天鼓雷音如来

小さい時　私は体の弱い子だったらしい
いつもおばあちゃんに抱っこされながら　体温計をはさんでいた
いつも窓から外で遊んでいる姉たちを眺めていた

いつもながめたり　考えたりしている子だったかもしれない
思いっきり遊んだ！っていう満足感を味わうことは少なかったかもしれない

窓から雨を眺めるのは　その頃から好きだった
滝のような夏の夕立は特に好きだった
時おり　ずぶぬれになって行き過ぎる人が
なんとなくうらやましかった
小走りで大変そうなのだけれど　なんだか楽しそうに見えた

結婚して子供ができて　夏の夕立のあった時
子供たちに　大雨の中で遊ばせたことがあった
子供もその友達も大喜びで雨と遊んでいた
私はやっぱり　彼らを窓から見ていた

今日ヘルパーで知り合ったＯさんのところに行った
救急車で運ばれて二ヶ月になる
だいぶ元気になったけれど　家族がぎっくり腰で倒れて
私はＯさんの洗濯物を時おり届ける役をかってでたのだ
バスと電車で乗り継いでいくより　自転車が速い
午前に一回　どっと降ったので夕方までは大丈夫とにらんで
昼過ぎに自転車で出かけたのだった
当てがはずれた・・・
病院を後にする頃に　雨が降り始めたのだ
２０分位待ったけれどやむ気配がないので
ぬれて帰る覚悟を決めて　自転車に乗った
乗ったらすぐに　雨足がひどくなって　雷が鳴り響きだした
洋服はあっという間に水満たし　全身ずぶぬれ状態で
顔に大粒の雨を受けながら　新宿の雑踏を駆け抜ける私・・

自宅までは　新宿ビル街を抜けて中央公園を超えなければならない
雨に打たれながら走っていたら　まいったな～と思う気持ちが
だんだん　楽しい気持ちに変わってきた

そうだ！　私　雨と遊びたかったんだ！
そう気づいたら　気持ちがわくわくしてきて
ズックの中のぐちゅぐちゅさえ　楽しく思えてきた
さっきまで　お化粧が目に流れて入って　痛かったけれど
それもさっぱり　洗い流されて目もすっきり開けられる　笑
道路にできた大きな水溜りを避けもしないで走り抜ける
歩いている人はほとんどいないから　跳ね返りを気にしないですむ
水しぶきが　水溜りを切り裂くように立ち上がる
なんか　雨の景色の中にとけこんでる気分・・・・気持ちいいな

本当に空で雷神が太鼓を叩いているような雷と
風神にまくしたてられるように降りつける雨の中
自転車を漕いでいる全身ずぶぬれの小太りのおばさんは
信号で止まっている車の運転手さんには　どう見えたんだろうか
まさか　５０年来の夢がかなってうれしいと思ってるなんて
きっと誰も気がつきはしないだろう

自宅について２０分間の雨遊びも終わったけれど
すごく　満足～～～な気持ちになれてうれしかった

風神雷神を思えば　その現象をイメージできるけれど
天鼓雷音如来を思えば　喧騒を包み込む大きな力を感じる
胎蔵界の大日如来の北に配する天鼓雷音如来
きっと風神雷神は　この如来の変化身なのかなとか思う
（絶対違うと思うけど　笑）