世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

「速水御舟ー日本画への挑戦ー」

2009年10月04日 | Weblog
今月初めから広尾に移転した山種美術館へ行く。
以前の千鳥ヶ淵にあったこじんまりとした雰囲気も好きだったが、今のモダンな感じも素敵。

好きな絵がある。
速水御舟(はやみ ぎょしゅう)の「炎舞」だ。
今日はその絵を見に行った。




速水御舟は大正、昭和を駆け抜けた画家だ。
絵が好きだった少年は画家になり、25歳で浅草の路面電車に轢かれ、左足首から下を切断。
でも画家としての自分を見失わなかった。
「京の舞妓」を発表したが、酷評され軽井沢で静養。
その時に見た炎に吸い込まれる蛾を一心不乱ににデッサンし、完成したのが「炎舞」だ。



紅蓮の炎、妖しい光。
観察の眼力とその結晶。
渦巻く炎に乱舞する蛾たちがいざなうのは、漆黒の闇。
写実と幻想の果てが、その絵の中にはあった。

炎の下部は抽象的なのだが、炎から煙に変わる部分がなんとも溜息モノ。
吸い込まれていく蛾の心境が分かる。

蛾の羽の精緻さに息を呑む。
今にも絵の外に飛んできそうではないか。
それにこの蛾。
正面から見た構図になっている。
炎は横から見た構図なのに。
見飽きない不思議な絵だ。

やっと「炎舞」の実物を見られた。
嗚呼、もう思い残すことはない。
ルーベンスの絵を見て息絶えたネロ(フランダースの犬)になった気分。


その他の作品も良かった。


「埃及所見」
ロバさんの足音が聞こえてきそう。




「婦女群像」(未完)
ヨーロッパから帰国して、人物像を描き始めた御舟。
キャンバスに染みができてしまい、再チャレンジをしようとしていた矢先に亡くなってしまった。完成されたものを見たかった。とにかく大きな絵だった。



「名樹散椿」
桜を描こうとしていたのだが、良い朱色が手に入ったために描いた絵。
椿も良いが、金地の滑らかさが印象的だった。「撒きつぶし」の技法。



「夜桜」
なんて綺麗な絵だろう。
釘付けになってしまった。
桜の可憐さと夜の空気の静謐さがマッチした作品。


40年の短い人生の中で、様々な技法や様式を探求した速水御舟。
そのチャレンジ精神には脱帽してしまう。
どの作品も完成度が高く、作品を通して御舟の人柄を感じた。
美術には深い信念と情熱を持っていた御舟だが、ヨーロッパに半年間行っていた間も3人の娘や奥さん其々に手紙を書いていた家族思いの一面など、今回の展覧会で知った。

小さな展覧会だったので2周ほどし、2時間滞在。
静かな空間でゆっくりと速水ワールドを堪能できた。
またこの美術館のミュージアムショップの充実ぶりは素晴らしい。
図録をはじめ、大人買いしてしまった。

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