大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・123『軍艦突堤もしくは防波堤』

2024-08-28 14:56:11 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
123『軍艦突堤もしくは防波堤』   




「待ってたわ、すぐに案内するから(^▽^)/」


 車が停まると同時に奥さんの恵さんが飛び出してきた。

「いいの、直で?」

「うん、ぜんぜん!」

 直美さんに元気に返事すると、クルンと振り返り手のひらを庇にして空を見上げる。

「ヘクチ! アハハ、朝の光の方がだんぜんいいから。じゃ、ちょっと行ってきまーす!」

 奥さんの恵さんが声をかけると空の手前で旦那さんの勲さんが手を振る。

 勲さんは灯台のライトハウスっていうんだろうか、そこのガラスを元気に拭いている。Tシャツ姿だけどちゃんと制帽を被って、首に双眼鏡、手にはウエスを持ってガラスを拭いて、いかにも灯台守。

「毎日拭かないと塩がついちゃうの。でもね、灯台のことは自分の仕事だって手伝わせてくれないのよ」

「フフ、いい旦那だ」

 てっきり灯台か灯台下の磯や岩場を撮るんだと思ったら、わたしは後部座席、恵さんが助手席に収まって、大浜港の方に向かった。


 ザップーーーン!


「土用の波だねぇ」

 カシャカシャカシャ

「え?」

 ちょっと混乱、今日は火曜日だし。

「立秋の頃に寄せてくる。不規則に大きな波が来るから要注意」

「波を撮るんですか?」

「波も撮るけど、も少し大きい景色をね。あの突堤をね……」

 突堤なんか撮ってどうするんだろう。

「トッテイモいいんだぞぉ」

 ( ̄m ̄〃)ぷぷっ!

 直美さんがヘタな洒落をカマシて移動。

「漁協に話はしてあるから」

「助かるぅ!」

 わたしが機材を担いで、直美さんはカメラ二つを持ち、恵さんの案内で漁協の建物に向かう。「お世話になります」と受付で声だけかけて、そのまま屋上へ……と思ったら給水塔の上まで上がるしい(^_^;)。

「うん、ちょうどいい。望遠と広角用意しといて」

「はい」

「それと、これ!」

 ビュン

 恵さんが命綱を放り上げてくれる。

「え、こんなのするんですか?」

「撮りだすと夢中になるからね、グッチも付けといて」

「あ、はい(^_^;)」

 腰に命綱を付けて、端っこの金具を給水塔のフックにかける。

「……まあ、ギリいけるかなあ」

 パシャパシャパシャ

「望遠300!」

「はい」

「いや、広角、光が変わりそうだ」

「は、はい」

 レンズをケースから出して渡す。

 パシャパシャパシャ パシャパシャパシャ

「やっぱり高いところはいいわねぇ」

 気が付いたら恵さんんも上がって来た。

「直美さん、どこを撮ってるんですかねえ……」

「突堤を右に据えて、港を撮ってるんだと思うわ……突堤の上、よぉく見て」

「突堤の上ぇ……あ」

「分かった?」

「あれって……船……ですか?」

 注意して見ると、突堤の上面にうっすらと船の形が見える。

「うん、軍艦が埋まってるの」

「軍艦!?」

 パシャパシャパシャ

「うん、あそこにね旧海軍の駆逐艦を沈めて臨時の突堤にしたんだ。コンクリートで固めちゃったから、もう船の縁が見えてるだけなんだけどね……あ、フィルムお願い」

「あ、はい」

 我ながら慣れた手つきでフィルムを装填すると恵さんが横に来る。

「葉月って駆逐艦。お父さんが乗ってたんだ」

「え、そうなんですか」

「戦後しばらく引揚船に使われてたんだけど、二年で引退して、あとはあそこで防波堤になった。わたしもね、ついこないだ知ったんだけどね」

「上の方は無いんですね、大砲とか煙突とか」

「必要なのは胴体だけだから鉄くずにしたんでしょうねえ」

「葉月って八月の和名でしょ、突堤になったのが二十二年の秋だから、なんかピッタリで、それで直美さんに話したら、ぜひ撮りたいって」

「よし、次は突堤そのものを撮るよ!」


 三人で漁協を出て突堤に向かう。


「うん、横から光が来ればクリアーになるね。レフ板!」

「はい!」

 レフ板で頭上の日光を横向きに変換。僅かに残った縁と微妙な高低差が際立ってくる。

「ブリッジはこのへんかなあ……」

 給水塔から見下ろして大よその形は分かっている。葉月は舳先を海に向けている。

「最後の引揚船の時にお母さんが乗ってて、その縁で結婚したんだって」

「え、そうだったんですか!?」

「ブリッジの前の方、左舷て言ってたから、このへんかなあ……ここで、お父さんプロポーズしたんだって」

「ええ、そうなんですか(^▽^)!?」

「昔の話しなんてちっともしない人だったんだけどね、こないだ、たまたま話してくれて」

「それを聞いた直美さんが閃いたってわけですね」

「ねえ、ちょっと走ってみようか!」

「走るんですか!?」

「うん、舳先からお尻までちょうど百メートルほどだから。ねえ、直美も!」

「ええ?」

 渋る直美さんもいっしょに突堤を走る。

 現役女子高生だから楽勝……と思ったら、ゴール近くでラストスパートをかけてきた恵さんにあっさり抜かされる。むろん、直美さんはドンケツだったけどね。


 帰り道、直美さんが教えてくれた。


 恵さんは、夏の初めに流産していた。

 ちょっとこじらせたらしくて、しばらく入院していて、心配したご両親がこっちにこられて、その時に突堤の話を聞いたそうだ。

 令和に戻って改めて突堤を見に行く。

 
 ああ……


 突堤は近辺の海といっしょに埋め立てられて跡形も無かった。ググって見ると『軍艦防波堤』というくくりで出ていた。防波堤と突堤というのは厳密には違うらしいけど、一般には軍艦防波堤と呼ばれて、全国に数カ所残っている。

 名残惜しくてウロウロしていると『軍艦防波堤跡』という説明書きが残っていた。地元では軍艦突堤とも呼ばれていたけど、記念碑を残す時に全国的な軍艦防波堤という名称にしたと書いてある。

 その説明書きも半ば赤さびて、もうネットの中でしか知ることは出来なくなるのかもしれない。


 わたしの夏休みが終わった。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)134・真面目に下見・2

2024-08-28 07:00:06 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
134・真面目に下見・2 朝倉美乃梨 




 たいてい視覚障害か下肢障害ですから。


 ボブ子さんは一発で見抜いた。

 なんで分かってしまったのか、不思議だったので夕食の席で聞いてみた。

「普通の学校に通っている障がいの子は、その二つがほとんどですし」

「あ、そうなんだ」

「視覚障害なら、付き添ってあげれば済む話ですし、事前に現場を見るっていえば下肢障害かなって。それに女の先生が来るんだから、生徒さんは女の子」

「あ、なるほどお!」

 感心して、大学の専攻を聞くと介護福祉系の大学だった。話が盛り上がって、思わず五人にビールを奢……ろうとした。

「あ、それならお風呂あがったあとにしません!?」

 なるほど、風呂上がりの方がだんぜんビールは美味しい。

「わたしたちも飲むつもりだったんですけど、風呂上がりの方が断然おいしいから夕食は食前酒だけで我慢してたんです」

 なるほど、克己心のある子たちだ。

 そして、実際に車いすで温泉に入ることにした。これはポニ子さんの勧めだ。

「『百聞は一体験に如かず』ですから(^▽^)/」

 客室から、車いすを押してもらい、脱衣場で入浴用の車いすに乗り換えてお風呂に向かう。

 入浴用の車いすは、浴槽の専用の縁(へり)まで行くと、座面が十センチまで下がり、浴槽の中まで続いている手すりに摑まれば一人でも入浴できる。

「でも、水場ですから必ず介助ですね」

「そうね、車いすを交換するときも感じたけど、腕の力だけでお尻もち上げるって……ちょっと……大変(;>∀<)!」

 手すりを掴む手がプルプル震えて笑いそうになる。

「本人たちは、いつもやってることだから、健常者が感じるほどじゃないんですけどね」

「……うんこらしょっと!」

 浴槽に浸かってからは、体験は中断して、ガールズトークに花が咲く。

 演劇部の顧問だと言うと「すてき!」と喜ばれる。

 ポニ子さんとショートヘアの子は高校で演劇部に入りたかったらしいんだけど、入学する前の年に廃部になったんだそうだ。

「別に、役者になろうとかコンクールで優勝したいとかじゃないんです。なんてのか、表現力とか付けたくって」

「教科教育法の講座で言われたんですけど、アメリカとかじゃ、教職に『ドラマ』のコマがあるらしいですよ。人を相手にする職業は表現力がなくっちゃいけないって」

「そういえば、弁護士とかも。法学部とかロースクールとかじゃ、表現力の講座があるって聞いたことがあるわ。表現力一つで判決が変わることがあるって」

「ケント・ギ〇バートさんだったかが、そんなに細い目で喋ってちゃ法廷闘争に勝てないって指導されたってゆってた」

「どんな演劇部なんですか?」

 ボブ子さんの質問で、うちの演劇部の話に変わった。

「あ、それがねぇ……」

 この半年の顛末を話すと、五人の女子大生は手を叩いて面白がってくれた。

 部室が欲しいためだけに集まった演劇部だけど、文化祭で『夕鶴』をやったらけっこうノッタ話とか、部室が取り上げられそうになった時の松井さんの活躍とかは大いにウケけた。

 風呂上りには、約束通り生ビールを奢ってあげて、夜遅くまで新米教師と女子大生五人組との浴衣パーティーになった。

 意地と成り行きで急きょやってきた南河内温泉。いわばアリバイ的にやってきたんだけど、楽しい下見になって、結果オーライの週末ではありました(^▽^)/。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 





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