三木奎吾の住宅探訪記 2nd

北海道の住宅メディア人が住まいの過去・現在・未来を探索します。
(旧タイトル:性能とデザイン いい家大研究)

出江寛さんの「沈黙」のデザイン論

2015年09月05日 07時13分38秒 | 住宅取材&ウラ話


きょうはあるイベントで1時間ほどお話しする機会があり、
その準備のために、パワーポイントデータを作成しなければならないなか、
JIA北海道支部から、出江寛さん講演のご案内。
何度か、出江さんの講演を聞いて、ファンである身としては
身を切られるようでしたが(笑)、聴講して参りました。
出江さんの講演はもう7年も前にはじめて聞いて
そのデザイン論に、非常に惹かれておりました。

7年の歳月を経て、どのような展開になっているかと、
興味津々で、引き込まれるようでありました。
氏のデザイン論の中核は「沈黙」論。
デザインとして人を沈黙させるものが仕組まれている都市として
京都・奈良・倉敷を挙げられています。
「沈黙は人間の心を癒すものである」とされる。
典型としての、京都は仏の文化の世界として紹介される。
金閣のデザイン論を語られるくだりは、思わず息をのまされる展開。
金閣は、釈迦の骨とされる納骨堂が3階部分にあるそうですが、
黒漆で塗り込められた床板が、
あえて幅も不揃いな寸法のもので構成されているのだそうです。
室内も金泥が天井・壁面に塗り込められた空間で
そこに陽光の移ろいが忍び入ってきたとき、
その床板が微妙に反り返って、ちょうど海面のように「波立つ」。
黒漆で塗り込められた床が、そのとき法悦するような
光の揺らめきを見せるのだそうであります。
出江さんも、その様子は障子からそっと覗き見ただけだそうですが、
いまは名も確認できない、金閣の設計者のデザイン意図が
このような空間体験を創り出していることにリスペクトが伝わってくる。
教えとしての、釈迦入滅から56億7000万年後から衆生を救済することが、
建築デザインとしてイメージ装置として、現出しているのだと。
そういう宗教世界に正面から取り組んできた建築群が
われわれ日本人の精神文化の基底で、沈黙の美を構成していると。

そして、徐々にデザインの哲学論に入っていきます。
「真・行・草」という3つのスタイルへの論考を深めて行きながら、
最期には森侍者という盲目の側女との愛欲に生きたといわれる
一休さんを題材にして、エロスの世界にまで論を広げられていた。
まことに融通無碍、そして自由闊達なデザイン論の炸裂でありました。
そして、国宝の茶室、小堀遠州の「密庵」のデザインについて
繰り返し、詳細に語られていました。
寸法に於いて、基本空間構成に奇跡的に黄金比率が実現している。
天才だけが可能なデザインではないかと。

まさに出江さんのデザイン論が、はるかに時間オーバーで展開して
その迫力に、ひたすら圧倒されておりました。
なんでも、氏の講演としては2回分くらいの中身を
今回は、一気に話されたと言うことで、受け止め側でも、
徐々に沈殿させながら、整理整頓していきたいと思っています。
それにしても、人間は心の若さがすべてということですね。
出江さんの精神の若々しさには、本当に驚愕させられました。
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