大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

コッペリア・19『栞のフォーチュンキャンディー・2』

2021-06-10 06:12:48 | 小説6

・19 

『フォーチュンキャンディー・2』

 



 栞の『恋チュン』のコスプレ衣装はひどかった。     

「おかしいなあ……」

 颯太も、戸惑ってパソコンでMAMAZONを出して、注文したテナントのH・Sという業者のサンプルと見比べた。

「これ、別物だね」

 商売柄セラさんは、こういうコスの違いには敏感だ。颯太には、なんとなく違うとしか分からなかった。

「ようく見てよ、栞ちゃん、ゆっくり一周してみな」

 栞は、言われたようにマネキンのように、ゆっくりと回った、セラさんはボールペンの頭で指しながら解説した。

「いい、ウエストの位置が7センチほども高い。上着の裾は10センチ高い……つまり、胴長短足に見える」

「でも、これオーダーメイドなんだぜ」

「嬉しい(^▽^)!」

「喜んでる場合じゃない。ブラウスの襟ガバガバじゃん。帽子はちっこすぎる。頭に乗っかってるだけ。スカートはボックスプリーツだけど、これは単なるギャザースカート。パチモンだね……」

 セラさんは、そう言いながら画面をスクロールしていく。

「あ、この業者と同じ写真だ!」

「……ほんとだ」

 セラさんは、我が事のようにすぐに業者に連絡してくれた。

「……なんだってぇ、写真は試作品で、現物とは違いがある? バカにすんじゃないわよ。特定商法ってネット通販を規制する法律に書いてあるわよ。これは完全に誇大広告の上にサンプル写真の盗用……なに、返品してくれ、代金は返すから? 冗談じゃないわよ。証拠が無くなっちゃうじゃないの、これは証拠品として押えとく。MAMAZONには保証申請しとくから……え、こんなもの売りつけといて、よく言えるわよね、首洗って待ってなよ!」

 すごい剣幕でまくしたてると、セラさんはネットオークションを検索。たちどころに中古のコスを発見、五千円で二着落札した。

 落札したコスは、あくる日には届いた。栞とセラとでファッションショー。二人ともご機嫌であった。
 MAMAZONと落札したコス代は颯太の持ち出しである。

 商店会主催の『恋チュン大会』は大盛況だった。

 なんと、AKPから振り付けの担当と地元の放送局がやってきた。

 ノリのいいセラさんは、商店会長とテレビのディレクターと相談をぶった。

 三十分ほどすると、AKPのいろんなコスをした人たちや、近くの高校や大学のチアグループ。商店街のみなさんなど三百人が集まった。

 結局、AKPの振り付けさんが、居並ぶ恋チュン大好きさんたちに振り付け、いろんな場所やシュチュエーションで数十カットを撮った。

 その日の夜のニュースでは、ローカルニュースとして取り上げられ、ユーチューブのアクセスは五万を超えた。商店会も放送局も大喜びだった。

 その夜遅く、AKPの事務所でユーチューブを見ていたスタッフや、手空きのメンバーが、栞に注目した。

「この子、ロングで撮ると萌絵そっくりだわね……!」

 AKPから公認が出たのは当然だったが、その後意外な運命の展開があるとは、誰も気づかなかった。


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