大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・094『階段下の部室』

2024-04-22 15:08:03 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
094『階段下の部室』   




 学校というのは狭いようで広い。


 小学校の倍はあるんじゃないかなあ。

 小さな町なら一個分……は大げさだとしても、〇丁目の区分なら二つか三つは入るくらいの広さ。

 町の同じ〇丁目でもさ、たとえば三軒隣りだと、どうかすると越してこられたことにも気づかない。

 ほら、先週、いつものように登校しようとしたら三軒隣のお婆ちゃんが昭和の川向うに付いて来ちゃってビックリした。
 日に一回だけ使える魔法で戻してあげようと思ったら、道路沿いの医院の屋上に飛ばしてしまって、アセアセになってるところを御神楽さんに助けてもらった。

 帰りに家の前を通って、苗字が早乙女さんだということを確認。それ以外のことはまだ分からない。

 三軒隣りでも、こんな感じだから、〇丁目が三つも入るような学校なら知らないところがあっても当然。

 夕べの雨でグラウンドがグチャグチャなんで、本館前のコンクリのところでトスバレーに興じる昼休。

「いくよ!」

 佳奈子が打ち上げたボールは緩く弧を描いてロコの頭上に落ちてくる。

 運動音痴のロコでも十分返せる球だったんだけど、ボールの後ろに太陽があった。

 クシュン!

 クシャミといっしょに目をつぶってしまって、あえなく、ボールは南館の昇降口に飛び込んで行ってしまった。

「ああ、ごめ~ん(^_^;)」

 佳奈子が謝って、ロコは「ドンマイドンマイ」と昇降口に駆けていく。

 予鈴が鳴るまでトスバレー、終わるとロコが「ちょっとこっちです」とみんなを難関昇降口の階段下に手招きする。

 ああ……(-○-;)(;'∀')(-_-;)(;'▭')

 階段下の様子を見て、みんな同じように落胆の声を上げた。


 二月の代議会でさ、8組の牧内さんが――部活を奨励されていながら、活動の拠点である部室を保証されていないクラブがある――と発言して、学校と生徒会を動かして、部室の候補地を倉田先生といっしょに探しているのを食堂から見たじゃん。

 その後、正式に部室が設定されることになったって、みんなで喜んだ。

 メデタシメデタシ(^▽^)と思って、新部室はいつできるんだろう……思っているうちに忘れてしまった(^_^;)。牧内さんもなにも言わなかったしね。

 階段の下、三角の空洞のところがベニヤ板で塞がれて、トイレのドアみたいなのが付いていて、それだけは立派に『演劇部』と墨で書かれた相撲部屋みたいな看板が掛けられていた。

「中は、畳二畳分もないですよぉ」

 ロコの呟きに続く者は居なかった。

 思ったことはみんないっしょ。

 あんなに大見得きって『いい問題提起だ、部室を確保しよう!』と言った割にはショボすぎる。

 ほら、魔法使いの少年が親類の家に引き取られて階段の下の部屋で寝起きしてた有名な映画があるでしょ。あの感じ。

 でも、あの映画はこの時代では原作も生まれてないからね、言わない。

 
 二月から二か月以上あったのに誰も気づかなかった。

 
 春休みを挟んで卒業式や入試や、学校行事がいろいろあった。

 でもさ、牧内さんはクリスマスイブの集いでも、照明とかでお世話になって、作法室でやったMITAKAにも参加してくれて、ほとんど仲間なんだけどね。

「あ、もう本鈴鳴るよ!」

 たみ子の声で、みんな教室に戻る。基本的にみんな真面目なんだ。


 後で、真知子が演劇部の倉庫、正しくは図書分室で古い本や視聴覚機材を補完する部屋なんだけど。そこに出向いて牧内さんと話した。

「ううん、大進歩だよ。妥当な要求ならちゃんと学校は聞いてくれるって前例ができたんだから。これ以上は設備変更とか予算とか、生徒会を超える問題もあるしね、演劇部としては喜んでる」

「そう、でも、ごめんね。ぜんぜん問題トレースできてなくて」

「ドンマイドンマイ、学校って結構広いんだから」

 牧内さんは、わたしと同じ感覚で、ちょっと嬉しかった。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)008・タタラを踏むカラス

2024-04-22 08:33:53 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
008・タタラを踏むカラス                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




「なんべんもやるもんやないで」


 セーヤンの言葉には頷かざるえなかった。

 高校生の水準をはるかに超えたCGの技術で、浄化槽の上にホログラムのバーチャル演劇部を出したのだ。

 遠目には10人の演劇部員が発声練習をやっているように見えたはずだ。

「そやけど、あんな中庭の奥ではなあ……もっかい広いとこででけへんか?」

「言うたやろ、ホログラムは明るいとこでは見えへんし近くで見られたら、すぐにバレてしまう」

「そやけどなあ……」

 簡易型のホログラムなので、ノーマルに比べれば撤収は簡単なはずだったが、さすがに二人では大変だ。

「たとえ完璧なホログラムを人目につくようにやっても、演劇部そのものに魅力が無かったら人は集まらんやろなあ……」

 最後にパソコンの電源を落とすと、独り言のようにセーヤンがトドメを刺した。

「そやけど、車いすの子が見てくれてたで」

「冷めとったで。付き添いのオネエサンは熱心やったみたいやけど……たとえ入ってくれても、車いすの子ぉが演劇部やれるか?」

「そやけどなあ……」

 啓介はベンチに腰掛けたままゴニョゴニョ言う。

「だいたいが、啓介自身が真っ当に演劇部やろいう気持ちないやろ。おまえは部室手放したないだけやろが」

 図星ではあるが、素直に頷く啓介ではない。

「それは違うぞ」

「どないちゃうねん?」

「そら100%の気持ちがあるとは言わへんけどなあ、オレの中にも何パーセントかは気持ちがあるねん。そこを汲んでもらわんと」

「オレはなあ、部室棟を残したいねん。オレら情報部の活動拠点でもあるさかいなあ」

「部室棟が無くなることはないやろ。生徒会は演劇部放り出して別のクラブ入れようとしてるんやさかいなあ」

「それは考えが浅い」

「なんでや?」

「学校は部室棟そのものを壊したいんや」

「ええ、部室棟をか!?」

 あらためて部室棟の旧校舎を見上げる。

 カッ カァ~~

 屋根の上で翼を休めていたカラスが飛び立とうとして足を滑らせ、あたふたタタラを踏んで飛び立っていった。

「部室棟は伝統的に文化部しか入ってない。そやけど文化部はどこも低落気味。元気のええ軽音とかダンス部は、もとから部室棟には入ってへんしな。ま、オレらの情報部みたいに元気なのんもあるけど、それはそれで鬱陶しい存在や。ま、それは置いといて、学校は部活の振興には力を尽くしたけどあかんかった。あかんから旧校舎の部室棟そのものを撤去する。そういうシナリオができてると思うで」

「そんな深慮遠謀があるのんか?」

「部室棟は維持費だけでも年間数百万円かかってる。まあ雰囲気の有る建物やけど、いつまでも雰囲気だけでは残されへんさかいなあ」

「せやけどなぁ、一寸の虫にも五分の魂や、オレかて、一発やったろかいう気持ちはあるねんぞ!」

 啓介は腕をまくって力こぶを作って見せた。

「おお、啓介て案外マッチョやねんなあ!」

 セーヤンは素直に驚いた。

 いつものグータラな様子からはあり得ない体格だからだ。

 ブン

 その驚きが恥ずかしく、啓介は封印していた投球動作をしてしまった。

「なんや、啓介ほんまもんのピッチャーみたいやんけ」

「あ、ジェスチャージェスチャー、オレって演劇部だからよ!」


 見上げた夕焼けは、あの時のそれに似ていた……。



☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜


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