巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
「ちょっと、テスト期間中に悪いんだけど」
監督の先生が出ていくと同時に10円男に声をかける。ちょっとでも間を置くと、こいつはスグに居なくなる。
「ええぇ、バイトなんだけど」
「時間は取らせないから、去年もやった『クリスマスの集い』なんだけど、今年もやろうかって、ちょっと話」
「ああ、いいんじゃない。俺はバイトで参加できないけど」
「ええ、なによ、それぇ」
「ごめん、年末はいろいろあって。じゃぁ」
後姿で手を振ってサッサと帰っちまいやがる。
「去年はケンカまでして手伝ってくれましたのにねぇ(070『いよいよクリスマスイブの集い』)」
「まあ、いいじゃない。集まってから言うつもりだったけど、ノリでやっていこうと思ってたし」
真知子が慰めてくれて気持ちを切り替えて職員室に向かう。
「失礼しまーす、2年3組の時任でーす。花園先生いらっしゃいますかぁ」
ドアを20センチほど開けて、誰に言うともなくエクスキューズしておく。
試験中なんで、生徒の出入りは禁止なので、いちおうの断りを入れる。教頭先生がチラリと見てくれて、これで入室許可をとったことになる。二年の師走ともなると、たいていのことは阿吽の呼吸。
我が担任は、向こうの共用テーブルで監督していたクラスの答案を確認している。
一枚一枚名前と番号を確認して、確認し終えたら、でっかいホッチキスで右上を留めて袋に戻して監督者欄にサイン。そして、テーブルの周囲で待機してる教科の先生に渡して任務終了。
答案をなくしたり間違ったりしないための重要な儀式。この間は生徒ごときが声をかけても相手にはされない。校長が声をかけても「後にしてください」というくらいのものなんだ。
実は、これを承知で職員室に来ている。
試験期間中なので、職員室に長居することもできない。
それで、勝手知ったる花園先生のデスクに、例のお守りをそっと置いておく。
教頭先生は書類仕事やってるし、答案受け渡し以外の先生はほとんどいないし、先生のデスクに0.5秒でお守り置くところを目撃した者は居ない。
静かに頭だけ下げて職員室を出ていく。
誰も気づいてはいない。
これで先生は――いったい誰が!?――と驚きながらも詮索することは無い。
ものが無くなっているのなら大騒ぎだろうけど、落したお守り、それも本来買うはずだった『良縁成就』のお守りなら、少々気味悪くても、ひょっとしたら、神さまのアフターサービス? それとも親切な妖精さん? とか……信じなくても、詮索とかはしないだろう。
一件落着して中庭へ。
作法室前のベンチにお仲間たちが先着している。
「あ、新曲の練習するんですよおー(⌒∇⌒)」
ロコが嬉しそうに手を振って、ヒョコヒョコとベンチの端っこに座る。
「ここで、二三十分歌ってたら、去年を知ってる二三年生なら気づくでしょ」
「一年生は……ほら、もう何人かこっち見てるし」
真知子とたみ子の仕込も余裕の感じ。
いの~ち掛けてと~ 誓った日から~ すてきな思い出~♪
あ、お祖母ちゃんのオハコ!
時どき『あの、すばらしい愛をもう一度ぉ~』のところを何度もリフレイン、というか、ほとんどここしか口ずさまないから、通しては知らない。
子どものころから聞いてるから、わたしにとっても懐メロなんだ。
「アハハ、この春に出た新曲だから、まだ憶えてないんですけどねえ」
ロコが、この一言を言ってくれなかったら「ああ、懐かしいぃ……」と不用意に呟いたかもしれない。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
- 辻本 たみ子 2年3組 副委員長
- 高峰 秀夫 2年3組 委員長
- 吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
- 藤田 勲 2年学年主任
- 先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- 御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
- 早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
- 時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
- 妖・魔物 アキラ
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人