過半を占めた。
個人マネーバブルはすぐに崩壊するが、20年から21年にかけて次の波がくる。新型コロナウイルス禍に対応して世界の中央銀行は紙幣を刷り、後のインフレにつながった。
この時に展開された主張が「デジタルゴールド論」だ。ビットコインの発行総量は2100万枚と上限があり、埋蔵量が限られる金(ゴールド)に近い性質を持つ。法定通貨が紙幣の増刷で価値が目減りしやすいのと異なる。
著名投資家のレイ・ダリオ氏はこのころから評価するようになり、最近でも主要国の債務懸念に言及したうえで、「金やビットコインのような『ハードマネー』に投資したい」とした。ハードというのは供給量が管理されていることを指す。
ビットコインの時価総額は2兆ドル(約310兆円)と18兆ドルの金に比べ小さい。すでに浸透している金に比べ、潜在的な保有層は大きい。
他の分野でもブロックチェーンの技術が社会に浸透するほどビットコインへの評価も高まる。こうして、「アップサイドのある金というシナリオができあがった」(ビットバンクの長谷川友哉マーケット・アナリスト)
通貨からデジタルゴールドに装いを変えたビットコインは、法定通貨の脅威ではなくなった。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長はビットコインについて、「ドルと競合せず、金と競合する」と発言した。金融システムに影響しないなら受け入れられやすい。
野村ホールディングスの子会社であるレーザー・デジタル・ホールディングスが4月に実施した機関投資家調査では回答者の62%が仮想通貨を分散投資の機会とみていた。望ましい配分比率は2〜5%だった。
規制が育てた側面も
もっとも、伝統的な株式投資家は批判的だ。著名投資家のウォーレン・バフェット氏は「殺鼠(さっそ)剤を2乗したようなもの」と拒否反応を示す。
度々ハッキングが起きているほか、マネーロンダリング(資金洗浄)対策が甘いとの批判も消えない。
トランプ次期米大統領は仮想通貨の規制緩和を検討する。ただ、普及には規制が寄与してきたことは重要だ。
今年、ビットコインに流れたマネーは上場投資信託(ETF)経由だ。ETFの誕生で、投資家は自分でビットコインを管理・保管せずに上場株のように売買できるようになった。
このETFの運営者は情報公開の責務を負うほか、上場する証券取引所の規制対象となる。この取引所を米証券取引委員会(SEC)が監督する。25年1月の退任が決まったSECのゲーリー・ゲンスラー委員長は「ビットコインはETFの誕生で中央集権化された」と皮肉を込めて語った。
ビットコインの普及はいかに一般の投資家が資産と認めるかにかかる。大口保有者の献金に押されて政治家が後押しするだけでなく、投資家保護の仕組みが欠かせない。
野放図に拡大し金融システムに影響を及ぼすリスクが高まれば、再び厳しい批判の対象となる。
(関口慶太)
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