大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・44『まあやと朝ごはん』

2023-03-10 15:59:21 | 小説3

くノ一その一今のうち

44『まあやと朝ごはん』 

 

 

 気が付くと相変わらずの真っ暗。

 

 でも、瞬間で分かった。ここは甲府城の地下ではない…………昨日訪れたばかりの甲斐善光寺の戒壇巡りの中だ。

 忍者の五感は常人の倍は鋭い。特に肌感覚と嗅覚は数倍の鋭さがある。

 例え同じ闇の中に居ても、肌で感じる空気とニオイが違うんだ。

 善光寺の戒壇は人の出入りが多く、その出入りによって、寺院特有の抹香や木の匂いが混ぜられて独特なんだ。たった今まで居た甲府城の地下にはそれが無い。それに、あれだけ押し寄せてきた水のニオイや土砂の埃臭さがまるでしない。

―― 気が付いたか ――

―― どうして、善光寺の戒壇? それに!? ――

 そうだ、意識を失ったのは課長代理に当身をくらわされたからだ。

―― あれは佐助の幻術だ ――

―― あの謝恩碑の、すごい勢いで流れ出した水が? ――

―― ああ、一種の暗示だ。あれの暗示にかかると、実際に水が無くても溺れ死んでしまう ――

―― リアルの水が無くても? ――

―― そのには、まだ佐助の術への耐性がないから眠らせるしかなかった。坑道の一つを抜けるとここまで来てしまった ――

―― すみません、不覚でした ――

 

 朝になって参拝客が入って来るのを待って戒壇を出る。

 

 一晩闇の中に居たので、薄暗い金堂の中でも強烈に眩しく、数分ご本尊を拝むふりをして目を慣らせてからホテルに戻った。

 夕べは遅くまで撮影準備をしていて、この日の撮影は午後からになっていたので助かった。

「照明の多田さん、お父さんが危篤だそうよ」

 朝ごはんのバイキングの列に並んでいると、お手洗いを済ませてきたまあやが報告してくれる。

「多田さんは残って仕事するって言ってたらしいけど、監督が『親孝行してこい』って、叱るようにして帰したって」

「え、そうなんだ!」

 まあやは自分の身内の事のように眉を顰め、わたしは―― あのオッサンか! ――とビックリした。

 ほら、夕べ稲荷曲輪の井戸から下りた時、上の蓋を閉めた奴。課長代理は「ロケチームの中に居る。朝になれば分かる」って!

「でもね、わたし、多田さんの顔思い出せなくて……」

 まあやは、人気俳優なのに気配りの行き届いた子で、キャストやスタッフの全員の顔を憶えている。

 当日限りのアルバイトや仕出しの役者にも、ちゃんと挨拶をして記憶に留めようとする。

 さすがは豊臣秀吉の末裔だと感心した。

 これが戦国の世で、本人に欲があれば天下が取れる。

 そうなれば、参謀の黒田官兵衛は……課長代理。

 わたしは豊臣家筆頭忍者の猿飛佐助……ダメだ、すでに木下家の方にクソ猿飛が居る。

 多田と聞いて、ちょっと自負するところもある。こういう間諜めいた奴は印象を薄くして気取られないようにしている。じっさい、このまあやが顔を憶えられない程度には。

 でも、わたしは多田の顔も印象もしっかり記憶している。

 風魔そのいち、少しは自信を持っていいかもしれないと密かに自負した。

「あ、野菜も食べなきゃダメでしょ!」

「朝から野菜なんて食べられないよ(^△^;)、あ、ちょ……もう」

 まあやのトレーにサラダと野沢菜の漬物を載せてやる。

 まあやの数少ない欠点。たった今もお手洗いに行ったのに、まさに手を洗っただけだ。

「野菜食べないと、しっかりしたウンチ出ないんだからね!」

「え、あ、ちょ(;゚Д゚#)」

 ワハハハハ

 わたしの遠慮のない声とまあやの慌てぶりに笑いの満ちるダイニングだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠46[小惑星ピレウス・3]

2023-03-10 08:37:49 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

46[小惑星ピレウス・3] 修一  

 

 

 その人は、ゆっくりと近づいてきた。

 近づくにつれて知っている人だという気がしてきた。だが、分かるのは知っているという気持ちだけで、肝心のどこの誰であるかは分からない。

 まるで、夢の中で出会った者のように、その人に関する記憶はおぼろの中だった。

「みなの衆、お元気であっただがぁ?」

 その訛言葉で思い出した。暗黒星団のレイマ姫だ( ゚Д゚)!。


 レイマ姫、どうして……


 クルーの誰もが混乱した。ナンノ・ヨーダから姫の事を託され、アクアリンドを発つまでは姫の記憶は有った。そして、虚無宇宙域ダル……いや、アクアリンドの海を離水した時には、姫の存在はきれいに忘れてしまっていた。それが今、その姿を、訛った声を聞いて忘れた夢を思い出したようにレイマ姫のあれこれが思い出された。

「もうすわげね。アクアリンドのあど三笠にどって致命的な戦闘になるごどが予想されで、みんなの記憶がらわーば消すたの。アクアリンドの海水の力も使ってさぁ」

 俺たちには分からないことだらけだった。予見したのなら、なぜ言ってくれなかったのか、なぜ、みんなの記憶を消して消えてしまったのか。そして20年の冬眠状態の間、どこで何をしていたのか。どうして歳をとっていないのか……?

「分がってもらえるが分がねばって、聞いでもらえるべがな?」

 みんなは、黙ってうなづいた。

「わっきゃ、ほんとはピレウスの星のソウルなんだ。クレアのアナライズでも分がねほど人間そっくりだども、わさだっきゃ実態は無ぇんだ。三笠のみがさんやテキサスのジェーンがバージョンアップすたもんだど思ってもらえば、分がるべがな?」

「うーーん、言葉悪いけど、レイマ姫は、三笠が必死の戦いをやることを予見して逃げたんじゃないの?」

 トシが、不服そうに言った。

「んだね。三笠のみんながらは、そう思わぃでも仕方ねわね……ハア~~~(-o-;)」

 レイマ姫は大きなため息をついて、空を見上げた。

「あたしたちを助けすぎないため……?」

 樟葉が探るように聞いた。

「んだな……わー危ぐなってまるど、後先考えねぐなって、けっきょぐみんなまねぐすてまるがら……ばって、かにな。大変な思いさせでまって……」

 レイマにはレイマの苦労があるんだ……この三笠での航海でいろんな目に遭って、その全てが理解できたわけじゃない。幸運と乗員みんなの働きがあったからこそ乗り越えてこられた。そのことだけは分かっている。

 だから、レイマ姫の言葉にできない気持ちも分かるんだ。

 見渡したみんなの顔も同じ想いのようだ、俯いたり目を三角にしている者は居ない。

 

 オオオオオオオオ(⊙ꇴ⊙)! 居た居た居たあああ(≧∇≦)!

 

 その時、ジャングルから陽気なオーラをまき散らしながら現れた者がいた。

「まどろっこしい話は止しにして、あたしの船においでよ。三笠の諸君!」

 ああ《゜Д゜》!?

 三笠のクルーは驚嘆の声をあげた。

 その陽気オーラの塊こそは、戦艦テキサスのジェーンだった……!

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:033『ゆるキャン△とツインテールの戒め』

2023-03-10 06:54:53 | 時かける少女

RE・

033『ゆるキャン△とツインテールの戒め』  

 

 

 無辺街道の真ん中に至り、五十坪ほどの草原でキャンプを張った。

 

 ブリが魔法でテントを出してくれたのだ。

「キャンピングカーがいいのにぃ」

 ケイトが口を尖らせる。

「もんく言うなあヽ(`Д´)ノ!」

「いいじゃないか『ゆるキャン△』の雰囲気で、わたしは好きだぞ」

「あ……そう言えばそんな感じ」

 ケイトは暗示に弱い。

 

『ゆるキャン△』の雰囲気に納得させてキャンプ飯。食べ終わると、とても『ゆるキャン△』的な境遇ではないことが夜露と共に沁みてくるので、そそくさと寝ることにする。

 少しは微睡んだが、なんせ一人用のテントに三人。体が痛くなってくる。それでも露天よりはましと膝を抱えると、テントの隙間からこぼれ入る月光が頬をくすぐって目が覚めてしまう。

 傍らではケイトが女を捨てたような姿で寝息を立てている。

「あられもない……」

 おっぴらげた脚を閉じてやり、右を下にした姿勢に変えてやる。これなら多少はましになるだろう。

 キリ キリキリ キリ……

「ひどい歯ぎしりだなあ」

 顎をグリグリして歯ぎしりを止めてやる。

 PU~~~~~~~

 こんどはオナラだ。

「ほんと、まるで男だ……って、本来は男だったよな……なんだか忘れかけてる……名前は? ケイト……いや、ケントだったか……字は? 思い出せない……記録しておいた方がいいな」

 右手を目の高さにもってきてウィンドを開く。

「ケイトは……」

 記録しようとしたら、テントの外でカサリと音がする。

「なんだ?」

 後ろで寝ているはずのブリに目をやると、姿がない。

 起きたのか?

 テントの外に出ると、月を仰いでシルエットになっているブリ。

 

「ブリも眠れないのか?」

 

 声を掛けると、小さな肩がピクリとした。

「テル(てりゅ)か……ケイトは?」

「ああ、素敵な寝相で眠って……」

 たったいま、ケイトについて大事なことをメモしようとしていた……だが思い出せない。

 まあいい、いまはブリだ。

「テル(てりゅ)にだけは伝えておきたいことがありゅのだ」

「なんだ、改まって?」

「ツインテールを解いてくれにゃいか」

「じぶんで解けばいいだろ、リボンの端を引っ張ればいいだけのことだ」

「バトル以外自分では解けにゃい、ツインテールは主神オーディンの戒めらのりゃ」

「そか、分かった」

 ブリの後ろに迫り、胸の高さにある頭のリボンを解いてやる。

 
 ガキ!! 

 イテ!!

 
 いきなり顎に衝撃が来て目から星が出る。

「お、おまえ……!?」

 後姿のブリは、わたしと背丈が変わらなくなっていた。急に伸びた勢いでブリの頭がわたしの顎を直撃したのだ。

 ブロンドのロンゲをサワサワとなびかせつつ振り向いたブリ。

「な、なんちゅう美少女……」

「これが本来の姿だ。主神オーディンはツィンテールの戒めで、わたしを無辺街道に閉じ込めたのだ」

「オーディンの怒りに触れるようなことをしたのか?」

「詳しくは申せぬが、まあ、そういうことだ。ここまでの無辺街道は、わたしのための牢獄。これから先の無辺街道は、そのわたしを見張る獄卒たちのテリトリー。ここから先、わたしの力は限定的になる。それを承知で旅立ってほしいのだ」

「それは、遠まわしに――自分のことは自分でやれ――ということだな」

「むろん、わたしも力は尽くす。ただ、ここを超えればお尋ね者の脱獄囚であるから」

「……その脱獄の手伝いをする覚悟も持てということか」

「いやなら、わたしを置いて二人だけで旅立て。そのことを、テルにだけは伝えておきたかったのでな」

「わかった。これもなにかの縁だ、よろしく頼むよ」

 握手しようと手を出すと、ブリは一瞬ためらった。

「どうした?」

「もう一つ……とりあえずの目的地をヴァルハラに定めてはもらえぬだろうか」

「ブァルハラ……主神オーディンの居城だな」

「ああ、そうだ」

「……わかった、いいだろう」

 詳しくは聞かなかった、言える範囲なのだろうが、ブリは正直に話してくれた。それを持って了として、あらためて握手した。

「かたじけない、それでは、改めてツインテールにしてくれ、オーディーンの戒めを解いては旅ができぬからな」

「わかった、後ろを向け」

 

 艶やかなブロンドを愛しむように櫛けずってやって二つのリボンを結んでやる。

 音もなく背が縮んでいく……が、元の四五歳の背丈ではなかった。十二三歳の中一くらいの少女になった。

「オーディンほどではないが、どうやら、テルにも立派な魔力があるようだな」

「そうなのか?」

「この背丈に縮んだだけで済んでおる」

「わたしの力なのか?」

「ああ、なんというか……前に進む力とでも言おうか」

「そ、そうか……」

 ケイトと三人並んだら、いい組み合わせになりそうだ……そう感じて月を見上げた。

 

☆ ステータス

  •  HP:200 MP:100 属性:剣士(テルキ) 弓兵(ケイト)
  •  持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル
  •  装備:剣士の装備レベル1 弓兵の装備レベル1

☆ 主な登場人物

  •   テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる
  •  ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
  •  ペギー        峠の万屋
  •  二宮冴子       二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空       三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美       三年生、ポニテの『かの世部』副部長 
  •    
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする