大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・96「焼き立て高級メロンパン」

2020-04-10 06:22:31 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
96『焼き立て高級メロンパン』
       



 ボンヤリしていると目立ってしまう。

 同じ制服を着ていても二十四歳……誕生日過ぎたから二十五歳の女子高生じゃね。


 登下校の時は気を付けている。
 髪は下ろして制服もピシッと着こなし、ほんの少しだけ肩に力を入れる。
 これで平均的な空堀高校の女生徒になる。
 通学カバンだって二年前に新調した。あまりにくたびれていては、こういうところから女子高生のヒネものであることがバレてしまうから。
 まあ、いわば演技なので、立派な演劇部員と実践していると言えるんじゃないだろうか。

 なんでこんなに気を遣うかというと学校の看板を背負っているからだ。

 恭順の意を表すほどに学校に恩とか有難みは感じていないけど、わたしのせいで学校の評判に傷がつくのは気分が悪い。
 やっぱ、意識して化けていないと年齢というものは出てしまう。
 ま、こういうこだわりというか気遣いをするところがヒネものなんだ。

 え、勘定が合わない?

 六回目の三年生だったら二十三歳だろうって?
 えと……そもそも、わたしは過年度生で空堀に入って来たのよ。
 中山先生がポロっと言いかけてたけど、大阪の全日制の高校では最年長の女生徒だ。
 普通にしてると凄みが出てしまう。
 訳知り顔でふてぶてしくって、商店街ですれ違っても「なんだあいつは?」と思われる。
 啓介くんたちがわたしを演劇部に誘いにタコ部屋に来た時はビビってたもんね。わたし素だったから。
 自意識過剰だろうって?

 たとえばさ、道歩いててさ、前から女子高生が歩いて来て、すれ違いざまに男娘だと分かったら引くでしょ。
 それと同じ。

 ま、ヒネているというのは、アレコレ分かっているとか慣れていることでもあって、こと学校のことに関しては裏も表も分かってて、動じるということが無い。
 ほら、生徒会が演劇部の人数が五人以下だから廃部にするって言ってきたじゃない。あれを昔に比べて生徒総数が半分以下になってるんだから三人以下にさせて乗り切ったりとか。新任で上がり症の朝倉先生(元同級生)をほぐしてあげたりとか。

 でも、今回のはちょっとね……。

 焼き立て高級メロンパンを頬張りながら一人ごちた。

 商店街を空堀生の標準速度で下校中、焼き立て高級メロンパンの匂いを嗅いでしまった。
 商店街のオレンジパン店(ベーカリーと言わないところがいい)のオーブンが直ったようで、普段は早朝に焼いている高級メロンパンが焼き上がった。
 あつあつのメロンパンとパックコーヒー買ってお店の前のベンチ。
 焼き立ての匂いに釣られ、わたし同様に数人が四つあるベンチでメロンパンの幸福に浸っている。
 普段ならありえないんだけど、ついためため息まじりに呟いてしまった。

 ポルノの演劇部でもいいじゃん!

 我ながら大きな呟きで、ベンチの一人に聞きとがめられてしまった。

「演劇部がポルノ?」

 気づくと、ベンチに座っているのは商店街のお馴染みさんたち。
 聞きとがめたのは、我らが先輩である薬局のオジサンだった。


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