大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・220『偵察に行こう!』

2021-06-30 10:11:32 | 小説

魔法少女マヂカ・220

『偵察に行こう!』語り手:マヂカ     

 

 

 高坂家の邸内には、主なもので五つの建物がある。

 

 最大のものは『母屋』と呼ばれる邸宅で、高坂家の者たちが起居する日常の建物であり、外来者との応接、社交の場でもある。

 次に大きいのが、母屋とは渡り廊下で連結されている『宿舎』だ。

 宿舎は、高坂家の使用人たちの建物で、上は田中執事長や春日メイド長、下はクマさんたち平のメイドや執事の生活の場。食堂や浴室も母屋とは別のものが完備しているのはもちろんのこと、使用人用の図書室まで完備しているので、他家の使用人たちからは羨ましがられている。

 その図書室の横には裁縫室というのがある。

 邸内の縫物や繕い物をする部屋で、和裁道具はもちろんのことミシンやアイロン台も完備している。

 単に屋敷の営繕に使われるだけでなく、使用人たちに技術を身につけさせるための教育施設でもある。

 たいていのメイドたちは、花嫁修業を兼ねた奉公なので、高坂侯爵は使用人たちの教育には熱心なのだ。

 クマさんたちのメイド服も、この裁縫室で作られる。業者に発注するよりも安価にできるし、使用人一人一人に合わせたオーダーメイドなので、質も良く、これも他家の使用人たちからは羨望の的。

 着任したての請願巡査の箕作も、着任早々の捕り物で制服を破ってしまって裁縫室の世話になっている。

 

 この三日、その裁縫室からミシンをかける音が絶えない。

 

 ダダダダダ ダダダダダ ダダダダダ……

「なに縫ってるんだろう?」

 学校から帰ると、車寄せに下りたところで気になった。

 クマさんも、この二日は通学の付き添いを休んで裁縫室の仕事に専念している。

 生け垣に隔てられて、音そのものは小さいんだけど、ミシンのリズムが、まるで機関銃のようだ。

「偵察に行こう!」

 203高地の前線視察をする参謀将校のようなことを言って、霧子が歩き出す。

「ええのん?」

 ノンコの腰が引ける。

 家族の者が寄宿舎に立ち入ることは禁止はされてはいないが遠慮することになっている。

 仕事の邪魔になるだけでなく、使用人たちに、いらぬプレッシャーをかけてはいけないと侯爵から戒められているのだ。

「最前線に出なければ、作戦指揮がとれないぞ、陸軍のバカタレ!」

 203高地の督戦に向かった東郷艦隊の幕僚のようなことを言う。

「そうか、我々はセーラー服だから海軍なのだな」

 調子を合わせてやる。

 霧子との付き合いも長くなってきた。この程度の事は臨機応変だ。

 霧子の好奇心や行動力は矯めすぎてはいけない。

 

 生け垣の隙間から覗くと、クマさんだけでなく、邸内のメイドたちが真剣な顔でミシンに向かっているのが見て取れた。

 203高地の上から旅順港のロシア艦隊を発見した幕僚のような気になった。

 日露戦争だと、司令部から『ロシア艦隊は見えるか!?』と電話で聞かれ、幕僚はこう答えるんだ。

『はい、丸見えであります!』

 そうして、旅順港のロシア艦隊は一掃されて、日本は一気に優位な立場になるんだ。

 

「丸見えです、お嬢様方」

 

 振り返ると田中執事長が怖い顔をして立っていたぞ(;'∀')。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

 

 

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ライトノベルベスト『炊飯器の起動音』

2021-06-30 06:57:19 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『炊飯器の起動音』 





 背中の方で、急に音がしたんでびっくりした。

 危うく食べかけのアイスクリームのカップを落とすところだった。

 大げさだけど、死神が来たのかと思った。

 ジー……ゴー……てな感じ。

 大きな音なら、ここまで驚かない。

 自動車、飛行機、バイク、隣のおばちゃんがお皿を割る音。学校帰りの小学生の嬌声。筋向いのベスの吠える声。

 そういうのは突然でもびっくりしない。したと同時になんの音だか分かるから。

 で、今のは炊飯器が起動した音。

 こないだ買い換えたばかりで、この子の起動音を聞くのは初めてだった。

 前の炊飯器は小学校の6年の時に来た。安物だったせいもあって、起動音が大きく、いかにも「今からご飯炊きます!」って感じだったので驚くどころか、不器用で一途なお台所の仲間って感じだった。

 今度の子は、お父さんの稼ぎも増えたので、ナントカ釜の高級品で、前の子とはケタが一つ違う値段。

 むろん、この子のご飯は美味しい。だけど、今の音はいただけない。小さな音でも正体が分からないから、一瞬死神なんて思ってしまう。

 で、こんなご飯を炊き始める時間にアイスクリームを食べているかと言うと、昼抜きだったけど食欲がないから。

 このまま晩御飯を食べても、そんなには食べられない。お昼も抜いているから、体に良くない。だから、少しお腹に刺激を与えておく。

 テスト後の短縮授業なのに、なんで、こんなに遅くなったかというと、補習を受けていたからだ。

 勉強は嫌い。特に理数は。

  英語は好きだけど、授業は嫌い。[I think therfor i am]は英語のままの方がいい。「われ思う故に我あり」なんて言うと、政治家の演説みたいだ。こないだの英作文で[I love u!]と書いたらペケにされた。[You]を[u]としたのがいけないそうだ。
 だけど、アメリカの若者はYouをuと略して書く。日本語で「おめえ」と言いたいのを「あなた」とあらたまるようなものだ。言葉は生きてこその言葉だ。エイミーはいつも[u]で済ませてくるし、それで通じてる。最初に[You]って打ったら[lazy]とかえってきた。ま、カッタルイてな意味。

 で、今日の補習は英語じゃない。英語はカツカツで50点だったから。

 補習は情報。エクセルとパワーポイントの使い方の実習。

 パソコンなんて、文字が打てて、ブログ書いたり動画サイトにアクセスできたり、チャットができたら、それでいい。

 数学なんて、買い物に行って、お釣りの計算ができたらいい。飛行機の最短コースや燃費の計算なんて、航空料金表見りゃ値段で分かるっつーの。安いのが一番。エイミーもあたしも、そのへんは知ってるから、お互い平気で行き来できる。

 もっと訳わかんないのはCO2の計算。

 マジだけど、地球の温暖化なんてクソまじめに考えてんのは日本だけ。CO2の排出なんて、とっくに利権化してて、日本はいいカモになってるだけなのにね。ま、いいや。アイスクリームの美味しさが炊飯器の音でびっくりして、驚きとともに、頭と舌に焼き付いたから。炊飯器の起動音でアイスの美味しさ実感した人間は、そんなにはいないだろうから。

 今夜は、昨日思いついた詩を広げて短編の小説にすんの。

 エイミーにも送って、向こうの日系の先生に翻訳してもらう。ちょっと聞いてくれる。その元になった詩。

≪恋の三段跳び≫

 ホップ、あなたに恋をして。ステップ、あなたに近づいて。ジャンプ……しても届かなかった。


 短編を10個ぐらい書いて、中編が3本、長編が1本書けたら、人生、それでいい。

 あたしは、長く生きても20歳ぐらいまで。炊飯器が前の子だったころに分かった。お父さん頑張って一桁上の炊飯器が買えるくらいがんばってくれた。だから、あの子があたしを嚇かしたことは黙っていよう。アイスも美味しくしてくれたし。こうやってブログにも書けたし。

 なんの病気かって?

 それは内緒。コメントもトラックバックもいいです。あなたなりに、そうなんだ。と思ってもらえたらいいです。

 ではエンターキーを押します。読んでくれてありがとう。

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コッペリア・39『波乱の緊急保護者説明会!』

2021-06-30 06:44:48 | 小説6

・39

『波乱の緊急保護者説明会!』  




「顔を撮ってもらってもけっこうです」


 咲月も栞も、並み居る報道陣に宣言した。

 神楽坂高校二年生の異例な学級増とクラスの再編成は、神楽坂の教職員の思惑を超えて全国のマスコミが注目することとなった。

「今回の学級増とクラスの再編成は、あくまで生徒の利益を考えてのことです」

 校長はポーカーフェイスで言いきった。

「学級崩壊もなく、あたりまえに進行し始めた学年を解体して、現状を変更する必要はあるんですか?」

「学級数が多くなれば、一クラス当たりの生徒数が減ります。それだけ行き届いた教育が出来ると考えました。それに新学期が始まって間が無いからこそ、実現できることなんです。40人学級は、そういう精神に基づいて決められております。どうかご理解いただきますように」

 校長は、良くも悪くもセオリー通りの答えをした。校長は緊急保護者会を、こう締めくくった。

「二学年は、転校生などがあり、都の学級編成基準も40人以下をもって構成するとあります。あくまで、子どもたちのためです」

 そう答えた組合の分会長には、たちまち矛盾を突かれた。

「ということは、わたしが転校してきて咲月が留年したのが悪かったんですね」

「そういうことじゃない」

「だって、学年途中のクラス替えなんて、みんな驚いています。やっと友だちもできて、そんな子たちはクラス替えになることを嫌がってます」

「あの……これ、クラス替えに反対するクラスの署名です。クラスの大半の32人が署名してくれました」

 咲月は、ざら紙で作った署名簿をカバンから取り出した。

「みんな嫌がってるんです。この、嫌なクラス替えが強行されるのは、転校生のわたしと留年生の咲月が悪い。わたしと咲月が悪かったって説明しなきゃいけないんですか」

「いや……それは……」

「新しいクラスの編成基準はなんですか?」

 咲月が質問する。

「シャッフルしたうえで、本校の学級編成基準に照らして作りました。成績や、体格、男女比、それに同一姓はなるべく離すというような条件です」

「ということは、各クラスは、元のクラスが、ほぼ均等に分けられたということですね」

「ええ、そうなりますね」

「それは、おかしいです。栞と二人で調べてみました。新しいクラスは、元のクラスの者が2/3以上。残った1/3をかき集めて、もう一クラスが作られています」

 こういう事情で、栞と咲月の存在はクローズアップされ、インタビュー。

 で「撮ってもらって結構ですよ」に繋がる。

「あたしたちは、こんな混乱になるなんて聞いていませんでした。先生方がおっしゃる内容では、あたしたちが、この学年に入ったために学級の再編成がおこなわれるように聞こえます。心外です」

 栞が簡略にまとめると、咲月が引き受けて、過激に締めくくった。

「理不尽な変更ですが、これ以上の混乱は望みません。適応するように努めます。ただ、これが学校と先生たちの本質だということを分かってください」

 咲月はAKPの研究生だということがすぐに分かったので、咲月は仮名にされ、顔にはモザイク、声も変えられた。

 インタビューと事のあらましは保護者会の前に流された。

 保護者たちは、説明会のときにはみんな事情を知っていて、ほとんど学校への糾弾会になってしまった。

「うちの娘が言うことの方がよっぽどまともだ。あんたら間違ってるよ、数さえ合わせたらいいってのは、あんたらが大っ嫌いなむかしの軍隊の員数合わせと同じだ。もっと血の通った学校にしてもらわなくっちゃな!」

 大家さんは、名目上の孫娘であることも忘れて、唾をとばして力説した。

「そうだそうだ!」

「生徒をダシにして、楽すんじゃねえよ!」

 教師と言う人種は、基本的に役人である。まして背景には都の40人学級編成の条例がある。ますますカタクナになっていく。

 そこに、栞を先頭に、生徒たちが10人ほどなだれ込んできた。

「君たちには関係ない!」

 分会長は激昂した。

「生徒が主人公だって、いつも言ってるじゃないですか。あたしたちが一番影響を受けるんです。なんで、あたしたちが参加しちゃいけないんですか!?」

 保護者席から盛大な拍手がおこり、テレビ局は混乱に乗じてカメラを持ち込んだ。

「すでに、今朝から新しいクラスに編成替えになりました。これでもとに戻したら、一層の混乱と不信を招きます。悔しいけど、このままでいいです。ただ、このことで起こる予期できる、そして予期できない問題を含んで、責任は、全て学校にあります!」

 栞の現状分析と、明快な論理展開に颯太は目頭が熱くなった……一瞬栞の顔が、人形では無く、可憐で高潔な女子高生のそれに見えた。

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