一週空いた『相棒 Season7』はサッカーW杯予選のため11日21:30~放送。先々週の次週予告の時点で、奥山佳恵さんのインカム着けた歌劇団男役メイクがあまりに微妙だったため、ちょっとコレはどっちへ転ぶか…と半信半疑だったのですが、舞台メイクのアップ顔や歌のシーンは案の定ギリギリだったものの、私服パンツルックの立ち姿やヒールをカッカッいわせる歩き方に工夫がみられ、奥山さんなりに男役スターらしい佇まいを出していたようです。
奥山さんと言えば93年『悪魔のKISS』でも黒田福美さん扮する大物女流絵本作家に玩具にされる役を演じていた記憶が。なぜか年上女性をそそる役に縁がありますね。
ただ、如何せん本筋の謎解きのほうは、右京さん(水谷豊さん)が着眼した“歌劇学校同期を示すペンダント”“紫雨(奥山さん)の初舞台以降ポスターやパンフから消えた名前が(ひとつではなく)ふたつある”という2項目の重要な手がかりが、ともに「私たち(歌劇団メンバー)は、お客様に夢を与えるため舞台裏のことはお話ししません」とのエクスキューズのもと最後の最後までマスキングされている上、紫雨とともに死体の第一発見者となった先輩OG、会社専務それぞれに女社長を殺す動機があったというミスリード部分が、途中まで本スジとまったく同程度のトーンで叙述される(この部分の解明担当がもっぱら捜一伊丹&芹沢なので、こりゃハズレ=ミスリードだねという見当はつく)ので、右京さんがいきなり若者の遺影のある家を訪問している場面での唐突感が否めなかった。
「7年前の初舞台の前後に、紫雨が舞台を辞めようかと悩むほどの出来事が何か起きている」→「それも、歌劇団関係者が、ファンのためにとクチをつぐむほどの苦痛な出来事らしい」→「関係者が沈黙するなら、歌劇ファンのたまきさんにも協力をあおいで、当時のパンフ資料をぜんぶ当たって、紫雨初舞台前と後とで変わっている点を探そう」という思考論理の流れ、やはり亀山くんが居ないと、角田課長(山西惇さん)の遠慮がちな茶々ぐらいじゃ提示できませんでしたかね。
課長には「男役ってのはカッコいいねー」なんてベタなお追従じゃなく、限りなく“無粋な一般男性”目線で「この、なんとか歌劇団の男役ってのはアレなの、カッコいいの?男役ったって、男じゃないよねこの化粧どっから見ても」ぐらいのセリフ言ってほしかったですけどね。そうすりゃ右京さんも「この、普通の男らしくないところに、舞台と言う名の虚構の様式美があるのですよ」「舞台の彼岸にいる観客が、役者さんたちと虚構を共有できる、ファンにとってはそれが喜びなのです」とか何とか言えたのに。
尺が足りないか。ちょっと脱線。
右京さんはそもそも紫雨が、防犯カメラの時刻に自宅マンションで隣人にサインを求められているという明確なアリバイがあるのに主張しない、誰かを庇っている、それは誰?というところから推論の方向を定めています。“誰かを庇う”という心の働きと、“舞台裏のことは話さない”歌劇団スターの潔癖ストイシズムとが、右京さんの脳内で「近い」と結びつき、庇う相手は初舞台時の出来事に関係する人物では?とエリアが絞れた。紫雨の初舞台は同期入団が全員揃う新人公演、共演者は同期ばかり、その同期生の中にパンフから消えた名前がひとつ、そして被害者社長の会社に、同期のペンダントを着けた女性社員が…と推理の流れはよどみないのですが、とにかく土壇場で一気に、それこそセリからにょっきり現われるように謎解きされるので情感が乏しく説明的に過ぎた。
7年前、紫雨の初舞台演目の通し稽古で、セリが下りたままになっていたため主役が転落し重傷を負う事故があり、当初は二番手役だった紫雨が急遽繰り上げ主役に抜擢され、以後トップ男役に定着したのですが、実は歌劇団パトロンで紫雨の熱狂的ファンの女社長が、より資質に優れた主役を排除して紫雨をトップに押し上げるために、若い舞台装置係にセリを下げておくよう強要して仕組んだことでした。退団後の事業の相談で女社長を訪れていた際、何気ないひと言から真相を知った紫雨は、辞めた装置係を訪ねて問い詰め、この事故で舞台生命を断たれたかつての主役・史恵(さとうやすえさん)に真相を話します。
負傷退団後女社長の会社で働いていた史恵は怒りと憎しみに燃え、かつて得意としていた男装で深夜女社長のマンションを訪れ、眠りこけている社長の居間のサーキュレーターが爆弾の心臓に冷風直撃するよう向きをかえた。前日の電話で女社長に呼びつけられていた紫雨と先輩OG、会社専務が翌朝マンションを訪れると社長は史恵の狙い通り心不全で息絶えており、サーキュレーターの向きの異変にただひとり気づいた紫雨は犯人が史恵と察し、他の2人に気取られないよう通常の向きに戻しておいたのです。
事件ものとしてはずいぶん穴の多い話ではある。そもそも新人公演とは言え、劇場に紫雨と史恵(当時の芸名はうらら)2人っきりだったはずはなく、照明もスモーク効果もついた通し稽古で、装置係本人が「落ちないでくれと祈っていた」と言うほど長時間セリが下りっぱなしになっていたのに、袖で出を待っていたに違いない脇役共演者や舞台監督が誰も気がつかないという自体マヌケ過ぎてあり得ないし、当然事故の責任を取って辞めざるを得なくなった装置係が、舞台にかかわる者の道義に悖る無茶な要求をした女社長から何の代償も受け取った様子がない。劇団に上申するなりなんらかの告発もせず、親にも事情を打ち明けず引きこもって、7年後に真相を知った紫雨に「人殺し」と詰られて自殺とは、気の毒を通り越してどんだけバカかという話。女社長側からの縛りやエサが何も、匂わせ程度にも描かれないので、名実ともに犬死にになってしまいました。
紫雨も紫雨で、女社長のやり口を知るや馬鹿正直に直接被害者の史恵にまんま伝えたら、せっかく就職してどうにか第二の人生を歩きはじめていた史恵が正気でいられなくなることぐらい、同期トップを張るほどのリーダーシップある器ならなぜ察してやれないか。要するに紫雨は、自分が「ワタシの財力と権力でトップになれたくせに、言う通りにしないなら潰してやる」と言い放つ女社長に自分が抱いた殺意を、史恵に共有させたいと潜在的に思っていたのです。右京さんが「見事なコンビネーションでしたね」と皮肉に評した通り。
今Seasonで言えばラジオDJの“顔のない女神”や、先立つseason3では“書き直す女”“女優”の女優もの、あるいはseason4のTVドラマディレクター“7人の容疑者”、season6の推理作家“蟷螂たちの幸福”など、どうも『相棒』ではプロフェショナル女性の職業的プライドを事件の芯におくと、一般人には共感しがたいファナティックで、歪んだ、病んだ心理になってしまう傾向が以前からありました。
今話も常識的に考えれば「そんなのアリ?」という動機で、手口で、解明真相到達ではありましたが、どうかな、月河のように“もろ手をあげてファンじゃないし礼賛もしないけれど、宝塚歌劇団に関心はある”者が観ると、“あの人、あの件、あの事象をなんとなく想起させられる”というところで幾許かの行間読みが可能なエピでもありました。
同期生間のエクスクルーシヴな絆、学年の上下及び同期内での番手ヒエラルキー、自分より上の人が堕ちるか辞めるかすれば自分が昇進できるシステム、同年代の女の子たちが謳歌する娯楽を封印しての芸精進と、それがもたらす閉鎖的連帯感、金満ファンを持つことで得られる恩典と束縛など。紫雨が失意の退団後の史恵に、「辞めたら歌劇団受験を目指す子たちのための芸能スクールを開いてスター候補を育てたい、実務を手伝って」と口説くくだりは、退団発表直後舞台上の事故で重傷を負った主役スターと、卒業後の彼女の個人事務所マネージャーを現役時代のベストパートナー娘役スターがつとめている、あのコンビを思い出さずにいられませんでした。なんとなく、男性における“戦友”と似ている。青春の一時期を一緒に楽しんだ友達より、同じ目標のためにともに青春を犠牲にした(と思っている)仲間のほうが生涯シンパシーも絆も強いのでしょう。
但し、相手が軒並み女性ということもあってかいつになくニコニコ紳士的な右京さんが、推理の赴くまま順に聞き込み、途中経過開陳も無いまままた聞き込み…という叙述では、やはり「亀いないと退屈」の謗りをまぬがれないでしょうね。月河は今話限定で、たまきさん(益戸育江さん)の、「新相棒たまきさんでいいじゃん」ってぐらいの、一般人の枠を超えた捜査協力が見られるかと思ったのですが、贔屓の歌劇団の直近のスターと、元スター候補が逮捕される決着では、ファンのたまきさんも内心「右京コノヤロ」「茶漬けに、ソフトクリームぐらいワサビおろしてやるか」で終わった話かもしれませんね。
今話は解決トークでぎゅわーーーとセリ上がってくる右京さんが軽い映像的見どころだったほか、紫雨のアリバイ成立させるマンションお隣婦人、辞めて自殺した装置係の母親と、聞き込み先もなんとなく“中年ヅカシンパ”風の女優さんで固めているのがおもしろいと思いました。エピ全体を“それ風”空気感のテイストで塗り込める狙いもあったかもしれませんが、奥山さん、さとうさん、先輩OG役大家由祐子さん、全員スタイルはまずまずなんだけど、“それ風独特感”がもうひとつ。強いて言えば、史恵に事故に見せかけ殺される女社長(小宮久美子さん)がいちばん“カネにあかして庇護者気取りの、贔屓の引き倒し歪んだファン”らしいリアリティがあった。リアルジェンヌ女優さん起用までしなくていい(したらしたで別の弊害がありそう)から、いま少し“独特度の高い”キャスティング、演出を工夫してほしかったですね。
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