やくもあやかし物語 2
森の女王ティターニアは、ゆっくりと羽をはためかせ、地上50センチくらいのところでホバリングしている。50センチなら、地面に下りて来ればいいと思うんだけど、この50センチは、女王としての威厳を示すものかもしれない。
それに、森林浴をしてるみたいにリラックスのオーラが、その羽ばたきで出てるような気もする。
「デラシネの件ではお世話になった。お礼を言うわ」
「い、いえ、お役に立ったのなら幸いです(^_^;)」
50センチの威力に、神社にお参りした時の感覚でお辞儀してしまう。
「フフフ……さすが極東の島国の子ねぇ、奥ゆかしいわ」
「ハイジはちがうぞ」
「そうね、アーデルハイドとコーネリアは、わたしたちに似た感じね」
「あ、申し遅れました。プロイセンの森の住人コーネリア・ナサニエルです(-_-)」
ネルは、王女に対した時と同じように慇懃にあいさつ。腰をかがめる時に、ハイジの頭を押さえつけ「ムギュ」って言いながら、ハイジもあいさつした。
「ハイジはハイジでいいよ、ちゃんと呼ばれると、教会に行った時みたいに緊張すっから、あ、しますから(;'∀')」
「はい、それでは……」
25センチくらいに下りてきた。
「デラシネは、元々は森の住人なのだけれど、いろいろあって、森の仲間たちから離れてしまったの。いろいろはデラシネの親の代からあったのだけれどね。デラシネ自身は、ほんとうは人恋しい子なの。それで、魔法学校ができてからは気になって仕方がないの」
「ああ……」
「うん……なにか思い当たったのかしら?」
「日本にいた時も、デラシネみたいなのは居ました」
「そうなのね……それで、学校やあなたたちにチョッカイを出すのね」
「ええと……」
「そうね、ヤクモから言い出したら言霊になってしまうわね」
「コトダマってなんだ?」
「黙ってろ!」
ポコン
「ムギュ」
言霊……口にした言葉にエネルギーが籠って力を現したり、災いをもたらすことを言うんだよ。
「もうあれほどの悪さをすることは無いと思うのだけど、また、あなたたちの前に現れると思うの」
「え、また来んのか!?」
「うん、少しずつでいいから……」
「相手にしろってか!? ムギュ!」
ネルが口を押えたけど「相手にしろ」って言葉が漏れた。
「年が明けたら、お風呂屋さんの方も使えるみたいね……」
シャラララ~~ン……☆ シャラララ~~ン……☆
ロッドを振るティターニア。
「森の祝福……きっといいお風呂になるわ」
「お礼とかくれるんじゃ……ムグ!」
「しておいたわよ、ちゃんと振ったでしょ、ロッドを二回(^▽^)。それじゃあねぇ~~」
ピュゥ~~~
風が吹いたかと思うと、来た時とはぜんぜん違うスピードで森の方へ飛んで行ってしまった。あとには、しばらく木の葉が舞い散ったままになった。
「オーベロンのやつが隠れていたな」
「よく分からない夫婦ねぇ(^_^;)」
「で、御褒美は!?」
そして、宿舎に帰ると雪が降り出して、夜中には、もう積もっていた。
今年は暖冬で雪は降らないと言われていたけど、予想はずれの大雪で、クリスマスイブも、今日のクリスマスもとてもいい雰囲気だった。
「ええ、御褒美って、この雪のことだったのかあ!?」
ハイジ一人だけ不機嫌で今年も押し詰まってきたよ。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン