マンション投資は今まで以上に慎重な判断が求められる(東京都内)
収益が急拡大してきたマンション投資の先行きに不透明さが増している。
民間試算の理論値では東京都心の物件に2023年までの10年間、投資していたとすると2億円超の利益を手にできた。
購入者のなかには今も差益を見込み、積極購入する動きが目に付くが、見込み違いで売却益を得られない人も出てきている。すでにマンション投資の妙味は薄れている。
23年時点の利益、2億3000万円の試算
東京カンテイ(東京・品川)の試算では、港区の六本木一丁目駅(東京メトロ)の70平方メートルの新築マンションを13年に取得して10年間賃貸し、23年に売却した場合、利益は約2億3000万円。年利回りは22.4%だ。
実際の投資実績ではなく、同社が持つ売買価格、賃料のデータから算出した理論値で、税やマンション管理費などのコストを考慮に入れていないが、首都圏ではほかにも1億円以上の利益が出た地域が複数あった。
賃貸より売却重視
こうしたなか、今でも東京都心のマンションの利益にひかれる人は多い。最初から賃貸を考えず、自らが住みつつ、いずれ売却して利益を得るもくろみの「半投資・半実需」の人も目立つ。
細かい事情は異なるが、「賃貸より売却を重視する傾向はバブル末期とそっくりだ」(東京カンテイの井出武執行役員)。
しかし、潮目は変わり始めた。23年の利益の前提となる13年の取得価格は、アベノミクスが本格化し、価格が急上昇を始める直前の数値だ。
相対的に安値で取得し、価格上昇の恩恵をフルに享受できた結果で、足元では「見込み違い」に悩む人が増えている。
「不動産投資で勝てるイメージがわかなくなった」。
約5年保有していた都内マンションを昨年、売却した30代男性は売買差益に期待したが、実際は値下がりし、売却額は購入額に対して5%低かった。保有していた間の賃料収入も管理費や税などと相殺され、最終的に赤字に陥った。
この物件の周辺相場に詳しい不動産業者は「競合も多く、不透明要素もあったのに値上がり益を安易に見込んだ結果だ」と話す。
都心でもすでにマンション投資の優勝劣敗が分かれ始めている。
東京カンテイの23年時点試算では、利益の7〜8割が売却益だ。井出氏は「通常のマンション投資は賃料が柱。東京の状況は異常だ」と話す。
23年時点の近畿圏で同様の試算をすると、1位の大阪駅(JR大阪環状線)でも利益に占める売却益の割合は6割に届かず、利益も東京のトップクラスの物件の3分の1程度しか出なかった。
不動産経済研究所(東京・新宿)によると、東京23区の新築マンション平均価格は23年から1億円が半ば常態化し、24年1〜6月も1億855万円の高水準。売却価格が上昇を続けても、取得時も高値圏だった場合、多額の差益は生まれない。
首都圏の賃料、頭打ち
マンション投資に詳しいコンドミニアム・アセットマネジメント(東京・千代田)の渕ノ上弘和代表は「マンションの資産価値を測る基本的な指標はあくまで賃料だ。貸す予定はなく、自らが住む物件を選ぶときであっても周辺の賃料は意識したほうがいい」と話す。
賃料は立地エリアの利便性などを反映し、安定的に上昇するのが普通だ。賃料上昇はいずれ周辺マンションの価格も上昇させる。
賃料が上昇し、同エリアのマンション購入時の住宅ローン毎月返済想定額に近づくと賃貸から持ち家取得へ方針を切り替える人が増え、購入需要が増大する。
その意味では「賃料上昇を伴わない価格上昇は一過性に終わるリスクが高い」(渕ノ上氏)。最近は物件厳選の傾向が強まり、すでに賃料の水準には差が生じている。
東京カンテイの調査では分譲マンションを購入した後、賃貸する場合の賃料は首都圏でも24年後半あたりから頭打ち感が強まっている。都心はともかく、その周辺部は上昇一辺倒ではない。
取得価格の上昇で売却益が得にくくなるうえ、賃料も伸び悩むエリアの物件では高額利益どころか黒字確保も難しい。
日銀は利上げ姿勢、楽観視はリスク
日銀が利上げ姿勢を堅持し、ローン金利上昇も考えられるなか、利益の楽観視はリスクだ。マンション投資には一段と慎重な判断が求められる。
(堀大介、河井萌、大沢友菜)
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日経記事2024.12.10より引用