かざみ 時と風の少女・9
『なゆた かざみの玄孫』
翻ったままの状態でスカートが固まっていた。
何百人という人たちの視線が集まっているので、とても恥ずかしい。
「ウーン……」
固まっているのはスカートだけではない、着衣すべてが固まっているので、スカートを直すどころか身動きもままならない。
「なによ、これは!」
無理に動かそうとすると、額から汗が噴き出す。
――受け入れればスムーズにいくわ――空中で静止している暴走車の向こう、そこから声がした。
「だれ……!?」
それは気配だけだったが、目を凝らすと、しだいに人の形に……赤いウェットスーツのようなものを着た同年配の少女になった。
「息はできるでしょ……空気だって停まっているから、呼吸はできないはず。でも息をすることは当たり前だからできるの。時間は停まっているけど、身に着けているいるものも、あたりまえと思えば自由になる」
「でも……やっぱりダメ!」かざみはかぶりを振った。
「これを見て」
かざみの顔の前に鏡が現れた。
「鏡……」
「それを見て、もう一度」
「鏡見たって……あ?」
「髪は揺れているでしょ、身に着けているものも同じよ……ほら」
少女がボールのようなものを投げた。かざみは避けようとして横ざまにつんのめった。
「ワッ……動けた」
「ね、これで停まっている時間の中でも動けるでしょ。これからは度々こういうことがあるから慣れてね」
「あなたは、いったい?」
「なゆた。あなたの玄孫」
「ヤシャゴ?」
「曾孫の子ども。つまり百年後の、あなたの子孫」
「あたしの子孫……?」
「うん。簡単に言うわね……かざみさん、あなた消えかかってるの。さっき佐藤君のボールが体を突き抜けたでしょ」
「え、あ……うん」
「今も、そう、この暴走車……あなたの体を突き抜けたの」
「え……?」
「少し時間を巻き戻すわね」
なゆたが指を動かすと、暴走車のお尻が迫ってきて、かざみと重なったかと思うと、後ろの方に戻ってしまった。三度繰り返して、かざみも理解した。
「どういうこと……?」
「あなたの存在が危うくなっている。落ち着いて聞いてね、かざみさんの高祖父母……あたしにとってのかざみさんね。それが結婚しないとか、子どもを作らない状況になりつつあるの。そうなったら子孫であるかざみさんは存在しなくなる、その四代目のあたしにも影響が出てくるの。お願い、百年前に戻って修正してくれないかしら」
「あたしが?」
「もう数日で事態は決定的になって、取り返しがつかなくなる。いそぎで悪いけど、ここからワープしてもらえない?」
「でも、あたし、自分の親も分からないのよ。航空機事故のたった一人の生き残りだから」
「この修正が終わったら教えてあげるわ。ひいひいお祖母ちゃん、時間がないの、ここから旅立って、お願い」
困った顔は、どこかかざみに似ている。
「でも、そんな大事なことなら、あなたが行けばいいんじゃないの?」
「ワープできるのは百年前までなの。あたしは、この時代が限度。だからひいひいお婆ちゃんにバトンタッチするしかないの……あ、もう限界、いくよ!」
瞬間からだが浮いたような感じがして、周りの風景が歪み、そして真っ白になった。白い世界に風が吹いていた、その風の中に義父の祐之やノラ、親しい人たちの姿がフラッシュして意識が飛んで行った……ただ、風の音だけが耳に響いて。
※:登場人物
時任かざみ 百年の時空を超えて旅する少女 航空機事故の生き残り
時任祐之 陸軍中佐 航空機事故でかざみを救う かざみを引き取り十七歳まで育てる
ノラ 軍から派遣された監視用アンドロイド 祐之の謹慎が解けてからはハウスキーパー かざみのサポーター
満腹亭のオヤジ 祐之の元部下 戦争で負傷 脳みそ以外義体
加藤珠美 かざみのクラスメート 野球部のマネージャー 名ばかりエース佐藤の彼女
佐藤球児 下り坂の野球部エース
なゆた かざみの玄孫 百年未来から来てかざみを百年前の世界にもどした
※:かざみの使命 百年前に戻って高祖父母をめでたく結びつける
『ノラ バーチャルからの旅立ち』ノラ バーチャルからの旅立ち:クララ ハイジを待ちながら:星に願いを:すみれの花さくころの4編入り(税込1080円)
『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』 (税込み799円=本体740円+税)
東京から転校してきた坂東はるかが苦難を乗り越えていっぱしの演劇部員になるまでをドラマにしました。店頭では売切れはじめています。ネット通販で少し残っています。タイトルをコピーして検索してください。また、星雲書房に直接注文していただくのが確実かと思います。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説と戯曲集!
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お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。
青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351
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何百人という人たちの視線が集まっているので、とても恥ずかしい。
「ウーン……」
固まっているのはスカートだけではない、着衣すべてが固まっているので、スカートを直すどころか身動きもままならない。
「なによ、これは!」
無理に動かそうとすると、額から汗が噴き出す。
――受け入れればスムーズにいくわ――空中で静止している暴走車の向こう、そこから声がした。
「だれ……!?」
それは気配だけだったが、目を凝らすと、しだいに人の形に……赤いウェットスーツのようなものを着た同年配の少女になった。
「息はできるでしょ……空気だって停まっているから、呼吸はできないはず。でも息をすることは当たり前だからできるの。時間は停まっているけど、身に着けているいるものも、あたりまえと思えば自由になる」
「でも……やっぱりダメ!」かざみはかぶりを振った。
「これを見て」
かざみの顔の前に鏡が現れた。
「鏡……」
「それを見て、もう一度」
「鏡見たって……あ?」
「髪は揺れているでしょ、身に着けているものも同じよ……ほら」
少女がボールのようなものを投げた。かざみは避けようとして横ざまにつんのめった。
「ワッ……動けた」
「ね、これで停まっている時間の中でも動けるでしょ。これからは度々こういうことがあるから慣れてね」
「あなたは、いったい?」
「なゆた。あなたの玄孫」
「ヤシャゴ?」
「曾孫の子ども。つまり百年後の、あなたの子孫」
「あたしの子孫……?」
「うん。簡単に言うわね……かざみさん、あなた消えかかってるの。さっき佐藤君のボールが体を突き抜けたでしょ」
「え、あ……うん」
「今も、そう、この暴走車……あなたの体を突き抜けたの」
「え……?」
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「どういうこと……?」
「あなたの存在が危うくなっている。落ち着いて聞いてね、かざみさんの高祖父母……あたしにとってのかざみさんね。それが結婚しないとか、子どもを作らない状況になりつつあるの。そうなったら子孫であるかざみさんは存在しなくなる、その四代目のあたしにも影響が出てくるの。お願い、百年前に戻って修正してくれないかしら」
「あたしが?」
「もう数日で事態は決定的になって、取り返しがつかなくなる。いそぎで悪いけど、ここからワープしてもらえない?」
「でも、あたし、自分の親も分からないのよ。航空機事故のたった一人の生き残りだから」
「この修正が終わったら教えてあげるわ。ひいひいお祖母ちゃん、時間がないの、ここから旅立って、お願い」
困った顔は、どこかかざみに似ている。
「でも、そんな大事なことなら、あなたが行けばいいんじゃないの?」
「ワープできるのは百年前までなの。あたしは、この時代が限度。だからひいひいお婆ちゃんにバトンタッチするしかないの……あ、もう限界、いくよ!」
瞬間からだが浮いたような感じがして、周りの風景が歪み、そして真っ白になった。白い世界に風が吹いていた、その風の中に義父の祐之やノラ、親しい人たちの姿がフラッシュして意識が飛んで行った……ただ、風の音だけが耳に響いて。
※:登場人物
時任かざみ 百年の時空を超えて旅する少女 航空機事故の生き残り
時任祐之 陸軍中佐 航空機事故でかざみを救う かざみを引き取り十七歳まで育てる
ノラ 軍から派遣された監視用アンドロイド 祐之の謹慎が解けてからはハウスキーパー かざみのサポーター
満腹亭のオヤジ 祐之の元部下 戦争で負傷 脳みそ以外義体
加藤珠美 かざみのクラスメート 野球部のマネージャー 名ばかりエース佐藤の彼女
佐藤球児 下り坂の野球部エース
なゆた かざみの玄孫 百年未来から来てかざみを百年前の世界にもどした
※:かざみの使命 百年前に戻って高祖父母をめでたく結びつける
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東京から転校してきた坂東はるかが苦難を乗り越えていっぱしの演劇部員になるまでをドラマにしました。店頭では売切れはじめています。ネット通販で少し残っています。タイトルをコピーして検索してください。また、星雲書房に直接注文していただくのが確実かと思います。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
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