昼帯ドラマの恒例CM群、ふと気がつくと「これ見て好感覚える人がどこかにいるのか?」と首をかしげるシロモノに出会うことがあります。
P&G“ボールド香り長続きジェル”のCM、昼間の路線バスに乗った細身のイケメン若手サラリーマンが、最奥座席窓際に座った真っ白なブラウスの美しい女性を見かけ隣席に腰かけると、女性のブラウスからかぐわしいフローラルの香りが…ついうっとりして、青空バックの洗濯物の前で女性とさし向かい見つめあうファンタジーにひたって、「ワタシこの香りだーいしゅき」の声に思わず「…ボクも!」と唱和してしまい、我に返ると女性の背後から幼い女の子が顔を覗かせ、子連れのママだった美しい女性は微笑んでいる…というストーリー。
同じ停留所で下車後、女の子と手をつなぎ白ブラウスママが立ち去る背後で、イケメンリーマンくんがうっとりの余韻を引きずりつつ見送っている場面で終わるのですが、どうにもなんかムズガユイCMです。
白ブラウスママはいまだ妖精的な雰囲気の大塚寧々さん、リーマンくんはいまや石を投げれば当たるぐらいにTV界にあふれている若手イケメンの中でも“清潔感&知的担当”の平岡祐太さんが扮し、子役の女の子のはにかむ表情もそこそこ可愛いし、絵ヅラ的には何も不快な箇所はなくきれいにまとまっているんですが。
どうも“子連れママであることが、香り(と女性本人の美しさ)にうっとりした、その後から判明する”というところにムズガユサの原因がありそう。家庭用洗濯洗剤の客は圧倒的に女性、特に主婦なので、「ボールドで洗うと、白さと香りで若いイケメンくんもいちコロですよ」とでもアピールしたいのかな。そんなインチキに引っかかってボールドを選ぶ主婦がどんだけいると踏んでるのか知りませんが、子供を“後出し”するこたぁないだろうと。
基本に“美しい女性でも、ブラウスからいい香りがしても、パッと見あらかじめ子連れとわかったらイケメンうっとりしないだろう”という失礼きわまりない先入観がありはしないか。
いや、それ以前に“子持ちでも、若いイケメンにうっとりされたら、思わずニカッとしてしまう、近頃の子持ちオンナってそういうもんさ”という、これまた侮蔑に満ちた値踏みがありはしないか。
…なんか、ヒネクレて読もうとすればいくらでもヒネクレられるCMなんだな。「女の子1人だからうっとり見送ったけど、両手に連れて背中にもおぶって都合3人だったら、イケメン背向けて歩き出すんじゃないか」とか。少なくとも、いま未婚で結婚願望の女性ならともかく、かりに月河が幼い子供を、特に2人以上抱えて髪振り乱して育てている主婦だったら、えらく人をコケにしたCMに感じると思います。
いや、花嫁予備軍の未婚組でも、“通りすがりの、夫以外の男性にうっとり見つめられて嬉しげ”というところにもやもやを覚えるかもしれない。
何でもかんでも若イケメン出しときゃ女性客が釣れると思ったら大間違いだよ、というのがムズガユサの主成分かも。こういう“家事ずぶずぶ”の商品のCMって、ずぶずぶのまんま提示したらうんざりされるだけだし、甘美にきれいにくるんで見せたら見せたで斯くの如くムズガユくなるし、実際難しいですね。若い人たちが“結婚”とりわけ“子作り子育て”から腰が引けていくのが少しわかる気がする。特に女性にとっては、結婚イコール家事ずぶずぶですからね。
まぁ、ヒネクレ読み回路を断ち切って、「祐太くんカッコいい、萌え~」とアタマ空っぽにしてやり過ごすのがいちばんいいのかもしれない。近頃のCM、この手の“アタマ空っぽ推奨”がやたら目立つのは気になりますけど。
『夏の秘密』は第35話、7週を終了しました。俳優さんたちの役読み込みが深まってきたこともあり、観ていて釘付けになったり「うんうん、こう来たら、この人物ならそうなるよね」と思わず頷いたりの演技がそこここに観られて嬉しい限り。
街金の違法取り立てが龍一(内浦純一さん)の手腕で収束、ご近所さんからの祝福に「これからも伊織さんと2人で頑張ります」といつの間にか夫婦気取りのフキ(小橋めぐみさん)、祭りの夜の捨て身の裸求愛は玉砕したけど、“一緒に苦境を乗り越えた”という彼女なりの実感がエクスキューズになって、哀しくも滑稽な勘違いが根付いてしまった感。
あのときは精一杯きっぱり、でもリスペクトフルに斥けたつもりの伊織(瀬川亮さん)はフキの後ろでどぎまぎ、雄介(橋爪遼さん)はおっとりなりに心穏やかならぬ表情。
フキは借金問題以降、スレンダーな身体を心持ちクネッとさせて伊織にあからさまな、むしろ自信たっぷりな媚態に近いものを見せるようにもなってきていますね。気の進まない伊織を引きずって行っての紀保アトリエ挨拶訪問で「それにしても素敵なアトリエね、ウチの工場なんかとは大違い、やっぱり紀保さんはワタシタチとは住む世界が違うんだわ…そう思うでしょッ!伊織さんッ!」の語尾の勢いと向き直る速度には思わず笑っちゃいましたよ。伊織、牛乳飲んでる途中だったら絶対鼻から噴いたぞって顔。
フキを見ていると、女の子ってやっぱり幼い時から、満足に食べさせ学校に通わせてるだけじゃ“育てた”ことにならないんだなと改めて思います。きれいな洋服とかキラキラ光る装身具とか、髪を結って鏡の前でくるりとか、とにかく“お姫さまちやほや”的なものにあんまりひもじいままで大人になると、知性や社会生活能力に不足はなくてもどこか、特に同性から見ると痛い。たぶんフキの場合、母親が早世せず工場も左前にならず、信金OLとして無事に適齢期を迎えていたとしても、結局「私はつまらない女だから」とつぶやいては妹の奔放さにカリカリする20代で終わった気がする。
こういう想像をつらつらさせるのも、本当に小橋めぐみさんの演技のたまものだと思います。劇中ポジションはウザがられキャラだけど、見ていて興趣つきないんですよ、フキって。
一方伊織は、いつもよりちょっぴり着飾り髪も上げて紀保の前で若妻見せつけ気分のフキの隣で、おメメぐるぐるキョドる様子が、ちょっとステレオタイプだけどキュート。ブライダルサロンに恋人に連れられて来た男性は、たいていああいう表情をしますね。たとえ“彼女が一方的にその気”なわけではなく、男性本人も望んで結婚が本決まりだとしても、ウェディングドレスという、女性のものすごい渇望、幻想妄想エネルギーを集約具現化したアイテムがそこらじゅうにこれでもかとショーアップされている空間に入ると、男は窒息しそうになり、リアクションがとれないものです。
いいところにセリ(田野アサミさん)が乱入してフキを連れ出してくれ、紀保(山田麻衣子さん)とネジの話ができて、紀保が自分の名を伏せて仕事の口をきいてくれたことには負い目を感じつつもちょっとほっとしている、この高低差の表現がいいですね。
花火大会に紅夏ちゃん(名波海紅さん)を連れて行く約束を果たしたら夕顔荘を撤収すると紀保が言うと「自殺の真相を探っても死んだみのりが戻るわけじゃない、過去は振り返らないことにした」と伊織も乗って事実上の訣別宣言しましたが、帰りしな羽村社長(篠田三郎さん)と偶然出くわしたことで別のハラをかためた模様。みのりの部屋にあった赤い表紙のスクラップブックには、紀保と社長の2ショット写真もしっかりありましたからね。伊織母・みずえ(岡まゆみさん)の痛ましい現況に、羽村社長は関わっているのでしょう。「セタ?」「セタです」の硬い挨拶からして、お互いになんらかの認識があるのは確か。
紀保は、たぶん杏子(松田沙紀さん)から伊織フキ来訪を知らされて、応接室兼会議室に駆け込んでくるときの、はやる気持ちに足取りが追いつかないみたいな所作が可愛かった。伊織ひとりでの訪問ならともかく、フキがついて来てるのにそんなに嬉しいか?と初見では思ったのですが、伊織ひとりと聞いたら逆にいまの紀保なら足取りが重くなったでしょう。
とにかく顔面における“目”と“唇”という2大“心の窓”の面積比率の大きさで表情表現ではだいぶトクしてるなぁと思う山田さん、最近は首の傾け方や手の仕草でも感情が伝わるようになって来て頼もしいところです。