大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・栞のセンチメートルジャーニー・1『おひさしぶり』

2018-09-15 06:58:06 | ライトノベルベスト

栞のセンチメートルジャーニー・1
『おひさしぶり』
    


 幾つかの原因がある。


 年末から続いていた寒さが、急に緩み、四月上旬並の上天気になったこと。
 蔵書点検のために、五日間図書館が休んでいたこと。
 カミサンが「ついでに、アタシの予約本も取ってきて」と、わたしに図書カードを渡したこと。
 そして、わたしの気が緩んでいたこと。

 最後の「気の緩み」から説明が必要だろう。

 わたしは、五十五歳で早期退職をしてからは、家で本ばかり書いている。書いてはブログのカタチでアップロードしている。
 昨年の秋、六年ぶりに紙の本を出した。これが、あまり売れない。それが、昨晩旧友が「ネットで発見して、楽天に注文した」とメールを寄こしてきた。横浜の高校も、わたしの戯曲を上演したいとメールを寄こしてきた。で、ああ、オレも物書きのハシクレなんだと目出度く思ってしまった。

 本を書くことをアウトプットだとしたら、人の本を読んだり、映画を観たりすることはインプットである。しかし読むのが遅く、戒めとして、図書館で本を借りるときは、二冊を超えないようにしている。
 蔵書点検明けの図書館は混んでおり、カウンターの前は、ちょっとした行列になっていた。行列はバーゲンと同じように勢いがある。
「お願いします」
 カウンターに二枚の図書カードを置くと、「少々お待ち下さい」と言われ、数十秒後には六冊の本が出された。

――あいつ(カミサン)五冊も予約しとったんか!?――

 で、つい、カウンター横の新刊書を、装丁だけで選んで二冊加えた。その時セミロングの女子高生が、数冊の本を返しにきたのとゴッチャになった。
「あ、こっちがわたしのんです」
 女子高生と、司書の女の人は手際よく本を分けて、処理を済ませた。

 家に帰って、袋から本を出し、カミサンのと自分のとに分けた。本に間違いはなかったが、一枚のシオリが混じっていた。
 たまに借りた本の間から、前の借り主のシオリが出てくることがある。カミサンは嫌がって捨ててしまうが、わたしは気にせず使って、読み終わったら挟んだまま図書館に返す。

 そのシオリは、本と本の間から出てきた。

 まあ、同じようなものだと思い、炬燵の上に本といっしょに置いておいた。そして、いつものようにパソコンで日刊と、勝手に自分で決めた連載小説を打っていた。
「どないしょうかな……」
 ささいな表現で止まってしまった。
「『そして彼女は』か……『そのとき彼女は』どっちかなあ……」
 その時、パソコンの向こうから声がした。
「『やっぱり彼女は』だよ」
「ん……?」

 パソコンのモニター越しに、座卓がわりの炬燵の向こうを覗くと、そいつが居た。

「おひさしぶり」
 
 セーラー服のセミロング。その定番の姿で妹がいた。

 この妹は戸籍には載っていない。で、わたし以外には姿が見えない。
 わたしは、三つ上の姉と二人姉弟である。ずっと、そう思っていた。しかし、わたしが高校三年生の時に、父がこぼした。

「……おまえには、三つ年下の妹がいたんや」

 その日、担任が家庭訪問をして「卒業があぶない」と言って帰った。わたしは、すでに二年生で留年し、修学旅行を二回も行き、五月生まれなもので、わたしは、すでに十九歳であった。
「あのころは臨時工で、収入も少なかったし、先の見通しも立てへんよって、三月で堕ろしたんや」
 父は、わたしの不甲斐なさがやりきれなかったんだろう。だから、こんな痛い言い方をした。

 それから折につけ、姉によく似た高校一年生の妹の姿が頭に浮かぶようになった。

 姉は、わたしと違って、勉強も良くでき、親類や近所では評判が良かった。高三のときは、担任から大学への進学も勧められていた。しかし、わたしを大学に行かせるために、姉は高卒で働いていた。
 痛む心に浮かんだ妹の姿は、そんな姉を、少しこまっしゃくれた感じにした印象だった。わたしの生来のずぼらさや、意気地のなさをせせら笑っているような姿形で浮かんでくる。

 こいつが、早期退職して間もないころ現れるようになった。
 今と同様、文章の言葉に悩んでいるとき、炬燵の向こう側に現れた。両手両足を炬燵につっこみ、炬燵の天版にアゴを乗せ、「バカ……」と一言言って現れた。

 若干の混乱のあと、妹であると知れた。知れたとき、また「バカ……」と言った。

 ミカンの皮を剥きながら名前を聞くと、こう答えた。
「栞(しおり)」
 ……人生のここ忘れるべからずのための栞である。

「兄ちゃんばかだからね」

 そう言いながら、気まぐれにヒントやアイデアをくれ、あとは仕事場を兼ねたリビングで遊んでいる。栞にとっての遊びは、乱雑にした本の整理をしながら、気に入った本を読むことである。時に気持ちが入り込んだ時はボソボソと音読になり、突然笑ったり、泣いていたりする。それが面白くニヤニヤと笑って観てしまう。それに気づくと「バカ」と、口癖を言う。
 ある日、車のコマーシャルで、長崎の『でんでらりゅうば』をやっていて、それが気に入ってやりはじめた。役者をやっていたころ、基礎練習で、これをやったので、わたしは容易くできる。それが悔しいのだろう「でんでらりゅば、でてくるばってん……」と続けていた。

 気が付くと『でんでらりゅうば』が聞こえなくなり、居なくなった。で、それがまた現れた。

「おひさしぶり」 

 今度は、かなり絡まれそうな予感がした……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・20『6・25%のDNA』

2018-09-15 06:24:29 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・20
『6・25%のDNA』
    



「おはよう」の声はいつもの通りだった。

 昨日、大阪城公園の路上ライブから帰ってからの幸子は変だった。
 普段の無機質な歪んだ笑顔をしないのだ。
 いつもならパジャマの隙間から胸が見えてると言っても平気でいるのに、夕べは、頬を赤くして怒った。

「おはよう」の声が、いつも通りなんで俺は試してみた。
「第二ボタン、外れてるぞ」
「うん……」
 狭い洗面所の中だったので、いっそう丸見えだったけど、いつものように気にもしない。
 顔を洗うので、洗面台を交代しようとして、幸子がささやいた。
「あとで、わたしの部屋に来て」

「夕べ、別のわたしがいたでしょう」

「幸子、こういう状況で、部屋に人を入れるもんじゃないぜ。たとえ兄妹でも」
 幸子は、下着一枚で姿見の前に立っていた。
「ごめん、ニュートラルにしとくと、こういうこと気にならないもんだから」
 そう言って、幸子は服を着だした。
「オレも、夕べの幸子は変だと思った、話が合わなかったし、恥じらいってか、自然に女の子らしかった」
「わたしも。このパンツ、わたしのじゃないし」
 スカートを派手にまくって、相違点を指摘する。
「だから、そういうところを……」
「うん、プログラム修正……だめだ」
「どうして?」
「これ、修正しちゃうと、お兄ちゃんにメンテナンスしてもらえなくなる。メンテナンスの時はニュートラルでダウンしちゃうから、恥じらいをインストールしちゃうと、裸になったり、股ぐら開いたりできなくなる」
「せめて、そのダイレクトな物言いを……」
 構わずに、幸子は続けた。
「わたしのパンツも一枚無くなってる……確かね、パラレルから別のわたしが来た」
「オレも、こんなのシャメった」
「盗撮?」
「あのな……」
 ボクは、風呂上がりの幸子の様子が変だったので、後ろ姿を写しておいた。タオルで髪を巻き上げていたので、耳の後ろがよく見えている。耳の後ろの微妙な皮膚の盛り上がりがない。
「これ、右側だよ。コネクターは左側」
「これ、リビングの鏡に写ったの撮ったから、左右が逆なんだ」
「情報修正……お兄ちゃんは記録より少し賢い」
「コネクターが無いということは……」

「この幸子は、義体じゃない」

「じゃ、小五の時の事故は起こってないってことか」
「……そういうことね。向こうのパソコンで検索したんだけど、大事なところで違いがあるの」
 幸子は、ケーブルを自分のコネクターとパソコンを繋いだ。
「アナログだなあ、ワイヤレスじゃないのか」
「ワイヤレスだと、誰に読まれるか分からないからよ」

 数秒して、画面が出てきた。ウィキペディアの第二次大戦の情報のようだ。

「ここ。原爆は、広島、長崎と新潟に落とされてる」
「新潟に?」
「こっちの世界でも、投下の候補地にはなったけど、グノーシスの中で情報が交換されて、こっちの世界では、新潟への投下は阻止された。他にも、いろいろと相違点はある」
「パラレルワールドの誤差だな」
「ううん、互いに意識して、グノーシスたちが変えたものがほとんど」
「グノーシスって……」
「お兄ちゃんが、想像している以上の存在。わたしも全部は分かっていない。ちょっと、これ見て」
 幸子は、写真のフォルダーを開いた。
「あっちの幸子は、マメな子ね。親類の写真をみんな保存しているの……これよ」
 そこには、「ひいひいじいちゃん・里中源一」と書かれた、実直そうな青年が写っていた。
「うちの親類に、里中ってのはあったかな……」
「こっちの世界で、これにあたるのは……山中平吉」
 パソコンには、お父さんのアルバムの中にあった、お父さんのひいじいちゃんの写真が出てきた。
「向こうの世界じゃ、この平吉さんは、新潟の原爆で亡くなってるの」
「……ということは」
「八人のひいひいじいちゃんが一人違うってこと。だから佐伯家は、向こうと、こっちじゃ、微妙にDNAが異なる。玄孫(やしゃご)の代じゃ6・25%、外見的に影響ほとんどないけどね」
 ボクの頭の中で、何かが閃いたが、お母さんの一声で吹っ飛んだ。
「幸子、太一、朝ご飯早くして、片づかなくて困る!」

「……でも、幸子、モノマネ上手くなったな。テレビの取材なんか受けてたじゃん」
 ボクは、歯に挟まったベーコンをシーハーしながら、ナニゲに聞いた。
「うん、自分でも止まんないの……あ、また」
 
 こっちを向いた幸子の顔は、なぜか優奈と佳子ちゃんの顔に交互に変わった……。
 


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