あ、新しい言葉創ったのよおおおおおおおお!
真っ赤な顔で、両手をブンブン振りながら綾香は叫ぶ。
俺は反射的にのけ反った! 近場に居ては顔やら肩やら胸やら腕に爪を立てられることは十五年の付き合いで分かっているからだ。
ヨガルという表現は、けっしてヨガをすることではなく、女性が一定の性的興奮状態にあることの形容動詞であると注意した直後の反応なのだ。
「ディするとかチャケバとかコクるとかといっしょのノリ言葉だっつーの!」
マズった、綾香は正面から言うと、事の良し悪しにかかわらずムキになってしまう性質なのだった。
「そ、そんなこと言うおまえこそ、ヘンタイ大魔王だあああああ! これでも食らえええええ!」
ブン!
グエ!!
ブチギレた綾香は座ったままの俺に回し蹴りを食らわせると、そのまま二階に上がっていきやがった。
ティッシュの箱を半分空にして、鼻血を止めたところでスマホが鳴った。
―― ねえ、電話に出ないんだけど ――
すぴかだということは番号で分かってたけど、句読点を入れて十三文字の言葉ですぴかの友情が分かる俺って、どれだけこいつらと仲良しなんだ?
「ちょっとフテちまって二階の部屋に籠ってるよ」
状況をかいつまんで説明してやった。
すぴかは、綾香のブログを読んでいて『ヨガッてるよん(^▽^)/🎵』に気づいて電話をしてきたということだ。
「あなたの言い方もよくなかったんでしょうけど……いいわ、わたしがなんとか……これでいいわ。そっちのタブレットで確かめてみて」
「え……ヨガしてる……に変わった!?」
「つを裏がえして90度傾けて全角にしただけ、それよりも、あの子の部屋エアコン効かないんでしょ、ほっとくと脱水症になるわよ。早く兄妹喧嘩を収めることね。じゃ」
あいつ、なんで人のブログを触れるんだ?
疑問はあったが、脱水症は気を付けてやらなきゃな。
しかし、やさしく言っても効果はない。そんな取り扱いが易しいタマじゃない。頭ごなしは、当然論外。
「おう、ちょっと一子のとこ行ってくる。晩飯は帰ってから作ってやっから……リビングのエアコン切ってねえから……その……帰った時に家が暑いのはやだからよ……じゃな」
玄関のドアを閉めながら――今日も祖母ちゃんの見舞い言えなかったなあ――とため息をつく俺だった。
♡主な登場人物♡
新垣綾香 坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし
新垣亮介 坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし
夢里すぴか 坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止
桜井 薫 坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん
唐沢悦子 エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ
高階真治 亮介の親友
北村一子 亮介の幼なじみ