大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・32『再生リボンからいきなりの勝負』

2022-11-26 11:50:26 | 小説6

高校部     

32『再生リボンからいきなりの勝負』 

 

 

「こちらに、青山さんのお店でよろしいでしょうか?」

 

 帳場の女の子が「はい、姓は青山、屋号は肥前屋ですが」と笑顔を向けてくる。

「キャ、かわいい……」

 揃って横に立っている麗二郎、いや麗が恥ずかしくなるほどときめいて、巾着持ったままの手を口元に持っていく。

 カミングアウトしたんじゃねえのか! つっこみたいけど我慢。

「こちらに、おリボン置いてらっしゃるって伺ってきたんですけど」

「あら、よくご存じですね、リボンはこちらです。あまり出ないもんだから、お父さんが奥に引っ込めちゃって……こっちに……」

 左手で袂を押え、身を乗り出してリボンが入った箱に腕を伸ばす。

 うなじと右手の肘から先が露わになる。その色の白さと容の良さに、僕もドキッとする。

 うなじも肘の裏側も、街でも学校でも普通に見てるんだけどね……お祖父ちゃんが言っていた『秘すれば華』という言葉が浮かぶ。

 いやいや、僕まで時めいてどうするんだ(^_^;)

「ご維新も二十五年、そうそう古着も売れないんで、いいところを採って、小間物が作れないかって、取りあえずリボンから初めてみたんです」

 籐籠の中には再生品と言われなければ分からない、きれいなリボンが一クラス分ほど並んでいる。

「左前の打合せとか帯で隠れるところとか、けっこう状態のいい生地が採れるんですよ。古着の売れ残りは、雑巾ぐらいにしかならないんです。西洋じゃパッチワークなんてツギハギが伝統的だったりするんですけどね、日本人は好みません。それで、こんな風に」

「そうですね、古手を粗末に扱えば付喪神(つくもがみ)が祟るって言いますものね」

「あら、女学生さんなのに、古風なことをご存知ね」

「貧乏旗本の裔ですからね、モノは大事にいたします」

「それは、よい心がけですね。わたしも同様ですよ、そして、古いものを新しく。明治を生きる古道具屋の心意気です」

 ポンと、小気味いい音をさせて帯を叩く。

 令和の時代なら中学生かというくらいに小柄な人だけど、言葉や表情が小気味よくって先輩と対等に会話ができている。

「過ぎたお洒落はひかえなくてはいけないんですけど、おリボンぐらいは……女学生の心意気!」

 ポン

 アハハハハ

 先輩も帯を叩いて調子が揃って、店の中に花が咲いたようになる。

 その明るさにつられたのか、数人のお客が店を覗き始め、奥から主人が出てきて対応を始める。

 こういうのも女子力って言うんだろうか、傍で見ているだけで楽しくなってくる。

―― 勝負に出る、お前たちもリボンを手にとれ ――

 え、勝負?

 任務の詳細を聞いていないので面食らう、でも、慣れている「これなんかもいいなあ」と呟いてオレンジ色のリボンを手に取る。麗もエンジ色を髪にかざしている。

「着物との釣り合いを見たいから、表で見比べていいかしら?」

「そうですね、お日様にあてると色合いがかわりますからね」

 四人でウキウキしながら通りに出て、髪にリボンをかざしてみる。

―― 脇に寄れ! ――

 先輩の命令は、いつも突然。反射的に看板の方に身を寄せ、先輩は逆に道の真ん中に近づく。

 ガラス戸を鏡にしてリボンの映り具合を見ている感じになる。

 

 ドン!

 

 通行人とぶつかって先輩が倒れ、通行人の大男がタタラを踏む。

「オウ、コレハ、スミマッセーン」

 大男が片言の日本語で謝りながら先輩に手を差し伸べる。

「いえ、わたしこそ、往来の真ん中で……」

 そこで、先輩と大男の目が合った。

 ドッキン

 アニメならエフェクト付きで心臓の音がしただろう。

 大男は、先輩に一目ぼれしてしまった。

 

―― チ、しまった! ――

 

 先輩の舌打ちが盛大に頭に響いて、僕らは緊急タイムリープした……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 西郷 麗二郎 or 麗           ピボット高校一年三組 
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 


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