斎木陽平(「こどもの党」党首)
「静かなる有事」といわれる加速度的な人口減少への対策を最重要課題に掲げ、またLGBTQの当事者として昨年の参院選に挑戦したのがこの人。少子化対策は喫緊の課題なのに岸田政権の動きは鈍く、LGBT理解増進法案の議論もなかなか進まないことにイラ立っている。安倍元首相の遠縁でもあるが、今の自民党には言いたいことが山ほどあるという。
──2022年の出生数は前年比5.1%減の79万9728人と統計開始以来初の80万人割れでした。コロナ禍の影響もあるとはいえ、政府の推計より10年以上も速いペースで少子化が進み、将来の社会保障制度や財政維持への不安が指摘されています。
このペースだと、2060年には日本の人口が8000万人を割り込んでくるのではないかとみています。現在、人口1億2000万人。今後40年にも満たない期間で4000万人もが急減する可能性があるわけです。しかも、60年には65歳以上の人口の割合が約40%になるとみられています。多くの高齢者の方たちを支えながら、急激な人口減少という“下り坂”を下っていくことになる。このままでは、転げ落ちてしまうという強い危機感を抱いています。転げ落ちて、社会保障制度が危機に瀕すれば、苦しむのは弱い立場にある人たちです。それを見過ごしていいのでしょうか。──将来的に危機が訪れるのは目に見えていますね。しかし、岸田政権の少子化対策は具体性に乏しい印象です。
2021年の合計特殊出生率は1.3です。政府統計では、この状態を放置すると5年ごとに人口が300万人減少することが分かっています。必要なのは特殊出生率を一刻も早く引き上げることです。何よりも最優先で取り組まなければいけないのに、岸田政権の動きは遅すぎる。“異次元のショボさ”です。
──どのあたりが“ショボい”のでしょう。
まずは、児童手当の金額です。現状、日本は15歳までの子ども1人に月1万~1万5000円ですが、ドイツは18歳までの子ども1人に約3.5万円。ドイツは所得制限もありません。加えて、育児と仕事を両立できる環境が整っていないこと。両立できる環境の実現のためには先進国のデータからも「男性の育児参加」が極めて重要と言われていますが、男性が育休を取ると、上司から「出世コースから外れるけど、いいんだな」などと脅されるケースさえあるといいます。これらは政府の対応で改善できるはずです。
──具体的な改善策は?
育児と仕事のバランスについて言えば、男性の育休取得率が5割未満の企業は法人税を上げる一方、取得率が高い企業は税率を減免する。そういったインセンティブをかけるやり方がある。こうした施策には新たな財源は必要ありません。できることから早期に取り組むべきなのに、岸田政権は悠長に検討を繰り返すばかりです。有事への備えとして防衛費は一気に拡充するのに、内なる有事への備えがあまりに遅く、おろそかです。
■LGBTQより支持母体を優先
──参院選では子ども政策の他に、ゲイの当事者としてLGBTQの理解増進も訴えていました。岸田政権では同性婚カップルについて、元首相秘書官から「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」と差別発言が飛び出しました。
僕はネットインタビュー動画撮影のため、秘書官の発言をどう思うか、街中で聞いて回ったんです。すると「意味が分からない」という声が大半でした。世論調査でも過半数が同性婚に前向きです。多くの国民が同性婚を認めたらいいと思っている。それでも自民党が後ろ向きなのは、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)や神道政治連盟といった伝統的家族観を掲げる支持母体の方を向いているからだと思います。 LGBTQの子どもたちは、ストレートの子どもたちに比べ約7倍の自殺リスクがあることが分かっている。それでも支持母体の方が大切なのか。当たり前の話ですが、LGBTQの人たちも日本人です。「日本人を守り抜く」なんてどの口が言うんだ、と思います。
──斎木さんの自民党への問題意識は相当なものですね。ただ、かつては自民党寄りの発言を繰り返していました。安倍元首相とは遠い親戚関係にあるんですよね。
曽祖母の姉が、かつて山口県議会議長を務めた田辺譲氏と結婚。田辺氏の間に生まれた子が、岸信介元首相の息子・信和氏と結婚したことで、僕は安倍元首相とも遠い親戚関係にあります。また、祖父が、安倍さんの父・晋太郎氏の長門地区の後援会長を務めていた縁もある。僕自身は、中学生の頃に小泉政権で要職に登用される安倍さんの姿を見て憧れを抱き、国会議員になりたいと思うようになりました。安倍さんから「陽平君へ」と書かれた名刺をもらったりしたこともあり、自民党から出馬したいと強く思っていた。心のどこかで、自民党寄りの発言をしようと意識していた部分があったのは事実だと思います。
安倍シンパの過去
──“安倍シンパ”だったのですね。
正直に言って、当時は議員バッジをつけることが最大の目的になっていたと思います。だから、国会議員になるために安倍さんとの近い関係を生かしたいと下心を抱いていましたし、気に入られたいがために右寄りの発言を繰り返していた面がある。女性の立場から「男女平等は反道徳の妄想」と言って、安倍さんに近づいていった杉田水脈衆院議員のようなスタンスですね。
──いまは随分、考えが変わったのですね。
国会議員になって活躍するためには自民党でなければ、という思いが強かったですね。でも、自民党の考え方と、自分がゲイであるというアイデンティティーとのギャップに少しずつ気づいていった。僕は17歳の時に自分がゲイだと認識したのですが、「これはダメなことなんだ」と思い込み、ずっと心にフタをしていたんです。ゲイだと言ったら、LGBTQに批判的なスタンスをとる自民党から出馬できなくなるだろうという恐れも抱いていました。ゲイであることで国会議員になりたいという夢がかなえられなくなるかもしれない。自分の中で大きな葛藤がありました。
──自己否定しながら生きていくことには、相当な苦しみがあったのではないですか。
プライベートな面においても、自分の思いを偽装しながら生きていくことで精神が弱り、心が壊れてしまいました。飛び降り自殺したら痛いのか、練炭自殺は苦しいのか、などとネットで調べるような状態で、夢をかなえるどころではなくなってしまったんです。
──そこから這い上がっていくきっかけは何だったのでしょう。
──“アベ政治”から卒業することで前に進めるようになったわけですね。
アベ政治には、他のどんな政治家と同じように、光もあれば、影もあると思います。日本には「十人十色」という言葉がありますよね。将来的な人口減少が確実視される中で、日本はどうすれば成長できるのかといえば、国民一人一人が個性を大事にして、それぞれが得意な分野で力を発揮していく。その方が社会全体の活力が出てくるはずです。それなのに、自民党の一部の人たちは「女は男を支えるものだ」「LGBTQは生産性がない」とか、バカみたいなことをいまだに言い続けている。自民党の“おっさん政治”はもう終わりにすべきです。
──4月の統一地方選では、東京・港区議選に「こどもの党」の党首として出馬予定です。
参院選で負けた経験から、次は地に足をつけて小さな自治体で活動したいと考えました。港区は10年超住んできた街で愛着もある。区議として国に先駆けたモデル都市をつくりたいと思っています。将来的には区長選にも挑戦したい。目指すのは、政府に先行して画期的な子ども政策を打ち出してきた泉房穂明石市長のような存在です。多様性を尊重し、子どもたちの未来を大切にする活力ある日本社会を必ず実現させたいです。
(聞き手=小幡元太/日刊ゲンダイ)
▽斎木陽平(さいき・ようへい)1992年、福岡県北九州市生まれ。2010年慶大法学部政治学科にAO入試で進学。11年にAO入試専門塾「ルークス志塾」設立。日経ビジネスの「各界で活躍する平成生まれ30人」に選出される。22年の参院選に東京選挙区から出馬するも落選。著書に「書き込み式 AO入試で必ず受かる!完全マニュアル」(実業之日本社)などがある。
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