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◆尖閣諸島をめぐる日中関係は「緊張していない」と断言 専門家が喝破する現状と未来

2021年07月19日 09時41分51秒 | ●YAMACHANの雑記帳

泉川友樹(琉球経済戦略研究会事務局長)

 日中間の喉元に刺さったトゲといわれた尖閣諸島――米中・日中関係の悪化からトゲはアジアの火薬庫へとキナ臭さを増している。今年2月1日、中国が沿岸警備隊にあたる海警局に兵器使用などを認める「海警法」を施行し、中国公船の領海侵入が大きく報道されている。しかし、尖閣水域の緊張は局地的、限定的なものに過ぎず、総体から言えば緊張には程遠く、日中関係も正常化以来最悪との報道は事実ではないという。中国事情に詳しい専門家が尖閣と日中関係の現状と未来を喝破する。

■「領海侵入は定例化、儀礼化している」

 ――このところ尖閣水域波高し、という報道ばかりです。

 一言でいうと緊張していない、だいぶ沈静化していると思います。

 ――そうなんですか。中国公船の侵入がこれまでになく繰り返されて一触即発とされていますが。

 中国の公船は尖閣諸島の領海に入ってきてはいます。ただデータを見れば、一番多かったのは月平均でいえば2012年、国有化した年です。国有化の9月以降は月平均5日入ってきている。日数でいうと翌13年が最も多くて54日、月平均で4.5日でした。最近はどうなっているかというと、例えば18年は領海に入ったのは19日、月平均で1.58日。19年が32日で2.6日くらい。20年が29日、2.4日くらい。一番厳しい時と比べて半分くらいになっています。

 ――それは報道とは異なりますね。中国公船の領海侵入はなぜ沈静化したのですか?

 14年11月7日に北京で当時の谷内正太郎国家安全保障局長と楊潔篪国務委員が会談をして「4項目合意」を発表しました。その3日後に当時の安倍総理と習近平国家主席の尖閣国有化後初の首脳会談が開かれた。ここから尖閣諸島領海侵入日数が減少傾向になり、沈静化に向かったのです。

 ――その「4項目合意」がほとんど知られていません。

 外務省のホームページにも載っている「日中関係の改善に向けた話し合い」にある4点なのですが、3番目が一番重要でして、「双方は尖閣諸島等東シナ海の海域において近年、緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識する」と書かれています。これが何を意味するかというと、中国側からすれば「日本は中国が自分たちと違う認識を持っているということを認識したんですね。であれば(日本は)領土問題の存在を認めたということですよね」という解釈を言える。日本側は「中国が領土問題の存在を主張しているという認識は持ちました。しかし私たちは領土問題が存在していると認識していません」という解釈ができる。悪く言うと、玉虫色の解釈ができる合意です。その4項目の3番目後段では、「対話と協議を通じて情勢の悪化を防ぐとともに危機管理メカニズムを構築し不測の事態の発生を回避することで意見の一致を見た」と書かれています。これは非常にしっかりした話で、ばっちりと合意しているのです。

 ――日本は尖閣をめぐる領土的係争はないというのが政府見解でしたから大きな変化です。

 18年に中国公船が領海に入った時の時間、隻数を調べるとほとんど午前10時ごろから、1時間半~2時間、2隻から4隻で入るというのが定例化・儀礼化しています。島を奪取するとか軍事作戦的なことではなく、日本の国有化宣言を認めたくないので、主権をPRしに来るということを4項目合意以降は同じ時間に、ほぼ決められた同じ隻数でやっている。これは日本政府にしてみれば予測可能な動きなので、それほど脅威ではない。すぐさま安全保障上の脅威になるものではありません。

「問題は「4項目合意」が世の中にほとんど知られていないこと」

 ――しかし、連日の報道によって、多くの国民が中国公船の侵入は脅威のように思ってしまっています。

 領海の外側の広大な排他的経済水域は、日本の船がどんなに漁をしていても中国公船に追いかけられるリスクはゼロなんです。つまり領海では、今はお互いの考えの違いもあって静かにしていて欲しいということ。周りの広大な排他的経済水域に関しては、(日中漁業)協定があって、中国の公船に何かされるリスクはゼロ。しかし、日中漁業協定や4項目合意が世の中にほとんど知られていない、それが問題なのです。

 ――尖閣は緊張しておらず、日中関係は実は悪くはないが、その現実が伝わっていない?

 4項目合意ができた後、日中首脳会談が何回開かれているかというと、李克強総理を含めれば18回です。尖閣の問題が本当にまだ懸案として残っていて、喧々囂々やっていてどうなるか分からない、という状況なら、何度も首脳会談などできないですよ。

 ――それでも、中国公船は領海への侵入を繰り返しています。

 4項目合意の存在があまり世の中に知られず、日中漁業協定があるため領海の外側で魚を捕っても何ら問題がないことが世の中に知れ渡っていない。中国が儀礼的に、決められた時刻に決められた時間だけ領海に入っていることも見えていない。それで、「中国はどんどん強硬になって、まだ領海に入ってきている」というようなことを言う。それをさせまいと、「中国をあの海域から排除するためには、我々が尖閣に行って漁をしたり、実効支配の強化につながるような行動をとらないといけない」と思っている人たちがいるんですよね。それが逆に中国の対応を誘発している。

 中国は、尖閣は自分のものだと主張しているわけですから、日本の民間の漁船が領海に入ってきたら4項目合意の範囲外だということになって、彼らに上陸でもされた日には日中関係がグチャグチャになってしまう。彼らが変な行動をとらないように、彼らが尖閣の領海に入って漁をしている間は、同じだけ中国公船も領海に入って見ているのです。昨年以降の中国公船が長時間領海に滞在した日を政府からもらってメディアの報道と突き合わせてみたら、その日は全部日本の漁船が入っていました。

■尖閣はプロレス、危ないのはヒートアップした観客

 ――なるほど。純粋な漁業目的ではない操業が行われている、ということですね。昨年11月に来日した王毅・中国外相の「正体不明の一部漁船」発言の真意が理解できます。王毅の謎かけは日本で全く理解されなかった。

 日本文化チャンネル桜という方たちが「このままでは中国に乗っ取られる」と言って尖閣に行こうとする。石垣島の市議会議員の仲間均さんという方は、どういうことがあっても尖閣に行って漁をするんだ、と言っているような方です。本当に漁業をしたいから尖閣に行っているのか、ということです。彼らが行くことが中国に付け入る隙を与えてしまっている。これが果たして国益になっていますかね? 傷が癒えかかっている所の傷を剥がしに来て、また出血させることになっているんじゃないのか、というのが私の考えです。

 尖閣はプロレスです。見た目は日本と中国というレスラーがリングの上で真剣勝負をしている。一定の暗黙のルールの上で真剣勝負をしているのです。危ないのは、ヒートアップした観客がリングに入ってきて暴れ出すこと。レスラーが観客を巻き込んでケガさせたりすると、日本としても対応せざるを得なくなり、日中関係が決定的ダメージを受けてしまう。尖閣問題は政府間に任せた方がいい。

 ――先日、麻生副総理が米中対立を受けて「台湾の次は沖縄」と発言しました。沖縄生まれの泉川さんはどうお聞きになりました?

 尖閣と台湾は運命共同体というような言い方になってきているし、最近見ていると、茂木外相よりも岸防衛相がやたらとメディアに出てきて話す。尖閣問題を外交で解決するつもりはないのでしょうか。誠に危ない気がしています。台湾が攻められたら次は沖縄だというような根拠のないことを現役の副総理が言うのは不適切ですし、沖縄の人たちを不安にさせないで欲しい。そういうことが起きないような外交環境をつくることこそ、政治家に求められていることではありませんか。

(聞き手=甘粕代三)

▽泉川友樹(いずみかわ・ゆうき)1979年、沖縄県生まれ。2002年、沖縄国際大学卒。03年、沖縄県人材育成財団派遣の研修生として北京外国語大学に留学。中国語講師、フリーランス通訳・翻訳者などを経て、06年から日中経済交流を促進する民間団体に勤務。習近平、李克強、温家宝ら中国要人との通訳を務める。19年から琉球経済戦略研究会事務局長。沖縄大学地域研究所特別研究員。


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