今国会で議論されている医療費の支払いを抑える「高額療養費制度」について、国民民主党の玉木雄一郎代表(役職停止中)の発言が波紋を広げている。90日を超えて在留する外国人に国民健康保険(国保)の加入義務が生じ、制度を利用できる現状について「社会保険料は、原則、日本人の病気や怪我(けが)のために使われるべきだ」と持論を展開。外国人支援団体が抗議する事態となっている。(山田祐一郎)
◆高額療養費のうち外国人への支給額は1.1%
「3カ月日本にいれば、外国人でも扶養家族も高額療養費制度を使える。数万円払ったら1億6000万円の治療を受けられるというのは、日本の納税者、社会保険料を払っている人の感覚からすればどうなんだ、というのも踏み込んだ見直しが必要」。高額療養費を巡る国会での議論について、玉木氏は2月15日放送の読売テレビ「ウェークアップ」でこう発言した。
高額療養費は、医療費が高くなった患者の負担を抑える制度で、年収や年齢によって負担上限がある。番組で玉木氏は、現役世代の保険料負担を下げる必要性を強調し、負担能力がある高齢者の負担も求めた上で、外国人の国保利用に疑問を呈した。また同日のX(旧ツイッター)の投稿でも「わずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養費制度を受けられる」とし、「より厳格な適用となるよう、制度を見直すべきだ」と訴えた。
外国人の保険利用は本当に医療費を圧迫しているのか。厚生労働省によると、2022年の国保の被保険者数は約2500万人で、このうち外国人は92万人で約3.6%に上る。2022年3月~23年2月までの総医療費9兆871億円のうち、外国人の利用は1.4%の1250億円。また高額療養費の支給額9600億円のうち外国人は111億円と1.1%にとどまる。自民党の河野太郎前デジタル相は自身のブログでこれらの数字を挙げて「『外国人に保険医療を受けさせるな』では問題は解決せず、問題から目をそらすことになるだけだ」と指摘した。
厚労省の担当者も「数字を見ても外国人が特に高額な医療を使っているとは言えない。1億6000万円というのは国内最高額の薬の価格で極端な例だ。あくまで国保は国内に住む人を対象とするのが原則だ」と説明する。
◆「排外主義、差別に当たる」とNPOは批判
外国人の人権擁護に取り組むNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)は21日に「排外主義、差別に当たる」とする抗議文を玉木氏や国民民主党に送付し、謝罪と投稿の削除などを求めた。移住連の大川昭博共同代表理事は「高額療養費の負担軽減を議論する場面でなぜ突然、外国人の利用の問題が出てくるのか」と憤る。「国政政党の代表者が根拠のない発言で問題をすり替えることで差別を呼ぶ。日本社会のさまざまな不満を特定のマイノリティーに向けようとしている」
「こちら特報部」の取材に玉木氏の事務所は「適切に保険料を納めている外国人を差別する意図は全くない」と説明。「高額治療を受けることを目的に来日して制度を利用することは不適切。厚労省の実態調査では不適切事案の有無が確認できない」として、詳細な調査と不適切事案の防止のための運用見直しが必要との見解を示した。
淑徳大の結城康博教授(社会保障論)は社会保障を巡って外国人と日本人を分断させるような議論に「保険料を払っている外国人の保険利用を排除しようとするのは人権上、問題だ」と危ぶむ。その上で、国籍ではなく世代間で負担の在り方の議論が必要だと説く。「本来であれば、資産のある高齢者がそうでない高齢者を支えるという再分配が必要。そうでなければ現役世代の不公平感はなくならない」
石破茂首相が訪米し、7日(日本時間8日)に行ったトランプ大統領との首脳会談で、米国製大型輸送機の購入に意欲を伝えていたことが分かった。米軍などが導入しているC17輸送機が念頭にあり、自衛隊の物資・人員運搬能力を向上させる狙いだ。複数の政府関係者が26日、明らかにした。首相はトランプ氏から防衛費の負担増を求められることを想定して会談に備えており、提案は同氏の動きを見越して先手を打った形だ。
関係者によると、首相は米ワシントンでの会談時に米国からの購入を検討したいと表明、トランプ氏側は歓迎する意向を示したという。日本政府内では有力な選択肢としてC17が浮上している。
ただ海外から調達する大型の防衛装備品は高額となる傾向がある。インドが2011年、C17を10機購入すると決めた際の契約総額は41億ドル(当時のレートで約3290億円)に上った。巨額の場合は複数年度に分割し支払うのが一般的だ。防衛予算を長期間圧迫するため、防衛費全体の膨張につながる恐れがある。
C17は国産のC2輸送機と比べて積載量が大きい。
内閣府が発表した2024年の名目GDP(国内総生産)は前年比2・9%増の609兆2887億円となり、過去最大を更新した=グラフ。ただ物価変動を除いた実質GDPは同0・1%増の557兆4064億円にとどまる。
名目GDPは増加したものの、物価高でかさ上げされた見せかけの数字にすぎず、生活実感には程遠いと言わざるを得ない。
実質GDPの5割以上を占める個人消費は同0・1%減と4年ぶりに減少した。生活必需品を中心とする物価上昇が消費者の節約志向に拍車をかけ、経済成長を鈍らせるという悪循環の定着が、数字的にも裏付けられた形だ。
調査会社の帝国データバンクによると、25年の食品値上げは24年の1万2520品目を大幅に超える見通し。一方、厚生労働省によると24年の実質賃金は前年比0・2%減と低迷したままだ。
物価上昇に歯止めがかからず、賃金も伸び悩む状態が続けば、25年には実質GDPがマイナスに転じる可能性が現実味を帯びてくる。その先には、生活の質の一層の低下が容易に想像できる。
名目ベースによる日本のGDPは、1973年に100兆円を超え、92年には500兆円を突破した。しかし、バブル経済の崩壊に伴って伸び率が鈍化し、国別順位(ドル換算)も米国に次ぐ2位から、中国、ドイツに抜かれて現在は4位に転落している。
財務省によると、企業の内部留保は23年度末で600兆9857億円と、GDP同様初めて600兆円を超えた。円安の追い風で積み上がった内部留保を賃上げや新たな投資に振り向け、経済全体を底上げすることは、多くの大企業にとって社会的責務だ。
政府も、価格転嫁に柔軟に応じるよう大企業を厳しく監視して中小企業の経営を後押しするなど、裾野の広い経済成長に向けて役割を果たさねばならない。
GDPは国の豊かさを反映する指標の一つである。国民が真の豊かさを実感できるようにするためには、官民が発想の転換と創意工夫を重ね、日本経済を再び成長の軌道に乗せる以外、道はない。