大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・2・009『言語学の授業』

2023-09-30 13:06:31 | カントリーロード

くもやかし物語・2

009『言語学の授業』 

 

 

 初めに言葉ありき、言葉は神とともにあり、言葉は神であった。

 

 言語学の先生が言った。

 聖書の最初に書いてある言葉らしい。聖書というからキリスト教なんだ。

 わたしはクリスチャンじゃないから、きちんとは分からない。

 でも、それは「言葉と云うのは大切なんだよ」という意味なんだろう。

「ちょっと意味が分かりません」

 ルームメイトのネルが大胆なことを言う(^_^;)。

「はい、どんな風にわからないんですか、コーネリア・アサニエル?」

「わたしはエルフです。エルフはたいていシンパシーでコミニケーションをはかります。だから初めに言葉ありきにはなりません。言うなれば――伝えたい――というパッションではないかと思います」

 そう言うと、クラスの何人かは――そうだね――という顔をした。

 宗教染みた話は、民族とか国とかでいろいろアツレキとかがあるからね、簡単には踏み込めないよ。

「そうね、でも、考えてみて。シンパシーで通じた後はどうかしら?」

「後というと?」

「『お元気?』とか『どこへ行くの?』とか『お腹空いたぁ』とか、情報やら気持ちを伝えるでしょ、それって言葉、シンパシーにしても言葉に置き換えて理解、あるいは、次のコミニケーションに入らない?」

「え、あ……そうですね」

「人間は、感情を整理するにも、何かを伝えるにしろ言葉に寄らなければできないんですねえ」

「あ、分かりました」

 完全には腑に落ちてないみたいなんだけど、そう返事する。

 まあ、もっと先を聞いてみないとね。ちょっと早まって質問してしまったという気持ちもあるみたい。

 

「バベルの塔というのを知っていますか?」

 

 わたしを含めて、みんなイエスと応える。

「天にも届こうかという塔を作ったんで、神さまが『こんな神をも畏れぬ塔を作ってしまって、神としては気分が悪い。よし、これは人間がみんな同じ言葉を喋っているからだ。これからは、人間の言葉をバラバラにしてやる!』と言いました。それ以来、バベルの塔も人間の言葉もバラバラになってしまいました」

 うんうん、頷く者が大半。聖書では有名な話なんだろう。

 えーと、でも、なんだかキリスト教の授業のようになってきた。

「しかし、言葉の中には神がバラバラにしたのにも関わらず、ほとんど同じ言葉が同じ意味で使われることがあるんです。言ってみれば神にも打ち勝った言葉ですね」

 え? え? なんだろ?

「臓器移植で、臓器を提供する人をなんといいますか?」

 ドナーです。

 何人かが口をそろえて、残りのみんなも頷いた。

「そうですね、日本語でお寺にお金や品物を寄付する信者を、どう言うでしょうか?」

 え、ええ?

 みんな分からない。だよね、日本の仏教なんて、世界的規模で言えば完ぺきに少数派だもんね。

「ヤクモ・コイズミ、分かりますか?」

 ヤバイ、フラれちゃった。

「えと……えと……」

 うちは浄土真宗なんだけど、ちょっと分からないよ。

「ハズバンドのことを、ちょっと古い日本語で言ったら? 今でも、ママ友同士の会話では使われているわよ『うちの○○ったら、昔はいい男だったんだけど』とか」

「あ、ああ、亭主? あ、ダンナとも言います!」

「そうダンナ、漢字では、こう書きます」

 旦那

 う、わたしより字がきれいかも(;'∀')

「店の主人なども、この旦那といいました」

 うんうん。

「で、元々は、お寺に寄付、つまり提供する人のことを旦那と言いました」

 ああ!

 みんな――分かった――というような顔をしている。

「元は、インドのサンスクリット語でお寺への提供者をダナーと言ったのが、3000年かけて地球を東西にグルーッと回って、それぞれドナーと旦那という原型を良くとどめた言葉として出会ったわけですね」

 なるほどぉ

「つまり、神さまがバラバラにしたのにも関わらず、籠められた精神の大きさ強さによっては、そのまま残ることもあるんです」

 そうかそうか

「言霊と言ってもいいでしょう、そういう言霊の強い言葉を繋いだものが呪文、あるいは魔法の詠唱になるというわけですが、それは魔法学のソフィー先生から教授してもらってください」

 なるほど、こうやって先生たちは連携しているんだ。

「コーネリアが言う通り、まずは、パッションです。そしてシンパシーによっても伝わりますが、言葉に寄らなければ肝心のところは伝わりません。まずは言葉から始めようということで、次にいきますよぉ」

 

 ちょっとだけ面白くなってきたかもしれない。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン

 


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