参院がコロナ禍で本会議での「押しボタン式」の投票を休止した2020年4月以降、法案などの採決で会派や議員の賛否の記録を残していないことが分かった。可決や否決の結果はウェブサイトで公表しているが、3年半余りで採決された300超の議案のうち、全会一致を除き、誰がどんな意思表示をしたか、公式の資料に基づいた事後検証ができない状況になっている。識者は「すぐに是正すべきだ」と問題視している。(坂田奈央、我那覇圭)
◆詳しい記録が残る「記名採決」はごく一部
それぞれの法案などにどの会派や議員が賛成・反対したかは、その後の選挙で有権者の判断材料にもなる重要な情報だ。参院事務局によると、20年4月以降に本会議に上程された法案の全てと補正予算案はいずれも起立採決し、議長が可決か否決を宣言。会派や議員ごとの賛否の確認や記録はしてこなかったという。
一方、政府の当初予算案や閣僚の問責決議案、委員長の解任決議案などは、全議員の表決態度が分かる記名投票で採決している。
国会の採決 衆参両院がそれぞれ定める「規則」では、採決の方法として「起立」「記名投票」「異議の有無(の発声)」を列挙。参院では「押しボタン式投票」も盛り込んでいる。記名投票でも会派や議員の賛否が分かるが、両院とも議長が必要と判断した場合や、本会議に出席した議員の5分の1以上の要求があった場合のみ行われる。
◆座席間隔を広げた際に「押しボタン式」一時休止
議員一人一人の賛否が直ちに分かる押しボタン式は参院独自の取り組みで、1998年に「各議員の政治責任をより一層明確にできる」(参院事務局)との狙いで導入された。
ところが新型コロナ感染対策が求められた2020年4月、やむなく使用の休止が決まる。「密」を避けるために、議員が着席する議席の間隔を広げたことで、押しボタンの投票装置が備えられていない議席も使うことになったからだ。
ところが新型コロナ感染対策が求められた2020年4月、やむなく使用の休止が決まる。「密」を避けるために、議員が着席する議席の間隔を広げたことで、押しボタンの投票装置が備えられていない議席も使うことになったからだ。
参院事務局によると、参院の議場は演壇を中心に半円形に計460席が配列されており、コロナ禍以前は中央に位置する255席を議席として使っていた。投票装置はこれらの中央寄りの議席にだけ備えられていた。
コロナ対策では、議席は前後列や両脇に原則1~2席ずつ間隔をおいた。議員は議場全体に散らばり、一部の議員は押しボタンの投票装置を備えていない席に座ることになった。
この影響で、議案等の採決は原則として起立採決に切り替えた。以前は押しボタン式で各議員の賛否を記録していた法案や補正予算案の採決でも、個別の賛否を把握しない運用に変更された。
◆「当初の改革志向がしぼんだ」
参院の石井準一議院運営委員長(自民党)は本紙の取材に「起立採決において、議長は総員起立か多数(少数)かの認定を行っており、会派ごとの賛否に着目しているわけではない」と文書で回答。賛否を記録しないことの是非や、対応を改めるかどうかを尋ねた質問には答えなかった。
元参院職員で国会改革に詳しい同志社大の武蔵勝宏教授は「当初の改革志向がしぼんだと思われても仕方がない。会派や議員の賛否を公開するように襟を正すべきだ」と指摘した。
押しボタン式投票は、座席の間隔変更に伴う装置の改修を経て、25年1月の通常国会から再開予定のため、24年中は現在の運用が続く見込みだ。
◇ ◇
本紙は、与野党で賛否が割れる政府予算案や重要法案を中心に、各会派や議員らに取材して衆参の投票結果を報じている。今回の問題は参院に過去の投票記録などを問い合わせた際に明らかになった。
押しボタン式を導入していない衆院は、会派ごとの賛否を本会議に先立つ委員会などで確かめ、採決後にウェブサイトで公表しているが、個別の議員の賛否は分からない。
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