大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 11『スコーンとジャム』

2021-06-27 13:02:07 | ノベル2

ら 信長転生記

11『スコーンとジャム』   

 

 

「利休、そのボブヘアーの下はつるっぱげか?」

「あら、どうして?」

「利休と言えば坊主頭」

「ホホ、坊主は信玄君もそうじゃない」

「信玄は、毎朝、小姓に剃らせていた」

「知っていたのか、信長?」

「ああ、情報網は張っていたからな」

「さすがは信長だな」

「フフ、川中島で一騎打ちの時は、小姓たちも出払って、禿げ頭がカビが生えたようになっていたわね」

「一騎打ちの時は兜を被っていたぞ」

「直前まで、兜を脱いで汗を拭いていたじゃない(^_^;)」

「謙信、なんで、それを!?」

「歴史に残る一騎打ちよ。信玄が準備できるまで待っていてあげたのよ」

「そ、そうなのか!?」

「信玄の頭が生禿で、産毛がそよいでいたなんて、歴史の本に書かれたくないでしょ」

 アハハハ ワハハハ ホホホ

 茶会の席は、暖かい笑いに満ちた。

 

「利休のように転生しても同じ道を進む者はいるのか?」

 俺は、二つある疑問の一つを投げかけた。

 

「さあ、どうでしょう? 転生した人を全部知ってるわけじゃないし、わたしのお茶も変化しつつあるし」

「そうだな、天下の利休が紅茶を淹れてるんじゃからな」

「信玄がクリスチャンになるようなものね」

「儂も、クリスマスとかバレンタインは好きだぞ」

「紅茶だけじゃないわ、今度は、ジョギングの後にお茶会をやってみようと思うの」

「それは面白いかもしれないわね」

「儂はビールがいいなあ」

「信玄君は、お酒控えた方がいいわよ」

「つれないことを言うな、利休」

「自分が女子高生だってこと忘れてるでしょ」

「膝が開いてるわよ、信玄」

「ワハハ、まだスカートには慣れないんでな」

 美少女の親父言葉はそぐわないのだが、この信玄坊主は、そこがえも言えぬ味になっている。

 転生というもの、取りあえずは面白い。

 

「茶うけのスコーンが焼けました」

 

 お!?

 

 不覚にも驚いてしまった。

 古田(こだ)とスコーンの出現が唐突だったからだ。

 スコーンは、焼き立ての香ばしい匂いがしている。近くで焼いていたのなら匂いがしてくるはず。

「ホホ、オーブンを風下に置いていたのよ。いい匂いだけれど、早くから匂いが立ち込めたら気を取られてしまうでしょ」

「おお、さすがは利休の弟子だ!」

「話の邪魔にならないように、気配も消したのね」

「そうか、頭の汗を拭く間、待ってくれていた謙信と同じだな」

「いい弟子を持ったな、利休」

「褒められちゃったわよ、古田(こだ)さん」

「恐れ入ります。スコーンは、こちらのジャムを……」

「塗るんだな(⌒∇⌒)」

「信玄、まだ説明の途中よ」

「よいではないか、一つくらい……うん、そのまま食べても美味しいぞ。ビールのあてにいいかもしれん!」

「ジャムは塗るのではなく、載せるようにしていただき、紅茶を含んでいただければ、美味しさが引き立ちます」

「そうか、では、さっそく」

 ジャムは、一人ずつ意匠の違う器に入れてあり、飾り気のない銀のスプーンが付いている。

 俺のは、ガマガエルがユーモラスに口を開けている意匠の焼き物だ。

「ホホ、信長君のがいちばん沢山入っているようね」

「そうなのか?」

「いえ、たまたまです、たまたま……」

「なかなかゆかしい。古田(こだ)さん、あなた、なかなかの粋人ね」

「恐れ入ります」

「この、ジャムとスコーンの塩梅は絶妙だな!」

「信長、儂のジャムも食っていいぞ」

「い、いいのか( ゚Д゚)、信玄!?」

「ああ、一番おいしいと思う者が一番多く食べればいい」

「ホホ、そんなの譲っても、アルコールは出しませんからね」

 

 菓子と甘いものに目が無い俺は、もう一つ、肝心の事を聞き忘れた。

 まあ、今が美味しければ、いいか。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生

 

 

 

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せやさかい・214『キングダム』

2021-06-27 09:00:24 | ノベル

・214

『キングダム』頼子      

 

 

 あ、ニキビ!

 

 歯を磨きだして発見した。

 まあ、高校二年なんだからニキビぐらいはできる。

 でもね、わたしの美意識に反するので気を付けている。

 

 一昨日の晩から『キングダム』いハマってしまったせいだ。

 

 わたしは、実質的にヤマセンブルグ公国の王位継承者。

 学校では夕陽丘頼子だけれど、もう一つヨリコ・スミス・メアリー・ヤマセンという名前を持っている。

 ニ十二歳までに国籍を選ばなくてはならない。

 お祖母ちゃん(女王)の陰謀で、ほとんど――わたしは王女――という自覚を持っているんだけど、一年前までは、それほど思い詰めることも無かった。

 コロナ(お祖母ちゃんは中〇ウィルスとはっきり言う)のお蔭で、一年前から領事館住まい。

 ここにいると、完全に王女様。

 廊下や階段を歩いていても、わたしが通ると道が開けられる。語尾には「ユア ハイネス」なんて付いたりする。返って来るお返事には「イエス、マム」がぶら下がっている。

 まあ、いいか……という気にはなってきているんだけどね。

 それが!

 わたしは王女にならなければならないぞ!!

 握った拳を天に向かって突き上げた(ウルトラマンの変身ポーズに似てる)!

 

 事情は、こうなのよ。

 

 さくらが、昔のオリンピック(最初のロサンゼルスオリンピック)の水泳平泳ぎで銀メダルを取った前畑選手に凝った。

 唐突なんだけど、さくらは、いつも唐突なんで気にしてはいられない。

 それで、YouTubeで検索して感動したついでに、プライムビデオでアニメを観ていたらハマってしまったんだって。

『キングダム』

 キングダムっていうのは、春秋戦国時代、信という奴隷の少年が秦王朝の王様を助けながら大将軍になって行くって壮大なドラマ。

 王様って、若いころの秦の始皇帝。

 それまで、七つの国に分かれていた中国を、初めて統一したって人。

 統一したから、敬称は『王』ではなくて『皇帝』なんだよ。

 皇帝というのはエンペラーで王様や女王よりも偉い。

 今の世の中で、自他ともにエンペラーを名乗れるのは、日本の天皇陛下だけ。

 天皇陛下は、一昨年、お祖母ちゃんといっしょに宮中に呼ばれた時に、遠目にだけどお目にかかった。

 正直、緊張したよ(;^_^A

 エリザベス女王だって、一歩引きさがって敬意を表される存在!

 信が奮い立って、一生と命をかけてお仕えしたのが、始皇帝なわけ!

 

 で、そのアニメを金・土の二晩かけて観てしまった。

 

 若き秦国王政(せい)は、秦以外の中国の王国の合従軍に包囲され、王国は函谷関を守り切らなければ国を失うところまで、追い詰められている。

 やっと、千人の部隊長になった信は、重傷を負いながらも八面六臂の大活躍!

 さくらは、信の大ファンなんだけど。

 わたしは、若き国王の政にシンパシー。

 

 国の重さを感じてしまった。

 

 国を失うと、人々はバラバラになって、バラバラになった人々の多くは命を落とし、生き残った僅かな人たちも世界中に散ってしまって辛酸を味わうことになる。

 夕べね、うっかりお祖母ちゃんとスカイプで話してしまった。

 こんな、おもしろいアニメがある!

 って、お祖母ちゃんに自慢したのよ。

「観てるわよ」

 こともなげに言って、お祖母ちゃんは鼻を膨らませた!

 でもって、部屋の本棚にカメラを向けると、本棚にはコミックの『キングダム』がずらりと並んでいるのよ!

 く、くそばばあ(-_-;)!

 あ、思っただけで口にはしてないから。

 

 今日は日曜日でもあるし、朝のアレコレが済んだら、ニキビ退治のためにも、ちょっと横になろうと思う。

 でも、目をつぶるとスマホの着信音。

 さくらのやつだ。

「……もしもし」

『頼子さん! 木村重成のお墓見に行こう!』

 ……予定が狂ってしまった。

 

 

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ライトノベルベスト『61式・5』

2021-06-27 06:16:53 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『61式・5』   

 




「どうだ、これで文句はなかろう!」

 お祖父ちゃんは、バシンと婚姻届をテーブルに叩きつけた。

 喫茶ヒトマルは日曜が閉店日だったので、自衛隊退役准尉の祖父ちゃんのバシンは、平手でホッペを張り倒したように店内に響いた。

 空にはのんびりと遠くにヘリコプターの爆音だけがして、いっそう日曜の静寂を醸し出す。

 婚姻届とは、61式のお父さんを説得するためにお祖父ちゃんが、啓子伯母ちゃんといっしょになって作ったハッタリ……であることは言うまでもない。

「こんなものは、自分は知りませんし、認めもしません!」

 お父さんもハッキリ言う。

「平和(ひらかず)君。君が認めんでも、この婚姻届は法的に有効じゃ。あとは立会人二人の署名があれば5分で市役所に持っていける。幸い隣は警察署。立会人には不足は無い」

「今日は日曜です」

「ワハハ 婚姻届、死亡届、出生届は日曜でも受け付けて居るわ。ロートル准尉とバカにするなよ。それぐらいは世間の常識じゃ!」

「し、しかし、高校生で結婚だなんて……だいいち栞はともかく、武藤君は法定年齢に達していないでしょ」

「よく見たまえ。武藤君は4月2日生まれ、堂々たる18歳。要件は満たしておる」

「まあ、学校があるから、とりあえず入籍だけして、あとはなるようになるでしょ。あたしが責任持つわ」

「ざ、在学中に同棲だなんて、お父さんは認めんからな!」

「同棲なんかじゃないわよ。ちゃんとした結婚生活よ」

 あたしも調子に乗ってきた。

「で、ものは相談じゃ。わしは長幼の序というものを大事にする。父親である平和君が独身であるのに、娘の栞が嫁に行くのは順序が逆じゃ。そこで、まず平和君が片づかなきゃな」

「じ、自分は……!」

「照れくさいのは分かる。しかし、このままでは君は実戦経験がないまま、男としても退役せにゃならん。これも栞の母親で、わしの娘である一美が早く逝ってしまったせい……父親としても責任を感じておる」

「一美への義理立てなら、もう十分よ。栞をここまで育ててくれて、その栞ちゃんも進一君と結婚。まさに後顧の憂いなしでしょ」

 結婚とか、婚姻とか言われるたびに、胸がドッキンする。武藤先輩も頬っぺたを真っ赤にしている。

「ま、取りあえず会うだけ会ってみてくれ。年寄りの顔をたてると思って」

「しかし、いまお返事しても、相手の方のご都合も……」

「それはついておる……」

 お祖父ちゃんは、やおらスマホを取りだした。

「こちらブラボーワン、橋頭堡を確保。作戦実施、オクレ!」

 お祖父ちゃんの一言で、のどかなヘリコプターの爆音が近くなった。

「みなさん、お見合い相手がやってこられます!」

 庭で待機していたチイちゃんが叫んだ。みんなで庭に出てみた。

 ヘリから出てきたピンク色のパラシュートみたいなのが花のように開いたかと思うと、おとぎ話のように揺らめきながら降りてきた……。

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コッペリア・36『ケセラセラ・1』

2021-06-27 06:01:37 | 小説6

・36

『ケセラセラ・1』  



 

「瀬楽、面会人だぞ」 

 先輩のバーテンダーに言われて、瀬楽はグラスを拭く手をタオルで拭い、厨房を出ようとした。

「ああ、裏の通用口。開店すぐだから手短にな」

「どうも、すみません」

 男としては華奢な瀬楽だったので、ビールケースや什器が散在する狭い廊下を器用にすり抜けて通用口に向かった。

「……なんだ、真央じゃないか」

「ちょっと、話しいいかな?」

「開店前だ、手短にな」

 真央が、ちょっとたじろいだような顔をした。瀬楽は優しく言いなおした。

「アパートの権敷やら、最低の家財は買わなきゃな。真央とオレのためなんだ。だから手短に」

「あ……実は、その話なんだけど」

 瀬楽は嫌な予感がした。

 元々勘と言うか気配りの利くたちで、最初の一言を聞いただけで、たいてい人の本音はわかってしまう。

 しかし、次の展開は瀬楽の予想を超えていた。

 路地の向こうから、瀬楽とはまったく正反対の体育会系の男がやってきた。

「俊一、あなたはあとで……」

「いや、やっぱ、これは、オレから話しておくのが筋だ」

 この二言で、瀬楽は真央の心が離れ、雄太という体育会系に移ったことを理解した。

「真央を自分に譲ってほしい」

 俊一という男は、話しの核心だけを言って、あとは、ただ頭を下げた。真央は、いつに変わらぬお喋りで、する必要もない俊一の話を補足した。

「幸せに……」

 主語も目的語もない一言を言うのが精一杯だった。半年かけて作った生き甲斐と人生の目標は一分足らずで崩れてしまった。

 いつものように、バイトの仕事はこなした。だれも瀬楽に起こった人生の大問題に気づく者はいなかった。

 ただ、看板近くにやってきたローゼンのママだけは気づいた。

「瀬楽ちゃん、看板になったら、うちのお店においでよ。このままだと、あんたダメになっちゃうよ」

 具体性はないがママの言葉は核心をついていた。瀬楽は真央との生活のためだけに大学も辞め、バイト一筋にやってきたのだ。

 ママの言う通り、このままではワンルームのアパートまでも帰れないかもしれない。

「これが……ボク?」

 ローゼンのママは、店のメイクルームで、瀬楽を着替えさせメイクをしてくれた。

 鏡の中には、清楚なボブの女の子がいた。

「よし、思ったより上出来。あたしに付いてきて」

 ママは、まだ開いているメイデンに連れていった。

 メイデンはママが、その道の極みを作るために半ば趣味でやっているニューハーフの店である。顧客は会員制で少ないが、真っ当で目の肥えた客とスタッフが揃っている。

 ママは、臆面も無く「あたしの娘。やだ、余計なことは聞かないでね」と、店の一角に座らせておいた。娘であることは誰も信じなかったが、素人の本物の女の子であると思われた。

「どう、しばらく別の人間になって、クールダウンしてみない」

 瀬楽がセラになった瞬間であった。

 

 

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