やくもあやかし物語 2
……呆然としてしまったよ。
だって海だよ……見渡す限りの海だよ。
トバリとトバルをやっとの思いでやっつけて、もう腰を上げることもできないくらいヘバッテいたんだ。御息所もミチビキ鉛筆も力を使い果たして、呼んでも起きてくれないし。
それでも、キーストーンを取り返しに来たんだ。学校のみんなも来てくれて、せいっぱい助けてくれたよ。
ここからしばらくはヤクモ一人だ。
うんこらしょ……って、なんとか立ち上がって、顎を出しながらえっちらおっちら、足を引きずりながらやってきたら、とーとつにソウゲンが途切れて海ですよ。
背中から風が吹いてきて頬をなぶっていくよ。
亜麻色の~長い髪を~風が優しく包む~♪
お祖父ちゃんのオハコの歌がうかんでくる。
乙女は胸に白い花束を♪……駆け下りたら、そのまま海にドボンだよ(;'∀')!
ヤクモはプールの端から端まで、25メートルが限界だよ。それも体育の成績は、やっと3のヤクモだよ!
どう見ても水平線は25メートル以上向こうだしぃ!
ペッペッ
髪の毛が口に入るしぃ。
樺太じゃ飛べたけど、あれは少彦名のお蔭だったし、あそこは樺太だったし。
戦いの時も飛べたけど、あれはミチビキ鉛筆とかががんばってくれたからで、そのミチビキ鉛筆もくたびれて寝ちゃってるしぃ。
えい!
胸を張って足を開いて、おっきく海に両手を広げる!
「神よ、いまこそ御業をお示しになって海を割りたまえ!」
だめか……。
アニメでモーゼがやってたのを思い出してやってみるけど効き目がない。
あたりまえだよね、ヤクモはクリスチャンじゃないし……。
目玉を左右に動かして、波打ち際を探ってみる。
ゲームだったら、チラチラとかピカピカ光るものがあって、そこに行くと問題解決のアイテムがあるとか、イベントが起こるとか?
そんなものはかけらも見当たらない。
あ!
ひょっとしたら、海に見えているのはフェイクで、本当はソウゲンとか道とかが続いているのかも!
ジャボジャボジャボ!
思い切りよく前進してみたけど、やっぱり海で、パンツまでびしょ濡れになっておしまいだった。
くそお! バッシャーン!
ヤケになって、体を大の字にして倒れる。
盛大に波しぶきが上がって、そのまま浮いてみる。
ドップーーーン
ちょっと離れたところで何かが海に落ちてきたような音がした。
☆彡主な登場人物
- やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ ヒトビッチ・アルカード ヒューゴ・プライス ベラ・グリフィス アイネ・シュタインベルグ アンナ・ハーマスティン
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子) トバリ(魔王女)