さて、池内紀著「すごいトシヨリBOOK」毎日新聞出版・税込1080円です。
新書版の腰巻には、
人生の楽しみは70歳からの「下り坂」にあり
ドイツ文学者の楽しく老いる極意
リタイア後を豊かに老いるヒント
とあった。
この謳い文句。しかも高名な池内紀先生のくだけた本なので、迷わず購入しました。
しかし初版本を読み「なぁんだこの程度のモノか」とガッカリ。
ところがいま、売れてるらしいんですねぇ。
昨日の朝日新聞の広告では、8月発売後3ヶ月で既に6刷にもなっているとか。
そして嘘か創作か、読者の感想がある。
・これは「すごい」内容の本。余生の送り方をこの1冊から学びました(男性76歳)。
・池内さんの思いに共感したり参考にしたり。考えをまた一歩進めます(女性75歳)。
・軽いタッチなのに深く考えさせられます(男性69歳)。
この3人、70歳前後にもなって「アホか」と思いますね。
だって書いてあることは全て当たり前のこと。
80じじぃにとっては承知していることばかりだ。
・読書してはじめて声を出して笑いました(女性66歳)。
うん、これはそのとおり。何気ない高尚さが売りだった先生にはなかった弾けっぷりだ。
でも声を出して笑うほどのものではなく、頬が歪む程度ですかね。
・感銘深き書物。色々の感想浮かび、得るところ多し(男性93歳)。
まぁ、そういう文語体的な受け止め方をするご老人もいるだろう。
特に10章「老いと病と死」を読み、いろいろな感想が浮かんだにちがいない。
この章は要するに良寛和尚の、
・人は死ぬときには死ぬのがいい
の様々な言い換えであり、先生なりのご提言です。
特にこれから老人の面倒を見ることになる若い人たちに、読んでおいてほしい。
9章「老いの旅」は、これまで旅を書く際に、誰も触れなかった頻尿対策が示されている。
「誰もがシモの問題に悩んでる。解決策は尿漏れパンツを恥ずかしがらず穿くことだ」と。
TVではジャズの綾戸智恵さん。
女だてらに「さっ、次どこへ行きまひょ」と宣言しているんだからね。
また「老夫婦の旅は気まずくなりやすい。途中は別々に、宿だけ一緒に」などとも提言している。
この章も未熟なじじばばにはためになる。
だが4章「老いとお金」にはいささか腹が立ちました。
「お金のことをいつも考えているのは貧しい」。それはそのとおり。
だけどもそうならないための、先生の対策が不愉快なのです。いい気なもんです。
・小銭入れとは別に、財布に3万円を入れておく。
・行き先と用途別の三つのリュックザックに、お金を5万円ずつ入れておく。
・これらを毎朝点検しお金を補充し、小銭入れ+財布+リュックの3点セットを持ち歩く。
あなた、こんな贅沢できますか?
年金だけでこんなことができるヒトとは、付き合いたくありませんな。
お金をふんだんに補充可能な、売れっ子随筆家の自慢話じゃないですか。バカにすんなっ。
あとがきを読んで呆れた。
やはりこの本は、池内紀先生が直接書いたものではなかった。
本の題名にある「すごいトシヨリ」も、何が凄いのか分からない、と告白している。
この本は先生の雑記帳を基に、週1度の編集者と先生の質疑応答を編集者がまとめたのだ。
養老孟司先生のベストセラー「バカの壁」に似た成り立ちだったのであります。
全10章は以下のとおりです。
1.老いに向き合う 2.老いの特性 3.老化早見表 4.老いとお金 5.老いと病
6.自立のすすめ 7.老いの楽しみ 8.日常を再生する 9.老いの旅 10.老いと病と死
挿絵の舟は池内先生が描きました。10章目の挿絵なので、多分、三途の川の渡し船でしょう。
表紙や本文中の挿絵は先生が描いておりますが、すごくヘタです。
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