大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・090『四月一日の始まり始まり!』

2024-04-01 15:44:35 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
090『四月一日の始まり始まり!』   





 四月一日というのは元日と並んでお目出度い。

 なんか――始まり始まり!――って感じがする。

 ほら、保育所とかで紙芝居とか人形劇とか観たじゃない、あの時、先生が「シィーー」とか言って、みんなを静かにさせて「それでは〇〇〇の始まり始まり~」っていう感じ。

 電車に乗ると真っ新な制服着た新入生がいっぱい。半分くらいは付き添いの、たいていはお母さんが付いていて、そのお母さんたちのお化粧の匂いとかもして独特のお目出度さと緊張感。

 外国は9月から新年度というのが多いらしいけど、4月1日、いよいよ春本番に合わせて始まる方がいいと思う。

 その新入生たちの流れとは商店街に入ってお別れ。

 4月1日の今日はバイトで、そのまま須之内写真館。

 写真館のウィンドウは、卒業や謝恩会の写真から造花の桜に彩られた入学記念的なのに替わってる。
「おはようございます」の挨拶もそこそこに出発準備、機材一式をホンダZに積んで結婚式場へ。

「今日は4組もあるからね、気合い入れていくわよ!」

 そう言うと、ハンドル握りながら総菜パンをくれる直美さん。

「お向かいの新製品、見本の写真撮ってあげたらお礼にくれた」

 パクつくと令和の時代よりも味付けが濃い。

「ちょっと急いでたから、リスト見て機材チェックしてくれる」

 あっという間にパンを食べ終わるとバインダーのリストを渡される。

 いつもは積み込む前に一通りのチェックをする、問題なんて一回も無いんだけど、仕事のルーチンは省略しない。

 チェックが終わって程なく公民館が見えてくる。玄関わきに『本日の御式』の札が四つ並んでいる。最大で五つ並ぶようにできてるんだけど、五つなんて絶対無理。

 守衛さんに「おはようございます」の挨拶して職員入り口から入る。

 守衛室の脇を通って廊下の十字路。後ろは出入り口だけど三方は会館それぞれの持ち場というかセクションに繋がっていて、職員や業者やバイトやらが華燭の典をあげる四組の新郎新婦のために立ち働いている気配がする。

 スタジオ近くまで来ると、式場と新婦控室のあたりから、普段とはちがう気配。話し声が聞こえるわけじゃないんだけど、人の動きや流れが滞っている感じ。電車に乗ろうとして駅の階段上がってると電車が延着してる時に似ている。

「なにかあった?」

 馴染みの職員さんを掴まえて直美さんが聞く。

「新婦さんがね……」「ああ……」

 ゴニョゴニョ話して、戻って来ると「とりあえず、準備だけはしておこう」とスタジオに入る。

「なんかあったんですか?」

「マリッジブルー」

「え?」

「たまにあるのよ、式の土壇場になって尻込みしちゃうお嫁さん」

「ああ……」

「あっと……ひょっとしたら二組目の方が早くなるかも……人数どうだったかな……」

「あ、ちょっと様子伺ってきます」

「悪いね、前後で人数倍ほど違うから」

 時間的に一番影響のあるのは配膳だから、式場横の配膳準備室の方に向かう。

 あれ?

 廊下を曲がったところでビジョンが浮かんできた……というより、その先の新婦控室の様子が壁を透かして見えてきた。

 あとは打掛を着たら仕上がりという状態で新婦さんが椅子に掛けて俯いて、お母さんらしい黒留袖の女の人が膝をついて覗き込むようにして説得している。

 声はくぐもって意味はとれないんだけど、母親らしく優しく、でも、微妙にあきらめの口調で話をしている。
 もう一つ向こうの壁も素通しになって、控室のドアの外では紋付の男の人が三人腕組みしてる。たぶん新婦の父親と親類の人。

「ああ……(-_-;)」って感じでお母さんが俯いてしまった。万策尽きたって感じ。

 すると、向こうの廊下を巫女さんがやってきて、男性二人に頭を下げると、控室に入って、お母さんに一言声をかけて交代した。

 あ、御神楽さんだ。

 御神楽さんはお母さんが部屋を出ていくのを待って、お母さんと同じように跪き、新婦さんの膝に手を置いて――これを見て――という感じで部屋の真ん中あたりを示した。

 え……ええ!?

 そこには、若い女の人が幸せそうに赤ちゃんを抱っこして、人の良さそうな男の人が寄り添っている。

 あ、新婦さんと新郎さんだ。

 抱っこしている赤ちゃんは女の子で、生命保険のCMみたいに秒単位で成長して、三十秒ほどすると新婦さんによく似た女性になった。

 わたしに見えたのはそこまでだったけど、その直後壁の向こうが活気づいた。

 それからは、チョー忙しかったけど、式は四組とも無事にお開きになって、『始まり始まり』は『めでたしめでたし』になった。

 しかし、御神楽さんて何者なんだぁ?

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第126話《尾てい骨骨折・6》

2024-04-01 07:07:39 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第126話《尾てい骨骨折・6》さくら 





「ねぇ、放送局が取材の申し込みに来てるんだけど、どーするぅ?」


 朝礼のあと、亜紀先生が教壇を下りると、顔を寄せて聞いてきた。

「え、うそ( ゚Д゚)!?」

 デカイ返事というかリアクションになってしまった。

 一時間目の準備をしていたクラスのみんなが聞き耳頭巾になってしまった。

 ただの放送局なら、たとえテレビ東京でもフジテレビでも断った。

「……わ、分かりましたぁ(-_-;)」

 そう応えたのは、うちの理事長が会長を務めている帝都テレビだからだ。先生の顔にも――断らないでね――と書いてあったし。


「すごいよ、さくら。アクセス2万超えてるよ!」


 先生が機嫌よく教室を出ていったあと、恵里奈がスマホを見せにきた。

「うそ、夕べは1000だったんだよ!?」

「いつの夕べよ。わたしが寝る前は1万近くにいってたわよ!」

 宵っ張りのマクサが言うと、みんながスマホで検索し始めた……。


 取材は四時間目の数学から始まった。


 数学の沢野先生とは尾てい骨の一件から微妙な関係なので、渡りに船ではある。

「今日は、昨日からSNSで怒涛の3万件(朝から1万件増えてる)のアクセスを取っている『ゴンドラの唄 桜』を歌っている佐倉さくらさんの帝都女学院は2年A組からお送りしております。A組の皆さんでーす!」

 ウワーーー( ´艸`)(´▽`) (*≧▽≦)(´∀`)(≧ω≦) !!

 カメラがパンして教室をナメる。普段お嬢様学校で通っている帝都も、こういう状況では、ただのミーハーだ。双子の兄を亡くしたばかりの由美が元気そうなのは嬉しいけど、わたしは尾てい骨を庇いながら小さくなった。

 どうしよう、今日は勝負パンツじゃないのにい!

 MCは、局アナではあるけど、人気があって最近独立の噂がある二階堂健太だ。当然クラスのみんなもファンが多いし、テレビ局も女子高生の興味をひくツボをよく心得ている。

「いやあ、昨日ってか、ほんの半日前には普通の女子高生だった佐倉さくらさんが、たった一晩でSNSのスターになっちゃった! ほんの半日でアクセス3万……え、今3・5万。すごいねぇ、プロでCDの売り上げだったら、レコード大賞間違いなしだね。きっかけは、ひいお祖父さんが夢に出てきてらしいけど?」

「あ、ひいお祖母ちゃんです」

「そうだ、ひいお祖母ちゃん! それで!?」

「あ、えと……」

 上手い誘導にひっかかって、ぜんぶ喋らされた。

「そうなんだ。不思議な縁だよねお彼岸にひいお祖母ちゃんの夢を見て、音楽のテストで無意識に歌ってたなんてね。そいで校長先生のお母さんがお知りになって、動画でアップされて……なんか因縁めいたものを感じるんだけど、佐倉さん、今までは普通に歌えるだけって言っちゃ失礼なんだけど、それが突然でしょ。映画やテレビとかだったら、例えばひいお祖母ちゃんが憑依するっていっても、なんかきっかけあるよね。なんか特別なものを食べたり、衝撃的な出来事にあったり……」

 そのとき席を変わって、わたしの後ろに来ていた恵里奈が、尾てい骨をシャーペンでつついた。

「ウグ……ッ!!」

「あ、どうしたさくらちゃん?」

 親しみのこもった二階堂アナの声に、みんながクスクス笑う。

「さくらは、尾てい骨骨折してますねん!」

 恵里奈がただでさえ目立つ大阪弁の大声で、公共の電波でバラシてしまった。

「ひいお祖母ちゃんと尾てい骨骨折。これは決まりだ。今年の都市伝説大賞! あったらあげたいね」

 アハハハハハハ((((((^△^))))))

 そのあとの終礼は、わたしだけ免除されて音楽室へ。

 そこは音声さんや照明さんがスタンバイ。美音先生がピアノで前奏を弾き始めた。

 それで、てっきり収録かと思っていたら、土曜の昼バラの生中継だった。

 帰り道、そんなに多くはいなかったけど、わたしのことを見てヒソヒソ言ってるオバサンたちがいた。まあ、SNSでは顔が出てるんだから、こんなもんかと思ったが、豪徳寺の駅前で出会った四ノ宮クンの一言が決定打だった。

 よう、さくらぁ! 商店街のスターだぞぉ(^▽^)!

 大きな声に、アーケードの前後五十メートルくらいにいる人たちが注目する!

 慌ててUターンすると、駅の招き猫が――あっちあっち――という感じで裏道を指さして、裏路地をひろうようにして家に帰った。
 


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする