2016年8月9日 8月9日という日
こんなに普通っぽく書いているが、本当はけっこう大変な一日であった。
今となって、ようやく書けるのだが。
この日の三日前に、妹から妊娠を知らされた。
しかも駅で。
エコー写真を見せ付けられ無言で妊娠を告げられたのである。
白黒の写真にクリオネっぽい何か(推定2ミリ)が映っているそれを見させられた私は泣きながら喜んだ。
「自分は伯母さんになるんだ」
「芋子は母親になるんだ」
という高揚した心で、その後、一人で花火を鑑賞した。
そして8月9日の朝。
「とと姉ちゃん」を観ながら化粧をしていた私に着信アリ。
掛けてきたのは妹で、泣きながら「出血したんだけど」と言うではないか。
幸い、私と妹夫妻の家は近いので、とりあえず彼女に付き添おうと思った。
吉熊上司に午前中休むことを連絡し、妹宅へ向かう。
母には妹の妊娠を告げていなかった。
安定期に入るまで母には言わないと妹が述べていたので。
妊娠6週目の出血ってどうなの?と、本当は母に聞きたくて聞きたくてどうしようもなかった。
不安だった。私は子供を産んだことがないし、これからも産まないので、その分野についてよく分からないのである。
何度もスマホを握って母に聞きたかったけれども、聞けず。
無力な私に蝉時雨が降る。
真っ青な空が途端に憎たらしくなってきた。イライラしていた。
電車内でGoogle先生に尋ねる。しかしモヤモヤとした解答しか得られない。
駅を降り、妹宅へ。
きつい坂を歩く。
朝とはいえ容赦なく降り注ぐ夏の光のなか、えっちらおっちら歩く。
汗が一気に噴出す。化粧が落ちそうだ。
妹宅に到着すると、妹は泣きはらした目で「どうしよう」「私が毎晩残業していたからだ」と泣きじゃくりながら繰り返す。
そんな彼女を宥め、これから病院に行くというので歩いて付き添った。
病院の待合室でがっくりと俯く芋子のそばで佇むしかない私。
やがて診察室に呼ばれて入室する芋子。
「神様、どうか芋子の子が無事でありますように」
そう祈っていた。
10分ぐらいで芋子は帰ってきた。
「赤ちゃん、大丈夫だって。動いてるって」
と芋子は泣きながら喜んでいた。
二人で病院近くの薬局へ行き、処方された薬が出てくるまで待合室で待機。
テレビでニュース番組を見ていた。
長崎の原爆投下の日を伝えるニュースで、11:02、嗚呼私は一生この日を忘れないのだろうなあと思った。
二人で駅まで歩く。
日はさっきよりもだいぶ上にあり、息をするのも難儀なほど暑い。
隣で歩く妹のお腹を見ると、朝見た時よりもなんとなく生命力が感じられた。
「あそこのパン屋のパン、すっげーおいしいから、ねーちゃん、何でも買ってあげる」
と芋子。
急に気が大きくなったYO!
ということでパンを買ってもらった。
「吉熊上司たちにも」
と、吉熊上司そして後輩男女の分までクロワッサンを買ってくれた。
「芋子さん、これからお金が掛かるのだから・・・」
と制したのだが、聞かない。
駅に到着。
「じゃあね!今日はありがとう!今日は会社を休んでこれから母子手帳もらいに行くから!じゃあねえ!」
と芋子はゆらゆらする陽炎の中、元気いっぱい去っていった。
あれから、あのクリオネくんはムクムクと成長し、いまや推定3,700グラムのジャンボベイベーになった。
そして来週には出てくるらしい。
私、伯母さんになるんだな・・・クリオネ写真を見せられてから、この半年ほど、幾度となく思っていた。
芋子のお腹が大きくなるたびに、その思いはますます大きくなっていった。
そして今は、その気持ちを遥かに凌駕する、「どうか無事にこの世に出てきてほしい」という気持ちでいっぱいだ。
生まれてくる君へ。
一緒に歩いた炎天下の道を、君は覚えているだろうか。
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こんなに普通っぽく書いているが、本当はけっこう大変な一日であった。
今となって、ようやく書けるのだが。
この日の三日前に、妹から妊娠を知らされた。
しかも駅で。
エコー写真を見せ付けられ無言で妊娠を告げられたのである。
白黒の写真にクリオネっぽい何か(推定2ミリ)が映っているそれを見させられた私は泣きながら喜んだ。
「自分は伯母さんになるんだ」
「芋子は母親になるんだ」
という高揚した心で、その後、一人で花火を鑑賞した。
そして8月9日の朝。
「とと姉ちゃん」を観ながら化粧をしていた私に着信アリ。
掛けてきたのは妹で、泣きながら「出血したんだけど」と言うではないか。
幸い、私と妹夫妻の家は近いので、とりあえず彼女に付き添おうと思った。
吉熊上司に午前中休むことを連絡し、妹宅へ向かう。
母には妹の妊娠を告げていなかった。
安定期に入るまで母には言わないと妹が述べていたので。
妊娠6週目の出血ってどうなの?と、本当は母に聞きたくて聞きたくてどうしようもなかった。
不安だった。私は子供を産んだことがないし、これからも産まないので、その分野についてよく分からないのである。
何度もスマホを握って母に聞きたかったけれども、聞けず。
無力な私に蝉時雨が降る。
真っ青な空が途端に憎たらしくなってきた。イライラしていた。
電車内でGoogle先生に尋ねる。しかしモヤモヤとした解答しか得られない。
駅を降り、妹宅へ。
きつい坂を歩く。
朝とはいえ容赦なく降り注ぐ夏の光のなか、えっちらおっちら歩く。
汗が一気に噴出す。化粧が落ちそうだ。
妹宅に到着すると、妹は泣きはらした目で「どうしよう」「私が毎晩残業していたからだ」と泣きじゃくりながら繰り返す。
そんな彼女を宥め、これから病院に行くというので歩いて付き添った。
病院の待合室でがっくりと俯く芋子のそばで佇むしかない私。
やがて診察室に呼ばれて入室する芋子。
「神様、どうか芋子の子が無事でありますように」
そう祈っていた。
10分ぐらいで芋子は帰ってきた。
「赤ちゃん、大丈夫だって。動いてるって」
と芋子は泣きながら喜んでいた。
二人で病院近くの薬局へ行き、処方された薬が出てくるまで待合室で待機。
テレビでニュース番組を見ていた。
長崎の原爆投下の日を伝えるニュースで、11:02、嗚呼私は一生この日を忘れないのだろうなあと思った。
二人で駅まで歩く。
日はさっきよりもだいぶ上にあり、息をするのも難儀なほど暑い。
隣で歩く妹のお腹を見ると、朝見た時よりもなんとなく生命力が感じられた。
「あそこのパン屋のパン、すっげーおいしいから、ねーちゃん、何でも買ってあげる」
と芋子。
急に気が大きくなったYO!
ということでパンを買ってもらった。
「吉熊上司たちにも」
と、吉熊上司そして後輩男女の分までクロワッサンを買ってくれた。
「芋子さん、これからお金が掛かるのだから・・・」
と制したのだが、聞かない。
駅に到着。
「じゃあね!今日はありがとう!今日は会社を休んでこれから母子手帳もらいに行くから!じゃあねえ!」
と芋子はゆらゆらする陽炎の中、元気いっぱい去っていった。
あれから、あのクリオネくんはムクムクと成長し、いまや推定3,700グラムのジャンボベイベーになった。
そして来週には出てくるらしい。
私、伯母さんになるんだな・・・クリオネ写真を見せられてから、この半年ほど、幾度となく思っていた。
芋子のお腹が大きくなるたびに、その思いはますます大きくなっていった。
そして今は、その気持ちを遥かに凌駕する、「どうか無事にこの世に出てきてほしい」という気持ちでいっぱいだ。
生まれてくる君へ。
一緒に歩いた炎天下の道を、君は覚えているだろうか。
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