米テキサス州でスペースXのロケット打ち上げを見守るトランプ次期大統領(19日)=共同
(ボケ爺さんです)
【ワシントン=坂口幸裕】
トランプ次期米大統領は2025年1月に発足する新政権の主要閣僚を固めた。
経済・内政や外交・安全保障で「米国第一」の政策の忠実な実行を託せるイエスマンをそろえ、歯止め役不在の危うさが鮮明になった。人事を承認する連邦議会上院が関門になる。
「全省にまたがる米国第一の実現に貢献してくれるだろう。また一緒に仕事ができるのを楽しみにしている」。
トランプ氏が閣僚級ポストの米行政管理予算局(OMB)局長にラッセル・ボート氏を選んだ理由を記した22日の声明に、今回の高官人事の狙いが凝縮される。
人選は迅速だった。1次政権では大統領選から発表までに1ヶ月前後を要した国務長官、国防長官、国土安全保障長官を1週間ほどで決めた。財務長官も5日早かった。
共通するのは、第1次政権や選挙キャンペーンなどを通じて自身を支えてきた「忠誠心」と、「米国第一」への共鳴だ。
商務長官には実業家で「政権移行チーム」の共同委員長を務めるハワード・ラトニック氏を充て、新政権の看板である関税・貿易政策を担わせる。
主要公約のひとつである不法移民対策の強化や司法改革でも「忠臣」をそろえる。国内のテロ対策を担当する国土安全保障長官に中西部サウスダコタ州のクリスティ・ノーム知事を充てた。トランプ氏が副大統領候補に言及したこともあった。
司法長官には違法な性的行為などの疑惑浮上で指名を辞退したマット・ゲーツ前下院議員の代わりに、前フロリダ州司法長官のパム・ボンディ氏を起用した。大統領だったトランプ氏の弾劾訴追で弁護団の一員だった。
トランプ氏は自身の起訴を巡る現政権の司法省のやり方を「政治的迫害だ」などと批判し、最も重視する人事の一つと位置づける。
外交・安全保障政策も近い人物を置く。国務長官に据えるマルコ・ルビオ上院議員は16年大統領選で共和の候補者指名を争ったものの、トランプ氏の勝利後は外交政策を助言するなど関係を修復した。国防長官に起用するピート・ヘグセス氏は保守系FOXニュース司会者で番組を通じて親交を深めた。
トランプ氏は新政権の発足直後には不法移民を強制的に送還するための国家非常事態宣言を発令する構えだ。
米軍の動員も視野に入れ、自身に近い閣僚が仕切る軍や治安当局の掌握で実現する体制を整えようともくろむ。
ルビオ、ボンディ両氏に加え、大統領補佐官(国家安全保障担当)に就くマイク・ウォルツ下院議員はいずれもトランプ氏の地元・フロリダ出身なのも特徴だ。
8年前の1次政権と異なり、これまで自らの接点のない軍高官や大物を積極的に登用しなかった点も目立つ。
1次政権では国務長官に米エクソンモービル最高経営責任者(CEO)だったレックス・ティラーソン氏、国防長官に元米中央軍司令官のジェームズ・マティス氏を起用するなど経験豊富な人物を重用した。
しかし、トランプ氏との路線対立で閣僚を含む重要ポストが頻繁に入れ替わり、前政権では外交・安保政策は揺らぎ続けた。
1期目に北朝鮮やイランなど重要な外交政策で意見が異なったティラーソン氏を1年あまりで更迭。トランプ氏が独断で決めたシリアからの米軍撤退を巡って対立したマティス氏も2年もたたずに辞任した。
司法長官だったセッションズ氏も解任した。トランプ氏周辺とロシアの不透明な関係を巡る疑惑の捜査にあたる司法当局を掌握できていないとの不満があった。
疑惑の捜査に干渉する狙いがあったのは明らかで、2次政権で自身の意向に忠実な人物を並べたのは当時の教訓にほかならない。
トランプ氏の人事のハードルは上院での人事承認になる。大統領選と同時実施した上院選の結果、共和が多数派を奪還して非改選を含めて53議席を確保した。民主党が47議席となった。
上院(定数100)は大統領が指名した閣僚を含む政府高官や裁判所判事らの人事案を承認する権限を持ち、半数が必要になる。
上院で50対50の同数だった場合は副大統領が1票を持つため可決される。一方、共和から4人の造反が出れば否決される計算になる。
閣僚候補には適格性が疑問視される候補が複数いる。ヘグセス氏は性的暴行容疑で捜査されていたと報じられたほか、国家情報長官に指名されたトゥルシー・ギャバード氏についても過去の言動を不安視する声がある。